第二十六話
「では、先ほどの経緯を確認します。バーマン」
「はっ!」
突如始まる確認作業。
胸に手をあて一歩前に踏み出したバーマンは語る。
「スース様とルールー様がこの訓練所にて我々と共に体を動かしていたところ、突如鳥たちが襲い掛かってきました」
カラスが急に人を襲うという話は日本でも聞いたことがある。
大人数のところにとなると珍しいとは思うが。
「相手は鳥ですので空を飛んでおり、急なことでそれらに合わせた武装が伴わない我々が手を焼いていたところ、相手がルールー様を狙うような動きを見せました。それを守ろうとなさったスース様が興奮されあの状態になられた。というのが私の認識です」
言い終えたバーマンに対し、ルアナは黙って頷く。
俺としては部屋にいたところを焦るセーラに急に拉致されたものだから、もっと大ごとだと思っていた。だが聞いてみれば案外大したことがない内容だったみたい。子供ながらに襲われた双子は大変だったかもしれないけどね。
セーラは真面目なところがあるので、ルアナからの指示を必死にこなそうとしていたんだろうなというのはなんとなくわかる。でももう少しスマートに連れて来てくれてもよかったんじゃないだろうか。そのおかげでこっちもビックリしちゃったからさ。セーラはまだ若いので慣れるまではしょうがないのかなあ。
で、問題はスーが能力を使ったという部分。ここは見逃せない。
突然呼び出されたので説明がほしいなと思い、ルアナに目を向ける。
普段あまり説明をしてくれない彼女だが、さすがに今回は違うようだ。
「まず最初に言っておきます。ここにいる者の多くは知っていたでしょうがスースには特殊な力が備わっています。これは公表できるものではありません。新たに知ることになった者たちも決して洩らすことのないように」
箝口令。
世間では「人は特殊な力を持たない」とされているなら当然か。
皆の態度を見ている感じスーの力について知らなかったのはメイドの一部くらいのようだ。あと俺もそうだな。
アミーは知っていた側か。「アミーちゃん。中庭では俺に嘘をついたの⁉」なんて場面でもなさそうなので大人しくしておく。視線をおくれば目礼が返ってきたので、俺が言いたいことは伝わったらしい。
「今後についてですが、スースにこの力を使わせないようにするという方法が最も簡単な対処法でしょう。すでにあの子はある程度善悪の判断がつくようになっています。よって言えば理解するでしょう。ですがこの先を考えればこの力を制御できない方がより危険です。よって少しずつ力を制御する方法を覚えさせることとします」
ルアナはそこまで話すとゆっくりとした動きで茶を手に取り口に含んだ。その優雅な仕草は自然と目を惹きつける。
そして訪れるしばしの静寂。
誰も動かない。
「その方法について、具体的な案がある者はいますか?」
微笑みをたたえたまま周囲を見渡すルアナ。
いつもより穏やかなそれが俺としては逆に恐ろしい。
何か言わないといけないような。でも中途半端な案は出せない。
腹から胸の辺りで何かが上下する。
ちょっとだけ「お前が言い出したんやろがい!」って言いたい気持ちがわいてきている。でも言えない。もどかしい。
貴族であればこういった特殊な力に関する情報も持っていそうだが……。
再びの静寂。
周囲の者たちは真剣な表情。考えるような仕草や表情の者もいる。
こういった時間は長く感じる。
誰もが口を閉ざしたままなので「どうなるのかな?」と外から様子を見るような態度で眺める俺。こういうのも他人行儀っていっていいのだろうかね。
そうこうしているとスーが「ううん……」と言いながら目を覚ます。
室内の引き締まった空気が一気に緩むのを感じた。
スーが起きるのを見たルアナが、一瞬だけだが普段あまり見せない穏やかな表情をしているのが見えた。やはり母親。原因がわかっているとはいえ心配していたのだろう。
そんな母子の微笑ましい様子をニヨニヨと見ていると、唐突にルアナがこちらを見て話しかけてきた。
「誰も案がないようね。であればアンバーにお願いすることにしましょう。よろしくねアンバー。明日からのことについてはセルトとバーマンで後ほど決めること。あとは……アミーはアンバーへの説明をしておいて。よろしく」
え? 俺?
先ほどまでの間はなんだったのかといった感じですべてを決め、使用人たちを引き連れスーとルーを伴いその場を去って行くルアナ。それを呆然と見つめる俺。
彼女たちが出て行ったあと「ミャ!? ミャア?」と抗議する俺の声が虚しく響いていた。




