第十九話
ナイフが皿に触れ、カチャカチャと音を奏でる。
ここは夜の食堂。
すでに日が暮れている時間であるが、室内にはランプが置かれているため暗闇というわけではない。日本……いや、地球上では見ることがないであろうそのランプは回転を続けるという変わった構造であり、ひどく特徴的だ。動きの多いそんなランプに慣れない俺としては落ち着かない。
食事に参加しているのは、スーとルーの双子に母親のルアナ。そして久しぶりに見たこの館の真の主、スパイツ。家族四人の中で唯一黒髪でない男。
初期に顔を合わせてからはあまりにも会う機会がなかったので多少心配していたのだが、普段は本館の方で仕事をしているのでいないことが多いということが最近判明した。
この屋敷が古いというかレトロな雰囲気だと感じていたのはそういう理由のようだ。要するに俺の生活するここは旧館なのである。
静かといえど時折家族間での会話はある。あるのだが彼らなんともお上品で一言二言交わせばまた口を閉ざす。これが上流階級のマナーってやつなのだろう。
縁もなく行く機会に恵まれなかったが、高級ホテルのレストランの雰囲気はきっとこういった感じのはず。俺のよく知るファミレスや大衆食堂、居酒屋なんかとはまるで違う。ここにはクチャラーと言われる不快な咀嚼音をさせる者などいない。
普段であれば自室でアミーの見守る中黙々と食事をしている俺。それが今日はなぜか食堂に呼ばれてしまった。
彼らと少し離れた床で、呼ばれた理由もわからない中、ハグハグと黙って食事を続ける俺。なんともシュールな絵面なのではないだろうか。
彼ら食事が終わったかと思えば、優雅にティータイムへ突入。それからしばらくしてようやくリビングへ移動する。もちろん俺も一緒に。「最初からこのタイミングで呼べばよかったのでは?」と思うが、もしかすると何か理由があるのかもしれない。なんせ目の前の彼らは貴族といわれる貴き者たちなのだから。
各自がソファなどにゆったりと腰を下ろすと、メイドたちは新たな飲み物を用意する。双子はこんな時間に水分を多く摂取して夜大丈夫なのかと勝手に心配しながらその様子を眺めていたが、さすがにガブガブと飲むわけではないようだ。口内を湿らせる程度。たったそれだけでも、育ちの良さを感じさせる。
メイドたちが仕事を終え室内から出ていくと、スパイツ一家に使用人の中では執事がセルト含め数名。そこに猫の俺(アミーを添えて)といったメンバーで、ものすごく場違い感。
「実はエルミーナ現当主様よりスースとルールーの呼び出しがあってね」
唐突に始まる会話。
「呼び出し」これに何の意味があるのかわからない。ここに来てまだ一か月程度の俺は、この街に住む貴族について詳しくないのだから。
スパイツが深刻な表情を見せるので「大変ですね」という感じ。
俺は食後なので少し動きたい気分だが、雰囲気的にそれが許される感じはしない。なので大人しくしているので今度は眠くなってしまっている。
「先日お会いしたばかりでしょ? 何かあったの?」
少し空いてルアナがスパイツへ声をかける。その言葉にスパイツは少し困ったような笑みを浮かべた。そして室内に居る者たちへ順番に視線を滑らせていき、最後に俺のところで止まる。
「先日こちらに来られた際、アンバーがいなかっただろ? それで『会えなかった』とひどくがっかりしていてね。ここのところ不機嫌なんだ」
にゃんだと……。
要するにあれかい。双子を呼ぶことで、おまけで俺も連れて来いってことでいいのかな?
なんだか悪いことをして、出頭させられる人のようだ。ちょっと出かけていただけなのに!
あの日普通に会ってたら人間の姿の俺だったんだが? そう考えると俺は悪くないはず。しかしスパイツはそんなこと知らないわけで……。
というか猫に会えなかったから拗ねるってどんな貴族当主なんだと言いたい。病的なネコスキーなおじさんなんだろうか?
どうしていいかわからない。「ミャ?」と鳴いておけばいいのかね。おまけに首も傾けておきましょうか。




