第三十四話
視察というなのピクニックは何事もなく終わった。それもそのはず、あそこもエルミーナの敷地内だったのだ。どんだけ広いのよ……。
スーとルーは「また行きたい!」と帰りの馬車で話していた。メイドに一生懸命経験したことを話していたけれど、きっと帰ってからもルアナに同じことをするのかな。あの頃は「あのねあのね」ってやる時期。普段屋敷にいることが多いので大人しいけれど、今回は外に出ているからね。テンションも上がっちゃうってわけだ。
実は俺も今回の視察では、結構テンションが上がった。兵士たちと移動中になんだかとっても良い香りの草を見つけたのだ!
それを嗅ぐと、にゃんにゃんごろごろと体をこすりつけたくなる。本当は持って帰りたかったのだが、泣く泣く諦めることにした。たしかあやつに似た種類は繁殖力がすごくて容易に植えてはダメだった気がするのでね。やるにしても許可がいるだろう。
肝心の切り開いて拡張させる候補地についてだけれど、あそこから南西の辺りを予定しているのだとか。北の方も候補とのことだが、そちら側は勾配のある場所がすぐに来ちゃうみたい。それにそっちはティトがお気に入りなんだって。じゃあ無理だね。
その点南西の方は守護獣のティトの範囲でいうと外縁といえばいいのか、勝手に広がったような部分だとバーマンが話していた。だからティトに遠慮しなくてもいいということ。今後スーたちが慣れてくると見学予定だそうだ。
「おかえりなさいませ」
馬車を降りるとアミーが待っていた。もちろん他にも使用人たちはいる。
アミーが俺を優先してくれるみたいでちょっと嬉しくなっていたら、水場に運ばれた。なんだか思っていたのと違う……。
またしても水で洗われて、吾輩少々不機嫌。たしかに森に入っていろいろな物が付着しておりますので仕方ないのはわかりますが、せめてお湯でですね……。
以前と同じような不満を抱えていると、洗う作業は終わったみたい。布で水気を拭きとられるのはそれほど嫌ではない。なんだか撫でられている感じがするからだ。もしかすると不快でないのは母猫に舐められていた経験からかな。ただ拘束されている感覚がいまいち。洗い手には微妙なバランス感覚が必要とされるのだ。アミーは及第点だね。
翌日。カトル爺からの呼び出し。
「どうじゃった?」
すぐに前回と同じ執務室に呼ばれる。俺もスーたちと一緒に視察に向かったことを聞いたので、すぐに見てきた結果が知りたい様子。孫のことだからか気が早いお爺ちゃんだ。
「ミャ?」
当然話せないので相手の言葉にイエスかノーで仕草をするのみ。
この時間がカトル爺にとって必要なものなのかわからなかったが、途中考えるそぶりも見せていたので無駄ではなかったと思いたい。
「で、ちょっと困った話があってな……」
表情と声のトーンが抑えめになる。きっと今日呼ばれたのはこちらが本命なんだろう。前置きが長かったのはお貴族様ゆえか。
「エルナドの主、エルナードの奥方がここのところ体調を崩されておるようでな。『ここのところ』ということじゃが、こっちの耳に入ってきているということは、実際のところそれなりの期間が経っておるということじゃろうて」
ヘムテイロ氏の講義で学んだが、エルナードっていうのはこの街の王。エルミーナや他の三家からいえば本家にあたる。名前が似てるのもそういうことなんでしょうね。
「これを解決出来れば、大きな功績となる。何かないかの?」
領地を広げるより、身内の健康の方が評価が高いとは恐れ入る。なんとも貴族的というか人間らしいというべきか。
でも解決できるならそちらの方が楽だし、スーの身内としてはそれでいいのではないかとも思える。
でだ。最悪次回満月の日、人に戻った時あっちで薬を用意するっていうのも頭に浮かんできているのだが、肝心の症状がわからない。「体調が悪いです」ってだけ聞かされただけじゃ本職の医者だって困るだろう。彼らは魔法使いではないのだから。
だがお家の問題となれば、中々詳しい情報は出回らないというのが先ほどのカトル爺の話からもわかる。
一度会って話を聞いてみたいような、これはなかったことにして別の成果を求めて活動した方が良いような。
やっぱり偉い人の世界って面倒だ。




