第三十八話
あまりあっちの世界に戻りたくない俺は、必死に小さな頭を働かせた。本を広げアミーに読んでもらい情報を集め、結果こちら世界の薬草について知ることになった。少し賢い猫にランクアップだ。
といっても知っている植物と似たようなものも多いので知識の補完に近いものではある。それに載っている数が極端に少なく、情報は秘匿されているということがわかる。だれもが自分の飯の種をわざわざ公開したくない。ここに記されているのは常識として知れ渡っている物ということになる。
じゃあ集めますか!
と気合を入れようとしたところで気付いてしまう。俺が簡単に知ることが出来る情報であればすでにエルナードでも知っているだろうことに……。
「ミャアアン! ミャア」
「アンバー様! どうされましたか⁉」
もしかして無駄な努力だったかもしれないとベッドの上でごろごろと身悶えていると、アミーに見つかってしまった。恥ずかしい……。さっきまで一人だったはずなのにな。おかしいな。
すぐに「何か?」という表情を作り顔を向けると、本気で心配してくれていたのがわかったのでちょっとだけ申し訳ない気持ちになる。
アミーはこちらが怪我でもしたのかと勘違いしたようで、俺を捕まえるとまんべんなく体をチェックしてくれた。大丈夫だよと伝えようとしているのだが、相変わらず肝心なところでは意思疎通が上手くいかない。ただただいっぱい撫でまわされるだけということになってしまった。
解放された俺はばつが悪くなったので館内散策に出かける。
一階に降りて中庭へ移動。そこで噴水に寄って水魚に「ミャア」とこんにちはの挨拶したりしながらうろうろしていると、木々の近くで薬草の一部を見つけてしまう。
なんだか追い打ちをかけられたような気分になり、ベンチで休憩。今日も天気が良いので温かくて気持ちが良い。
ほどほどにリフレッシュができたところで、小腹が空いたので厨房へと向かう。猫になってからは三食がっつりより、どこかの健康を気にする女性のようにちょこちょこ複数回食べたい感じになっているのだ。もしかするとただの食いしん坊になっているだけかもしれないが。
「アンバー様!」
ラーナツの熱烈歓迎を受ける。うっとおしい事もあるが、歓迎されること自体は悪い気はしない。過度のスキンシップもないしね。
「何を召し上がりますか?」
度々訪れるようになっているので、俺がちょっとした物をつまみに来ていることはラーナツも理解している。例の事件でこっちとの意思疎通が多少可能になっているというのもあるのかな。
「こちらアンバー様専用スペースとしましたので遠慮なさらず。ささっどうぞ」
そういってラーナツは料理人専用入り口付近を示す。先日から厨房の配置を変えているのは知っていたが、どうやら一部を俺専用に変更していたらしい。こちらが衛生面を気にしていたので入っていい場所を作ってくれたってことのようだ。地面に板が敷かれているのも高評価。足が汚れにくくて良い。
並んでいる肉や魚、それに野菜を眺めていく。
今日は肉の気分だ。
肉の前でテシテシとアピールすれば、ラーナツが食べやすいように小さくしてくれる。
それにしてもこんなに俺のために用意されていて、予算的な問題含めて怒られないかとラーナツを見れば「残った物は我々使用人が片付けます」と言われた。スタッフが美味しくいただくなら気にしなくてもよさそうなのかな。
「味付けはどうしますか?」
おっとそうだった。肝心の味付けが残っていた。
調味料が置かれた棚を見る。砂糖に塩、油にコショウなども並べられており、中には見慣れぬものもある。
いろいろと匂いを嗅いでみたいところなのだが、それをすると高確率で咳き込む自分が想像できるのでやめておく。無難に塩コショウかな。一応塩は少な目でお願いしますよ。
小腹を満たすと少し中庭で運動した後、部屋へと帰る。
そういえば何か忘れているような気がするが、まあいいだろう。俺は猫なのだ。それに目標は自由な生活。小さなことは気にしないのだ。
それにしても先ほどの肉は美味しかった。次回は違った味付けにも挑戦してみたいところ。醤油があれば良いのだが生憎とこちらでは見かけていない。
わさび醤油とかいいよなあ。あとカレー風味とかもたまにはありか……。
カレー?
思い出した!
カレーって便秘に聞くんじゃなかったっけ!
これをシャスタに食べさせればいいのではないだろうか。薬草ほど扱いを気にする必要もない。なんせカレーは食べ物なのだから。
よーし。いい案が浮かんだぞ。
一回寝て起きたらがんばろう。まずはラーナツと一緒にスパイスを配合するところからだな。俺はカレーの歌を知っているしやれるはずだ!
チョコも安物ならちょこっとだけ残してあるしさ。




