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先代様の置き土産  作者: 鈴寺杏


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第二十八話

 ふわぁと欠伸をしながら目の前の様子を眺める。

 森の中の訓練場では、真剣な表情のスーがいくつか水球を浮かべて動かそうと頑張っていた。


 新たにスーの特訓を見守るという仕事が追加されたわけだが、別段俺が何か出来るわけでもない。仮に言葉を話せたとしてもそれは一緒。これは感覚的なものなので、練習し続けて自分のものにしていくしかないのだ。そういう意味では普段の習いごとと同じ。

 俺がやることといえば、何かあった時に対処するだけ。言わば安全装置のようなものなのである。


「アンバー。はい、あげる」


 スーがいるということはルーもいる。女の子だからスーとは別に覚えることがありそうなものだがなぜか一緒だ。それが双子だからなのか、はたまた別の理由があるのか。俺にはわかりはしない。


 目の前に差し出された物は、花の髪飾り。髪飾りといっても特に加工がされているわけでもなく、ただ摘んだだけのもの。女の子が付ければ可愛いのだろうが、生憎と俺は男。ただし猫なので少しくらいは可愛いかもしれない。


「ミャミャ!」


 疲れの見えてきたスーに対して休憩するように声をかける。これくらいのことはしないとね。先達としてやめ時くらいのアドバイスは可能だ。


 休憩は小屋の中で行われる。先日あんなことがあったばかり。屋根のある場所を選ぶのは当然。もちろん他にも対策はされている。兵士たちの一部は弓を持ち、鳥が襲ってきた場合に対処できるように改善されていた。「以後このような事がないように――」と言いながら、注意を促す書類を回すだけの組織とは違う。


「どうかな? 上手くなってる?」


 スーからこんなことを聞かれるが、正直わからん。

 先ほども語ったが、感覚的なもの。本人が一番よくわかるはずなのだ。他人がわかることといえば、精々動きが滑らかになったとかそれくらい。能力を使って戦うような状況になればまた違うんだろうけど、現在はまだその段階にない。


 しかし成果を確認したい気持ちもわかる。なので「ミャ!」と元気よく鳴いてあげる。不安を解消するのも師匠の務め。


 するとスーは嬉しそうな顔をする。普段頑張り屋の彼なので、きっと褒めて伸ばすのが正解なんだと思う。子供なので時々サボろうとするけど、それはまあしょうがないことだ。


 

 こうした訓練は、日課として毎日行われるようになった。

 そして数日もすればある程度結果が出てくる。特に今は始めたての時期。伸びしろも多く、成長は早い。


 今日は的当ての練習。これもコントロール修行の一環。

 やはり何もない場所で水球を動かし続ける事よりも、的を定めた方が狙って当てるというゲーム性もあり楽しく学べる。点数制にするともっといいかもね。


 これについては当然だれかに説明したわけではなく、超能力を使い丸太を運んで設置しただけ。あとは水球の制御を奪って的に当てて見せれば意味は通じる。


「楽しい!」


 喜ぶスーの姿に俺も嬉しくなり、尻尾はゆらゆらと揺れる。もう少し気分が高揚すれば体が左右に揺れてしまいそうである。


「私もやりたい!」


 一緒に育っているからか、ルーは今のところお淑やかというよりは活発といった感じ。なのでこの発言も頷ける。

 しかしルーは特殊な力が発現していない。布で作ったボールを渡したところでまともに投げることは難しいだろう。それにすぐに代わりとなるものを用意できるわけでもない。


 どうしますか?

 そういった周囲の視線が俺に突き刺さる。すると当然ルーも期待した眼差しでこちらを見る。ルーの悲しそうな顔を見るのは辛いが、俺にも出来ることと出来ないことがある。「ミャア?」と首を傾げわからないふり。


 それだけではいけないとスキンシップでご機嫌取り。今日のところはこれでなんとか我慢していただきたい。


 そういえば、もうすぐまた満月の日がやってくる。

 とすれば人となったその間に何か用意すればいいのではないだろうか。幸いというべきか、すでに俺の能力についてはある程度知られている。お土産で何か持ってきても問題ないだろう。

 

 どういった方法で何を用意すべきか。

 贈り物というのは難しい。普段の座学よりもよほど頭を使わされる。


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