第十六話 満月の夜に
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深夜に身体が違和感を感じて目を覚ます。
窓の隙間から見える外は普段より明るい。
明後日あたり満月になるようだ。
翌日の夜更け。
多くの者たちが寝静まった頃。
超能力で窓を開け、屋根の上へと飛び上がる。
ちょっとばかり屋敷の外、街中へと出かけるのだ。
見上げれば、ほぼほぼ真ん丸な月が俺を照らし、屋根の上に可愛らしいシルエットを映し出す。小望月というのだったか。他にもいくつか呼び名があったはずだが、同級生の望月が小さなことで揶揄われていた時に覚えたこの言葉が俺の中では一番記憶に残っている。
何も言わず出てきたわけなのだが、これも「家出」ということになるのだろうか?
個人的には単なるお出かけである。
気がかりは俺がいなくなったことでアミーや他の人たちが怒られないか。置手紙でも用意できればいいが、生憎と今の俺は猫。やろうと思えば出来なくはないだろうが、出来たら出来たでそれも問題のはず。
騒ぎにならなければいいな。
明日か明後日には戻る予定なのだから。
久しぶりの外、下町はここしばらく過ごしていた屋敷に比べ臭う。土が舞い埃っぽいだけならまだいい方。
深夜ということもあり、所々酒に酔った人によって汚物のような物が放置されていたりと一部酷い有様だ。夜が明ければ掃除されることになるが、それまでにはまだ時間がありこのままとなる。
これでもスラムと言われるようなところに比べるとずいぶんマシなのである。そこらで倒れている酔っぱらいたちは巡回している衛兵によって保護されることがほとんどだし。
そんな屋敷とは違う懐かしい街の様子を目にしながら、まず目指したのは廃屋。
ここは荷物を預ける倉庫代わりに使っている場所。
一部外壁や柱などが植物の浸食を受けているが、街中ということもあり大したことはない。さすがに庭は草が生え放題といった感じだが、少し頑張れば綺麗にすることも可能だろう。やるかどうかは別問題。この方が良いこともある。
入り口付近に立つと一匹の猫が近づいてくる。
痩せ型のしなやかなボディに赤い瞳。本来は黒いはずの体は、埃や泥のせいか灰色の部分が広がっており、見ているとすぐにでも洗ってやりたくなってくる。きれい好きが多いはずの猫なのに、この子は時々汚れた姿でいることがあるのだ。
そんな彼女は俺の首付近に頭突きの挨拶を繰り返す。親愛の表現のはずだが、結構な勢いのためそれなりの衝撃があり、時折「グフッ」のような声が漏れる。ついでに汚れも付着する。だが怒るに怒れない。
それが終われば案内する様に壁の崩れた場所にある穴から中へと消えていく。当然俺はその後を追うようについて歩く。
建物内は埃っぽく内装に一部崩れている場所も見受けられる。埃などによって足が汚れてしまうことが気になるが今更か。地面を歩いている時も同じようなもの。
奥へ進むと扉が付いた部屋がある。ここは他と違い特別な場所。
超能力で扉を開き室内に入ると、定期的に掃除されていることもあり比較的清潔なまま。ただし空気は淀んでいる。軽く窓を押し、隙間を作る。
そのまま設置されているベッドへ向かってトンと飛び上がると、前足で場所を確認し良さそうなスペースを確保する。そして足りない睡眠時間を補うために眠りにつく。
ここのところ使っていたエルミーナのクッションに比べると質の悪い申し訳程度の敷物であるが、慣れ親しんだ感触と匂いは不快ではない。
こんなところで暢気に寝て大丈夫かと思われそうであるが、元々は野良で生活していたのだ。こういったことには慣れている。屋敷でしばらく堕落していたとはいえ、そこまで鈍ってはいない。そう思いたい。
それにここには先ほどの彼女がいる。この廃屋の主である彼女は、ここを自らの城としており近づく外敵に容赦はしない。
目を覚ますと隣で黒猫の彼女が眠っていた。
しかも俺の股間の辺りで。
もう少し具体的に言えば、人間の足の間。その付け根付近。
普通なら驚く場面なのだろうが、何度目かとなれば「またか」と思う程度となる。人は慣れる生き物なのだから。きっと程よく温かいのだろう。
というわけで俺は一時的に人間の姿に戻っている。
こちら世界の満月の日。
一日だけこうなるのだ。
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