第三十七話
「何かわかったかの?」
「ミャア?」
帰りの馬車でカトル爺に聞かれたが、曖昧な態度で返しておいた。
お腹の張りについては教えてもらえたのだが、それ以上の情報はない。それに本人が知られたくないことだろうし、いくら当主相手だろうと話すわけにはいかない。
「そうか。別の方法を探さねばならんか」
「ミャ」
「となれば出来るだけ早くよくなって欲しいものじゃて」
ちゃんとそういう意識もあるんだなと思い、カトル爺の顔を見上げる。
「意外そうな顔をしておるな。別に相手の不幸を望んでいるわけではない。今回の件にしても、孫を優先して考えただけのことじゃ」
カトル爺の言葉に自分が同じ立場だったらどうしていたかと考える。これは「崖で助けられるのは一人、誰を助けるか」や一時期見かけたトロッコの問題に似ている。今までは野良だったのであまり気にしていなかったが、優先順位ってのは決めていた方がよさそうだ。もしもの時に素早く動けるだろうし。
定期的にガタガタと揺れる馬車は小さな頭をシェイクし、その度に浮かんできた答えを入れ替え続けた。
カトル爺とは本館でお別れ。俺はそのままいつもの別館へと帰ることに。戻ってからも話があるかと思っていたけれど、進展もないし必要ないと思われたのかな。俺としてはそっちの方が楽なので嬉しい。
自室に入りベッドへピョン。ちょっと疲れたので休憩がてら寝るつもり。
少しぐるぐるしていい感じにクッションを調整してからごろり。
寝ようと思ってもやはりシャスタのことが気になる。知るってことは少なからず重さになる。情報としても感情としても……。
とはいえ気にしたところで俺は医者じゃないのでお腹の張りって言われても何もわかりはしない。すぐに思い当ることといえば「便秘」である。男の俺にはあまり縁が無いのだけれど、女性だと多いらしいもんね。一時期コマーシャルでよく流れていたのを覚えている。最近見なくなっていたのは便秘ブームが去ったからだろうか?
「アンバー様」
アミーの声で起こされる。この足音や気配にも慣れてしまい警戒を怠ってしまったようだ。油断し過ぎはよくないので改めなくては。
寝る前に考え事をしていたはずだが脳が疲れて思考することを拒否したためか、いつのまにか脱線し意識を失ってしまったらしい。
「間もなく食事の時間です」
食事は大事ですね。すぐに体を起こして伸びをしながらその時を待つ。
運ばれてきたのは魚の解したやつ。それにちょっとした葉物野菜。時々俺が葉を齧っているのをラーナツが聞いたらしくて食事に追加されるようになっている。肉や魚ばかりだと飽きるのでこういった気遣いはありがたい。できれば米なんかも欲しいのだが、こちらでは食べているのを見たことがない。主食はお約束のパン。いやここだとお貴族様だけあって肉類が普通に出てくるのでパンがおまけか?
はぐはぐあぐあぐと食べ、最後は綺麗に器についた部分を舐め取る。俺はアイスの蓋を舐めても平気な男。これぐらいのことはやる。他人が舐めているのをみると「うーん」くらいに思うのでやるのは自室だけだが。
ごちそうさまの視線をアミーに送った際、ふと考える。
アミーちゃんは便秘大丈夫なのかと。
真剣に見つめていると首を傾げられた。可愛い。
普段はよくこっちの意図を読み取ってくれるのだが、これは不発の模様。まあ仮に伝わってしまった場合「セクハラですよ!」と言われかねない内容なので良かったとも言えるのだが、データとして欲しい俺としては残念でもある。
俺の食べ終わった皿を片付けるため出ていくアミーの背中を見送る。可愛らしいメイドさんだ。
ここには多くの女性が生活している。主にメイドという形で。とすればそれらの人たちを相手に確認してみるのも手かもしれない。ただ直接聞けるわけでもなければ、トイレを見張るなんてこういは以ての外だ。どうすれば知ることが出来るのだろうか。
少し頭を悩ませていると、どうもそれをするよりも便秘薬を手に入れてくる方がずいぶんと楽であることに俺の頭が気付き始める。
それにシャスタが便秘と決まったわけでもない。違っていたらリスクを冒して無駄なことをしていたことになる。
そういえばこちらに治癒してくれる動物はいないのだろうか?
いてもいいような気はするが……どうなんだろ。




