第三十五話 エルナードの守護獣
気づいたらエルナードの屋敷に来ている件について。
なんて小説のタイトルみたいなことを言ってみたが、意図せず連れてこられたのは事実。今朝起きていつも通りにしていたら迎えが来てここに連れ込まれたってわけ。
最初はまたカトル爺のいる本館に向かうのだと思っていた。実際カトル爺の屋敷にも寄ったけど合流したのみでそのままこっちに来たんだよね。結果、あれよあれよという間にってことで、逃げる機会を失ってしまっていた。
「アンバーの顔見せということで訪れておる。頼むぞ」
「ニャア?」
頼むぞって言われてもねえ。前も言ったと思うんですけど、ちゃんと説明が欲しいわけなんですよ。まあ伝わってないので改善されるはずもないんだけど。
「スースもルールーも挨拶の仕方は覚えておるな?」
「はい。カトルおじい様」
俺の時と比べて態度が違うような気がするけど、孫相手だとこんなもんかね。
「ようこそお越しくださいました」
「急なことですまなんだ。ギース殿とエルゼにこの子を紹介したくてな」
「伺っております。どうぞ中へ」
カトル爺の本館よりも大きなエルナードの屋敷は城かと思うような造り。場所はもちろんエルナドの中心にある。
外観は定期的に塗り直しているのか白で統一されており美しい。ただし離れて見ればという話し。目を凝らすとどうしても古さは隠しきれていない。歴史とも味とも言えるのでそれが悪いとは思わないけれど。
一番の特徴は高い塔の存在。見張り目的のものだとは思うのだが、物語などではああいった場所に姫様が閉じ込められていたりするのがお約束。なのでなんだか気になってしまう。
玄関といっていいのかわからない立派な入り口でカトル爺がエルナード執事の人へ来訪理由を告げる。先触れとかあってもやるのが礼儀なのかな。営業の人が他社に訪れる際のあれと似ていて、こういうのはどこでも一緒なんだなと感じた。
「こちらでお待ちください」
談話室に案内されるとホッと一息。何か粗相があってはいけないと俺も緊張していた。偉い人が相手ってのもあるんだけれど、この敷地内に入った時から感じている異様な空気。それが原因。ティトよりも力強いそれは、小さな俺の体がさらに小さくなってしまいそうなほど。
ただこの室内に入ると不思議と軽くなった。防音ならぬ防圧の素材でも使われているのだろうか?
落ち着いてくると好奇心できょろきょろと室内を点検。歩いていても止められないのでここでは自由にしていていいみたいだ。
そんな俺の様子をエルナードのメイドたちは今のところ表情を崩すことなく、無表情もしくは作った笑顔を見せている。普段見ているメイドたちと違うことに若干戸惑ってしまうね。最近では屋敷にて笑顔を向けられアイドルみたいに扱われているわけで、リアクションがないとどうしていいかわからなくなる。
来客用の部屋ということで、高そうな家具類が多いようだ。見ているだけで怖い。アンティークの家具の値段はピンキリであり、俺は目利きは出来ない。ともすれば間違って爪とぎになんて使ってしまった場合、取り返しのつかないことになってしまう。慎重に行動しなければならない。
そうこうしているうちに足音が近づいてきた。そして執事が扉を開くと、そこから中年男性とでっかい生物が入って来る。
「カトル殿。待たせてすまない」
「お久しぶりです。ギース殿」
「ははは。先日会ったばかりではないか」
気安い感じで挨拶を交わす両家の現当主たち。ギース殿と呼ばれているエルナードの当主は、カトル爺よりずいぶんと若い。スパイツよりは上のように見えるので三十代といったところだろうか。なんというか服などの影響で威厳があるが、顔とかはいたって普通。ちょっと意外。
それよりも問題は一緒に入ってきた生物の方。
印象としてはでかいメスライオン。茶色とも黄色ともいえそうな毛色。足が太く体も大きいため、なんとなくカバっぽさも感じさせる。それくらい迫力のあるボディ。
おそらく目の前にいるそれがエルナードの守護獣。エルゼということは室内に入ってくる前から気配で気付いていた。




