第二十二話 守護獣
今日知り合ったばかりのカトル爺に縋りつく。
だってしょうがないじゃないですか。どうやっても勝てそうにない俺の何倍もの大きさである獣が目の前にいるんですから。
爪を立てないように頑張っているので、そこは評価していただきたい。
執事によって呼ばれてきたティトという存在は、大型のネコ科の動物だった。ライオンや虎にも似てるけど、どれかといえば猫に近い感じがするのでオオヤマネコとかそっち系なんだと思う。
真っ白な毛にところどころ斑点があり、頬付近の毛が長く下に伸びていてそこはちょっとライオンの鬣っぽい。
そんな彼女は室内を見回した後、空いていたソファに身体をあずけた。
で、こっちを凝視してるんですよね。
正直言うと、初めてラーナツを見た時の何倍も恐ろしい。猫としての本能がアラートを鳴らし続けている。
「アンバーよ。彼女がエルミーナの守護獣ティト。それでティトよ。こっちが新しく家族になったアンバーじゃ」
一応カトル爺が紹介してくれたわけだが、ティトはそれに対して反応なし。強大な力を持っているであろう彼女からすると、俺なんて取るに足らない存在なので警戒しているわけではないはず。カトル爺の時のように俺を見定めてるってことなのかも。
こういった場面、猫的服従挨拶よりも人間的な挨拶でいいのだろうか?
猫としての生活ではあまり同族などと関わることは行わないようにしてきた。なのであまり普通というのがわからない。
まあ、今が普通かと言えばそうではないのだが。
お互い人と関わる生活をする身であり、人の言葉を理解する者同士。ならばこれが正解かと思う方法を実施することに。
覚悟を決め、微妙にずらしていた焦点を合わせて「よろしくおねがいします」の想いを込めて一鳴き。
するとティトが応えるようにグルルルと喉を鳴らす。
良かった。平和的な感じで挨拶ができた。
と感じていたのも束の間。何故か俺は自らの意思ではないのにカトル爺の元から離れティトのいる方へと歩き始める。
ちょ、ちょ待てよ!
そんな風に自らにツッコミを入れるが、体は相変わらず思い通りにならない。「ミャ!? ミャア!」と戸惑いと助けを求めるような声を上げるも周囲の助けは得られず。
結果、ティトの目の前に辿り着いてしまった。
こうなればもう諦めの境地。彼女も俺の持つ超能力のように特殊な力を持っているのは間違いなさそうなのだ。今起こった意思に反した行動というのもそれだと思われる。あちらの方が大人であり強い力を持つ。もうなるようにしかならない。
痛い思いをするなら一瞬がいいな。
そう考えながら目を瞑る。
こういった時間は、とても長く感じる。
どうすればよかったのかなど、後悔をしていると近づいてくる気配を感じた。そして何をされるのかと怯える精神状態が自然と体に現れたのか、なんだか顔がぞわぞわする。あとちょっと生臭い。
もしやこれは。
と瞼を開き見ると、目の前には口を開け大きな舌で俺の顔をザリザリと舐めまわすティトの顔があった。
「おおよかった。仲良くしていけそうじゃな」
後ろから暢気なカトル爺の声がして、少しイラっとした。睨みつけてやりたいところだが今の俺にそんな余裕はない。
こちらは生きるか死ぬかくらいの心持ちであったのだ。当主相手に多少悪意を抱いても罰は当たるまい。
そんなこんなでしばらくティトに舐めまわされるのを黙って耐え続けた。あまり慣れていないのもあるし、顔が大きいから必然的に口も大きなわけで。怖いんだよね。
毛づくろいが終わると、グルリと丸くなったティトの体の内側に仕舞われる俺。それはまるで財宝を守る洞窟のドラゴンのよう。
これは気に入ってもらえたと思っても良いはず。ほんのりぬくぬくだ。
身の危険が去ったようなので、ちょっとした考え事。
結局「守護獣」ってのが何なのかがわからない。そのままの意味なら、家を守るための存在。戦力ってことでいいのかな?
先ほど俺も守護獣と言われていた気がする。ペットをそう呼ぶのかとスルーしていたが意外と重大なことだったり?
自分で言うのもなんだが、俺なんかで勤まるのかね。戦力という意味で言うならば、下町で俺の倉庫を守っているあの子の方が上なんだけどな。




