第十八話
「おかえりなさい」
黙って外出した件でルアナに説教されるかと身構えていたが、一言それだけで終わってしまった。とんだ肩透かしを食らった感じ。コミカルなアニメであれば、緊張からピンッと張った髭がへにょへにょとなり体ごと潰れていく俺が描かれることになっていただろう。
ただそう告げた時。冷めた目と僅かに上がった口角により作られた表情。当分忘れることはできそうにない。
俺のイメージする貴族の態度といえばそうなのだが、実際に受けてみるとあれって破壊力がある。圧力ともいえるか。逆らうことを躊躇させる重圧。
普通の猫なら「蛇に睨まれた蛙」状態になるのだろうと想像することは容易い。
ルアナ的には俺がいなくなっても代わりを探せばいいという考えなのだろう。そうなのであればこちらとしても気分的に楽になるが、自分じゃなくてもいいというのは何だか寂しくもあり少々複雑な感情。
そんなルアナに対して双子たちはというと「アンバー!」って嬉しそうに寄って来てくれる。いつもより強く抱きしめられたりするが、この程度のことは甘んじて受け入れよう。
最初は子守りが面倒に感じていたが、慣れてくると意外に苦ではない。そして可愛いとさえ感じる瞬間がある。悪意や裏のない純粋な好意というのは良いものだ。髭を引っ張らなければなお良しってところ。
いつものように妹のルーは俺にお話をしてくれる。俺が出ていた間の出来事についてだ。「おねえさんだもん!」と強調する姿は微笑ましくもある。
どうやらいない間にレッスンを受けた礼儀作法を披露する機会は終わったらしく、また座学の時間が増えるらしい。双子もずいぶんと心配してくれてたようなのでしばらくは付き合ってあげようと思う。
ただ、途中で眠くなって寝てしまっても許してほしい。
双子と共に受ける講義は、新たな知識を得ることが出来るというのがメリットの一つ。
今回も講師はヘムテイロ氏。座学担当なのか基本的に俺が目にすることが多い人物。
「スース様、ルールー様はすでに何度か目にされておられるかと思いますが、こちらがエルナド周辺の地図です。復習を兼ねて説明しますと、エルナード家を中心にライエル、エルティガ、ピュエルマ、エルミーナが四方を守っているわけですが――」
地図ってのはワクワクする。人によるんだろうけど、俺にとってはそう。
授業で使うようなものや、ネットで見ることのできるグルグルマップみたいに詳細な情報を得ることは叶わないが、それでもどの辺りに何があるって知れることは大きい。
そこで得られた情報をもとに、未来の自分の行動を想像するのだ。「あんなところに神社が!」とか「こんなところにお店が!」みたいにね。
そういえば昔は地図が戦においても重要なため、一部の偉い人しか見ることが出来なかったと聞いた時はびっくりしたものだ。何せ俺が生まれた頃には地図は望めば見れる環境だったのだから。
理由を説明されれば納得できるんだけどさ。
といった感じで若干興奮気味に尻尾を立てながら興味深く覗き込んだ地図には、ヘムテイロ氏が言っていた通りエルナド周辺が描かれている。
まず目に入って来るのはもちろんこの街エルナド。エルナード家を中心として四方に各家を配し、この街は守られているというのが一目瞭然である。
以前受けた講義等でエルナードと四家が中心となっているという知識自体はあったがその配置までは知らなかった。
でだ。どう見ても俺のいるエルミーナの地域が一番狭いように見える。一番広いのがライエル。続いてエルティガ、ピュエルマときて、最後が我がエルミーナ。この地図が正しければ他の三家の半分くらいのような……。
これってもしかしてあれかい?
四天王の中でも最弱ってやつだったり?




