第四十三話
あんな決意をしたというのに、帰る前になると「やだなー。面倒だなー」と考えるのが俺である。
満月の日を明日に控えた今日。脳内で買い物リストを作成中。ルナリア用の火傷の軟膏に、ついでにカレーのルウなんかもあるといいかもしれない。俺も美味しいカレーが食べたい。あとはルアナに脅され……頼まれているチョコレートか。
小さな俺の首に掛けられるように作られた革の巾着の中をゴソゴソと確認する。ちゃんと預かった金貨が一枚入っていた。帰ったらこれを換金して頼まれているチョコレートに変えなければならない。少なくとも一万円以上にはなると思うので、五千円くらいで買い物して残りは手数料でもらっちゃってもいいよね。うんうん。
「アンバー様。もしやそろそろ行方不明になる時期でございますか?」
巾着を触っていたものだからアミーに気付かれてしまったようだ。まあでも毎回言わずに怒られてたから、伝わったのは良い事だ。
「ミャ!」
肯定の一鳴きを返す。
そうそう。一つ言っておくと、行方不明じゃなくて家出でもないからね。今回はルアナから買い物を頼まれているので、仕入れもしくはお遣いと言ってくれたまえ。立派なお仕事の一環なんですよ。
「でしたら。一つお願いが……」
ん?
アミーからとは珍しい。なんだろうね。
「私にもあの黒い菓子をお願いしたいのです。これで足りますでしょうか?」
差し出されたのはルアナから預かった金貨と同サイズの銀貨。
そういえばいろいろあってアミーにチョコレートあげてなかったような? ちょっと申し訳ない気持ちになってきた。食べたかったんだね。もっと早く言ってくれればよかったのに。
ところで銀貨って換金するといくらなんだろう。シルバーアクセを基準に考えると、そんなに高くないのかな。千円くらい? 高い物もあってピンキリだけど、あれってデザイン料とかブランド価値だよね。
まあ銀貨の価値が低かったとしても普段お世話になってるアミーだからね。ちょっとサービスしてそこそこのを買ってあげよう。補填はルアナの手数料から回せばいいし。そうすれば俺は損しない。完ぺきな計画だ。
「ミャミャ!」
とにかく巾着を開けて銀貨を預かっておきましょう。こうすれば注文を承りましたと間違いなく伝わるはずだ。
「ありがとうございます!」
珍しく感情が表に出ている。今まで見た中で一番のとびっきりの笑顔だ。まだアミーは若いのだからこれくらいの方が女の子らしくてよろしい。猫ボディだから甘えたりしてるけど、人間の時だと話しかけるのも憚られるような高校生か大学生くらいの年齢だもんね。
巾着の中へ硬貨が入れられ、金貨と重なりチャリっと音が鳴った。ちょっと鈍く俗物的な感じだけど、アミーの心を表す喜びの音だと思っておこう。お金が増えて悲しむ人間なんていないだろうし。
深夜になり行動を開始する。まずは屋根の上に移動だ。
見上げると空にはいくつか雲が見えるが、月が隠れるようなことはなく非常に明るい。こんな日に満月を見ていると、叫びたくなってしまうね。迷惑になるのでここではやらないけど。耳に届く葉の擦れる音が勝手に竹と餅つきをするウサギを補完し、脳内で動き始める。日本人なら子供の頃に見たことあるよね。こういうのはいくつになっても残り続けるものだ。
空の景色、満月を楽しんだ後は毎度おなじみの倉庫にしている廃墟へ出発。
到着するといつものようにこの場所の主、黒猫のウルシが迎え入れてくれる。この子も以前よりはふっくらしてきただろうか。よかったよかった。
ただ猫って毛でそう見えても中身は違うなんてことは多々あるんだよね。洗ってやったあととか物凄く縮んで、情けないくらい細い姿になっちゃうし。
毛づやは良さそうだし、とりあえずはオッケーかな。
本当は缶詰めとかで肉類も沢山与えたいのだけれど、この子の能力だと食事用に渡しても開ける時にぶちまけそうで怖いんだよな。だから基本ドライフードばかりになってしまう。
個室に入ると置いてあるトロッとしたおやつをちゅるっと出して舐めさせる。こういう時に超能力ってのは便利。慣れれば人間の手の代わりのように使えるし。強い力ばかりがいいとは限らないってことだ。
それにしても開けようと思えば勝手に開けて食べられるのにウルシはいつもちゃんと俺が来るまで我慢している。やっぱり能力のある猫ってのは賢いんだね。とすればもしかすると俺よりも賢い可能性が!?
いや。人間分俺の方が上のはず。たぶんきっと。




