第二十話 接待
太陽により照らされ、その光を受け止めようと懸命に葉を広げる植物たちの姿がよく見える。ところどころ植物のアーチなんかも設置されていて、庭師の腕の良さが素人の俺にもなんとなくは感じるられる。
ここはエルミーナ家の敷地内。今日は中庭ではなく、屋敷の外に出ている。
どこに向かっているかといえば、行先はエルミーナ家の本館。先日スパイツから話のあった当主との顔合わせを行うためだ。
まあ、なんていうかね。
あれですよ。あれ。
俺もエルミーナの一員になったわけですから、当主に顔見せするのは当然というわけでしてね。決してルアナの視線が怖かったとか、頑張ればアミーが褒めてくれそうとかそういう理由で素直に従っているわけではない。
そんなわけで敷地内なのに馬車で移動という非現実的な状況に困惑しつつ、緑を見ることで癒されているというわけなのだ。
今回は屋敷の外ということで、俺が座っているのはいつものアミーではなく捕まった日以来となるセーラの膝の上。セーラの膝も悪くはないが、乗り慣れたアミーの方がなんとなく落ち着く気がする。この子も可愛い女の子なので、贅沢な話なんだけどさ。
正直にいうと、顔合わせ自体はそれほど苦ではない。先日の話からして当主は猫好きであることが窺える。だとすればこの可愛らしい見た目の俺が「にゃんにゃん」と接待してやればそれで済む話のはずなのである。
ではなぜ俺がすでにお疲れモードなのかというと、その原因は乗っている馬車にある。別にすこぶる乗り心地が悪いとかそういうことではない。
なんとこの馬車の外観、まるで遊園地にあるメリーゴーラウンドのようにとってもメルヘンな造りなのだ。
出発の際に屋敷前でこれを見た時の俺は、きっと宇宙猫のような顔をしていたことだろう。
人間(猫)ってあまりにも現実離れした状況になると、脳の処理が追い付かなくなって疲れちゃうんだね。勉強になりました。
ちなみにスーとルーは「わー!」と楽しそうに乗り込んで行ったので、これを贈った双子の祖父である当主の思惑は成功しているということになる。お金持ちの祖父母が孫に高級車買ってあげるようなものと思えばいいのだろうか?
ともかく、庶民として育ってきた俺にはダメージとなったという話。
そんな敷地内専用の馬車にガラガラと揺られながら現実逃避していると、やってきました本館。俺の生活する別館に比べて綺麗な外観のままだからか、なんとなく落ち着かない感じがする。あまり近づいちゃいけないような。
ちなみに猫になったからといって霊感的なものはない。まだ出会ってないだけという可能性は残されているかもしれないが。
入り口前の乗り降りする場所。こういうのをエントランスというのだっただろうか。そこには使用人たちが数名列を成し我々を迎えようとしていた。そして馬車の扉が開かれ降りようとする場面になると、屋敷内より一人の男性が姿を現す。
周囲よりも豪奢な服装をしているその男を見て、さすがの俺でもそれがどういった人物かということはすぐにわかる。彼がエルミーナの現当主なのだろうと。
「よう来た。よう来た」
やや小柄なその男は、スーとルーの双子を大事な物でも抱えるように両手で優しく包み込む。その顔は穏やかで好々爺と表されても不思議ではない。
双子の方も「カトルおじい様」とよく懐いている様子。
そんなほのぼのとした場面をセーラに抱かれたまま見ている俺。微笑ましいが、こういう時って動くわけにもいかないし、少々手持無沙汰である。
周囲の者たちはどうしているのかと視線を巡らせる。微動だにしない様子を見る限りいつもの光景ということなのだろう。慣れていないのは俺ばかりってやつみたい。
ようやくスーとルーが解放されると、当然視線はこちらへと注がれる。
先ほど双子に見せていたのと違う見定めるような鋭い目つき。彼の息子はスパイツでありルアナはその嫁なので血縁はないはずなのだが、彼女と似た圧力を感じる。
こんな時は、伝家の宝刀。首傾げに加えて「ミャ?」と一鳴き。
すると一気に緩んだ顔つきに変わった。どうやらこちらが反応するのを待っていただけだったみたい。
「アンバーと言ったか? よう来た」
一瞬怖い人かと思ったが、どうやらちょろそうで一安心。
引き続きにゃんにゃん接待で好感度を引き上げたいと思う。




