第四十二話 出来ること
ここ数日悶々としている。
理由はもちろんエルナードでの出来事が原因。
カレー襲撃事件……ではなく、ルナリアの服に飛び散った問題はそれほど大事にはならなかった。それ自体は精々着ていた服の扱いについてだけ。問題はその時見た火傷の痕。そのことがずっと頭の中に残り気になっている。
痛々しいのであまり想像したくないのだけれど、一生残りそうな痕だった。母親のシャスタ曰く「本人の責任」と言っていたのだが、何があったのだろうか。
そしてあの痕がルナリアの年齢からずっと残り続けるとなると可哀想に思える。当時傍にいたメイドはもうクビになっている可能性もあるけれどひどく気を病んだことだろう。
平和ボケした日本人をやっていた俺としては、出来るだけ不幸な人は減らしたいんだよね。「何か出来ないかな?」とさ、思うわけですよ。自分がのんびり何も気にせず生活するためにも必要なプロセスなんです。
「火傷はすごく痛かったの。いっぱい泣いて神様にお願いしたんだよ。でね、痕が残っちゃったけどもう痛くないの!」
小さな子に笑顔でこんなこと言われたら「ウニャニャ!」っと声を張り上げて暴れたくなってしまう。本当にこれでいいのかってさ。
てことで「俺に出来そうなことってなんだろう?」と考え続けているわけ。
火傷と聞いてすぐ思い浮かぶのは、地球の火傷した箇所に他から皮膚を移植って話。あれってどの程度治るのだろうね。そもそも連れて行けないからやるならこちらの世界でってことになるのだが、こっちって手術とかあるのかな?
俺の知る限りこの街に医者っぽい人はいない。ということは居ても一般的ではなく、数が少なかったり教会とか役所みたいな特定の場所で一部の人間だけが治療を受けられるということ。そう考えるとあまり技術が進歩しているとは思えない。よって手術ってのはちょっと現実的じゃなさそう。たぶん。
他の方法というと、以前も考えたことがあるが治療関連の特殊能力持った生物とかかな。いたならすでに試されているって言われればその通りなんだけどさ、やっぱり夢見ちゃうじゃないですか。地球と違ったこんな世界なんだし。
あとは、ポーションね。ポーション。
パッとかけて、シュッと直って、はいキレイキレイってやつ。
ないんだろうな。あっても簡単に手に入らないとかね。
世の中上手くいかないものだ。
ベランダに出て遠くを見つめる。
今日の天気は晴れ。ところどころ雲があって、風が強いからそれがだんだんと姿を変えていく。遠くには緑に覆われた山。それらを見つめていると、自分がとてもちっぽけな存在に感じられる。
猫になり、こちらの世界に来て、超能力を得て結構なんでも出来る気になっていたけれど、最近は自分の能力の低さを実感するばかり。どこにいってしまったのだろうあの時の全能感は……。
ティトやエルゼのような自然さえも変える力があるわけでもなく、出来るのは些細なお手伝いのみ。にゃんだかなあ。
室内に戻ると、壁に飾られた先代様ことアザーの絵が目に入った。
今の俺と似たような姿の君は、何を想いこの場所にいたのだろう。
絵に問いかける。
見つめる俺と違って絵の中のアザー様は自信ありげな表情だ。皆に愛され、一部からは信仰されるまでになった猫の守護獣。やっぱり威厳がある。
だからか不思議と「小さくても出来ることはある」そう言われている気がしてくる。
「ミャアン!」
空も、自然も、生き物も。地球と似たようなものばかりな上に、更に特殊な能力なんてものまであるこの世界。そんななんでも出来そうなこの場所において、俺にしか出来ないこともある。アザー様の絵はそんな気持ちにさせてくれた。
効果が無くてもいい。ほんの少し良くなって喜んでくれればそれでいい。
やることは決まった。
そう思うと、悶々としていた悩みは消えていった。
俺はアンバー。この世界の異分子。
そして時々小さな幸せを運んでくるかわいい猫ちゃんだ。




