第五十四話
守護獣(仮)としてはスーのために頑張るべき場面のような、そうでもないような。別に元々は特殊な力が露見した時に、周囲を説得できるだけの成果を上げるって話だったわけで、スーの扱いとしてはスパイツのあとを継げればよかったはずなのだ。
そこにルナリアとの件が絡んで、大人たちが欲を出し始めた。現状維持じゃだめなのかな?
考え事の後はグーっと伸びをして、散策に出かける。妹はいつ頃からか可愛がってくれる数名のところに行って一緒に寝るようになったのであまり部屋に居なくなってしまった。一箇所に留まらないあたりが猫らしい。
俺としてはまた以前のように一人になる時間が増えたことがいいような寂しいような。
途中メイドに挨拶をして今日の妹の成果を受け取る。そして中庭に行ってミミズクの餌やり。こいつも大きくなってきた。
肝心のミミズクによる幸運だが、一年近く経ったのに何もないような。ただただご飯を食べて、時々自分で狩りをして林の主を気取っているだけ。唯一の評価できる点は、俺よりも役に立っていないので見ていると精神的に落ち着くことだろうか。俺にとっての精神安定剤。
建物内に戻ると「アンバー様!」と言われ捕まった。「失礼します」って言いながら脇の下に手を入れられたのだが、急にこんなことするなんて本当に失礼。
どうせ行先はルアナのところでしょって思っていたのに、玄関から出ると馬車の前にいたセーラに預けられた。
セーラはこの一年でさらに成長して高校生から大学生にクラスチェンジした感がある。以前は少女っぽさが残っていたが、ちょっと大人びてきたということだ。この頃の女の子って変わりやすいもんね。俺も学生時代に驚いたものだ。
馬車は動き出す。じっくりコトコトカラカラと運ばれて、着いたのは本館。ルアナのところに行かなかった時点ですでにどこに運ばれるかの察しは付いていたので驚きはない。
最近は扱いが変わってきていて、当たり前のように執務室に入れられる。まるで飼い主が出かけるために閉じ込められる猫のようだ。
「アンバー来たか」
チョコレートを摘みながらこちらに話しかけるカトル爺。ノストスと契約して輸送方法を確立したといっても俺が一度に持ち運べるのはがんばっても両手と前後のリュック程度に過ぎないので、未だにチョコレートは貴重品。それを箱の中から四つも五つも食べているのは何か問題があり悩み事やストレスを感じている証拠。
「エルティガより相談事を受けてな。一緒に考えて欲しい」
カトル爺の話では、エルティガの前当主のおじいちゃんがここのところ体調が芳しくないとのこと。なので現当主から「何か手はないか?」と相談を受けたらしい。エルナードでの実績により頼られたということだね。
でもさ、それって単純に老化によるものじゃないのかな?
どうにかできるもの?
それにみんな体調悪くなりすぎじゃない? 大丈夫?
貴族ってのは庶民が思うより大変なのかもね。ただの贅沢のしすぎかもしれないけどさ。
「ここでエルティガに恩を売っておけば、ルナリア様とスースの婚約の件も有利に働く」
またそれですか。
守護獣という言葉からくる「守護」って面だけを見ると、争いごとに巻き込まれるようなことは控えた方がいい気がするんだよね。ルナリアはいい子だと思うけれど、スーの相手があの子でなければいけない理由は何一つない。
どうでもいいなって気持ちでペロリと舌を出したまま、少しばかりあほな子を演じる。張っている緊張の糸を解すように。これが最近のマイブーム。こうすると相手は気が抜けて、こちらへの要求を諦めてくれたりする。二枚目のクッキーを狙うメイドには効果が抜群なのだ。
「ふむ。あまり乗り気ではなさそうじゃな」
「ミャ」
そうだよ。それはカトル爺やルアナがどうにかする問題。俺だってそこにゴロンしているティトみたいにゆっくりしたいんだ。俺を働かせすぎなのではないですかね!
「これは独り言なんじゃがな、若い頃エルティガの前当主ウスリ殿には世話になっておってな。パーティーなどの集まりの場にて、お互い争う立場だったというのによくライエルの者たちからの嫌がらせから守ってくれておったんじゃ。出来れば何とかしたいのよ」
うわあああ。
やめてください。そういう話は俺に効く。
わかった。わかりましたよ。考えるだけだよ!
カトル爺とも一年以上の付き合いになるし、俺の扱い方をよくわかってらっしゃる。これで嫌な人だったら無視するんだけど、そうじゃないのが困りものなんだよな。




