第十七話 帰還
満月の日を外で過ごし、日付が変わった後屋敷に戻ってきた。
ひょいひょいと屋根からベランダに降り立ち、室内へ入ろうとしたところ、暗がりの中。そこにはアミーが立っていた。ちょっとした恐怖である。一瞬毛が膨らんでしまった。
しれっと部屋に戻ってベッドで寝る予定だったが、予定通りにはいかない様子。
「お帰りなさいませアンバー様。皆心配しておりました」
アミーが室内よりベランダへの出口を開けて招き入れてくれる。その際に発せられた言葉を耳が受け止める。圧がいつもより強く、冷めたような緊張感も体毛からひしひしと感じ取る。室内に漂う空気感からして怒っていることがありありと感じられた。
「ミャア?」
こういう時は、一度「え? どうしたの?」と誤魔化し時間を稼ぐのだ。考える時間があれば何とかなるかもしれない。嫌われてもよい相手であれば無視するところだが、俺はアミーにそういった態度をとることはできない。
あと可愛らしくされると許してしまいたくなるはず。俺の場合はそうなのだ。アミーもそうであって欲しい。
「今後、外に出る際はお申し付けください。セーラを供に付けますので」
「ミャ、ミャア……」
あ、はい。
有無を言わせぬアミーの雰囲気に、弱弱しく返事をするしかなかった。
まるで夜遊びして戻った子供と、それを叱る母親のような感じ。
たしかに何も言わずに出て行った俺が悪いってのはわかっている。長々と説教されなかっただけマシだったと思うべきだ。
でも一つだけ弁明させて欲しい。
「朝部屋に入って来たら、知らない男がベッドで寝てたらどうなりますか?」ってね。
そうなると、ほら。俺悪くないじゃん。
だから次回も黙って抜け出しますよ。アミーちゃんには悪いけどね。
さすがに二回目ともなると相手も慣れて、怒られるとしても緩い感じになるはず。
「さあ、このような時間ですのでお休みください」
たしかに現在はまだ深夜。
ベッドの方へ行くように促されるので、それに従う。
元々その予定だったし。
いつものように場所を整えてからクルリとまるくなれば、あとは寝るのみなんだけれど、アミーがこちらをずっと見たままで何だか落ち着かない。なので「何?」って感じで見返す。
「ルアナ様の元に赴く朝までは、ここで監視させていただきます」
いやいや。
逃げないのでアミーちゃんも寝てくださいよ。
でもこうなったのは俺のせいでもあるんだよね。困った困った。
立ちっぱなしは大変だろうと、テシテシとベッドを叩き「こちらへどうぞ」と誘ってみる。別に添い寝を期待しているわけではない。
何度か繰り返せば、ため息一つと共に意図を組んでくれて隣に来てくれる。
さすがアミーちゃん。
いつもなら撫でてくれる場面だが、今日はどうやらおあずけの様子。
そこは妥協して、とりあえず寝ることに。
明日ルアナにいろいろ言われそう。
顔を合わせたくない。億劫だ。
でもここで生活するには、そうも言ってられない。
人間と関わるとこういったことが面倒である。
目を覚ませば朝を迎えていた。
結構ぐっすりだったのか、鳥たちのチュンチュンといった声が聞こえてきているのに俺はすぐに目を覚まさなかったらしい。
そういえば隣にアミーがいない。俺が寝た後に帰って寝たのかな?
それならば良いのだが……。
ぼんやりと寝る前のことを思い出す。
昨日は、廃屋の主こと黒猫の『ウルシ』へ食べ物なんかを用意して、夜になると猫に戻ったので屋敷に帰還。
そこで待ち構えていたアミーに見つかって注意を受けたんだっけ。
で、このあとお説教タイムってところか。
返ってきたばかりだが、内容次第ではここを出る決断も視野にいれるべきに思う。
居心地は良いのだが、あまり束縛されるというのはよろしくない。アミーに少し叱られるくらいなら全然平気だけどさ。
そんなことを考えていると、いつもと違う足音。
扉をノックされたあと、何度か見かけているメイドが食事を運んできた。
「どうぞ。お戻りになられたと聞いてラーナツさんがいつもより豪華にしてくれていますよ。昨日なんて自分のせいで出て行ったんじゃないかって酷く悩んでいたんですけどね」
見れば確かにいつもより手の込んだ内容。自然とスンスンと鼻も反応してしまう。鳥の他に魚までついているし、猫用ソースもかかっていて実に美味しそうである。
うーむ。すっかりラーナツのことを忘れていた。
いなくなれば彼がまた悩んでおかしくなる可能性があるのか。
ハグハグと朝食を口にしながら、これからの事を考えていた。




