第十四話
僅かに揺れを感じる。
それに合わせて垂れ下がった尻尾はフラフラと左右に動く。
アミーに抱えられるがまま中庭より一度二階へと運ばれた俺は、またしても一階に向けて連れて行かれているところだ。
目的地は厨房。あの怖い見た目のラーナツってやつがいる場所である。
中庭にてスティという女性料理人から相談を受けたアミーは、それが自らの権限では決められないと悟り、俺の主人である双子……の保護者である母ルアナの元へと相談へ向かった。
アミーよりスティの相談内容を聞いたルアナは一言「いいでしょう。許可します」と即座に言い渡し、結果俺は厨房でラーナツのケアをさせられることになってしまった。甘やかしデーだったにも関わらずだ!
これにはさすがの俺も抗議の声を上げた。「ヴゥー!」と威嚇するかのごとく不満を伝えたわけだが、ルアナは「アンバーお願いね」と意に介していない様子でウインクしてきた。
そうなるとこの家で一番強い存在とも言えるルアナに逆らえるはずもなく、不満を抱えたまま指示に従うことになってしまったわけである。決してルアナが双子の母親と言えど二十代前半の黒髪美人であり、ウインクが可愛かったわけではない。絶対にだ!
プンプンと不機嫌な様子は、揺れる尻尾の動きを激しくさせる。
一見機嫌よさそうに見える動きであるが、怒りを周囲に、具体的にはアミーを傷つけないように配慮し、爪を出さない努力をしての結果だ。厨房ヤクザの甘々タイムを邪魔した罪は重い。先日優しくしてやろうかなんて思ったが、前言撤回だ!
厨房入り口にてスティと合流。
彼女が見せてきたのは先ほどの話に出ていた猫の形にカットされた野菜。なんだか無駄にクオリティが高いのだが……。料理主任とか言われていたし、ラーナツはあんな見た目をしているのに持っている技術は素晴らしいということか。
肝心の本人であるが、本日は昼食の準備が早く終わったため一度部屋に戻ったのだとか。
じゃあなんでこのタイミングでここに連れてこられたというのか……。
時間をおいて出直すのも嫌だし待つのも面倒。
となればもういっそ奴の部屋に押しかけてこの件を終わらせてしまった方が楽なのではないだろうかと思い至った。
さっそく実行しようとグニグニと体をくねらせ、俺を抱きかかえるアミーの腕からピョンと飛び降りる。
そして廊下に戻り歩き始めたところではたと気付く。そう。俺はラーナツ氏の部屋を知らないのである。
後ろをついて来ていたアミーの足元を抜け、スティの元へ行き「ミャ! ミャミャ!」と語り掛ける。
「か、かわいい……」
いやいや。お嬢さん。
俺は案内をお願いしてるんですよ。
普段アミーがだいたいのことは察してくれるので当たり前のように話しかけてみたが、どうにも通じている様子はない。
「アンバー様。ラーナツさんの部屋でございましたら、私が案内可能です」
おー! さすがアミー。
ではお願いします。
そうして辿り着いたのは俺がまだ来たことのない区画。
道中受けたアミーからの説明では、男性使用人たちの部屋が集まる場所だそう。なるほど。たしかに女性たちが多いところに比べると華やかさに欠ける感じがする。たぶん廊下に花があるかないかとかその程度の違いなんだろうけど。
ラーナツの部屋の前に来たのでアミーに目配せしてノックを促そうとしたところ、急に扉が開き驚く。
咄嗟にやや後ろに飛び跳ね警戒のポーズ!
「アザー様!」
出てきたのはもちろん目を血走らせたラーナツ。
そしてお約束のように発せられる先代様の名前。
うーん。病んでますね。
来る前から思ってたことなのだが、これって俺が来たからってどうにかなるものなんだろうか?
確かにアニマルセラピーって言葉があるくらいだし、実際癒されるってのはわかるんだが。この人の場合、逆効果だったりしないかね。




