第四十話
カレー製作を始めてから数日。
ようやくそれっぽいカレーは完成した!
当初の予定よりも結構な時間を要することになってしまったが、今回食べさせたい相手が相手なだけに安全性、そして味のクオリティなどを高める必要があったからね。そのために時間をかけて努力していた結果。要は必要な時間だったと受け入れよう。おかげでそこそこの完成度になっているしさ。
個人的にはもっととろみが欲しいのだけれど、カレーライスじゃなくてスープの一種として口にするならこれくらいでいいのかな。今回のメインターゲットはエルナードのシャスタなわけだし。
完成したのはめでたい事。しかし問題なのは、ここから。どうやって相手に食べさせるかってこと。
すでにルアナや双子をはじめとしたエルミーナの人々は、毒見役の確認後から口にするようになっている。双子なんかは「おいしい!」って喜んでいるので、この姿を見れただけでも作った甲斐があったってもんだ。
この流れで「体に良い」とお届けするって手段もありだと思うが、直接的すぎて警戒されることも考えられる。それに目に見える形で成果が出ているわけでもないので、体に良いことをアピールしたって説得力にかける。「アンバー様推薦!」なんて謳い文句でどうにかなるほど世の中甘くもない。
スマートなのは食事会を開いてそこで振舞うって方法だけれど、シャスタは病人。声をかけたところで来るはずもない。
最終手段としてレシピを伝えるってのもありなのだが、出来れば秘伝ということにしてこちら側で管理しておきたいところ。もしもこれで成果が何もなければ、ただ美味しい料理の作り方を晒しただけでマイナスにしかならないからね。
ウーバーなんとかや出前ハウスみたいに「お届けにまいりました!」と簡単に渡せれば楽なのになあ。そもそも相手が頼んでないから持って行っても拒否されちゃうか。相手に食べさせるって難しい。それが貴人であるならばなおさらだ。
あっ!
いいことを思い付いた。
「エルミーナからの紹介で来ました! 月に一度の商人です!」っていうムーブはどうだろうか。カイン爺かルアナのお墨付きがあれば会うことが出来そうなのでは!
近いうちにまた満月の日がやってくる。そこで人としてお邪魔すれば……って、そうだった。そもそもエルミーナにすら人である姿を見せていなかった。まず紹介状を準備してもらえない。この方法はなしか。
いい感じだと思ったけど残念。
猫の時に超能力でシャスタの部屋に運んで食べてもらうってのはどうだろう。以前一度会っただけだけど、結構仲良くなっていたと思うんだよね。俺が持っていけば「それは何?」ってくらいにはなるんじゃないだろうか。シャスタ相手なら俺の気持ちが通じるだろうし。
現実的なのはこっちだよな。一度挑戦してみようかな。
善は急げとばかりに翌日小鍋を持って移動を開始。そして数分後逆戻り。
そうだった。近所に持っていく気持ちでいたけど、エルナードの屋敷はすごく遠いんだった。これは超能力を維持し続けるのが厳しい。
これはまた策の練り直しが必要だな。
あーでもない。こーでもないと悩むことそれから二日。
俺はカレーの鍋と共に馬車に揺られエルナードの屋敷を目指していた。
なんで急に?
エルナードの屋敷に着くと謎の歓迎ムードで、前回と同じようにシャスタの前に連れてこられた。未だに説明がない。またこのパターンらしい。
「ルアナさんより体にいいって聞いたのよ。アンバーちゃんが考えてくれたんですってね。もしかして私のため?」
「ミャミャ!」
どうもカレーを食べ始めてからルアナはお通じが良くなったりとか体調が改善されたことを感じていたらしく、それをシャスタに伝えたみたい。こんなにすぐに伝わるとは。奥様ネットワークおそるべし。
シャスタ含むエルナードの方としても、ここまでいろいろ手を尽くして改善されなかったのだから「効果が無いかもしれないが試す価値は……」ということのようだ。あくまで料理だからね。リスクも少なくて受け入れやすいのだろう。
いろいろ頭を悩ませていた期間が無駄になってしまったが、結果オーライということで受け入れますか。俺は器の大きな男なのだ。食べる時の器は小さいけど。
「お待たせいたしました」
「ずいぶんと良い香りね」
おっと。気付けばカレーが届いたみたい。
何はともあれ、シャスタの体調が良くなるといいね。




