第十二話
このまま二階にいても面白いことはなさそうなので、本日も一階へと移動する。パトロールの続きだ。
フラフラと廊下を歩いていると、以前は閉まっていた部屋の扉が開いていることに気付いた。
そうとなれば覗くのが猫というもの。お邪魔しますと頭の中で言葉にしながら侵入していく。
中に入るとどうやら倉庫だったようで、備品が棚や直接床に置かれている。やや薄暗いのは陽にあたることで劣化するのを防ぐためだろう。現に明り取りの窓は小さく、その周辺には物が少ない。
印象としては、臭くない体育倉庫。ただし多少埃と、袋からなのか独特の植物っぽい臭いはする。
一応ネズミがいないかセンサーを働かせるが、居ないように思う。ネズミだって近くに食糧倉庫があるならばそちらを選ぶだろう。
ネズミがいないとわかったとて、暗くて狭い場所に来れば探検したくなるのが猫の性。ガサガサ、ゴソゴソと狭い場所へ頭から身をねじ込んでいく。
すると視線の先に何かあることに気付いた。
猫の見ている世界は人よりも低い。時々こうして人の気付かない物を見つけることがある。
ちょんちょんと前足で突き安全を確認した後、顔を近づけてよく見てみると草花をあしらったシンプルなデザインの髪留めだった。どうやら誰かさんの落とし物のようだ。
最初虫っぽく見えたと言ったら持ち主を傷つけるだろうか?
そんなことを思いながらも、せっかく見つけたのだから届けてあげようという考えに至る。
カプリと髪留めを咥えると、えっちらおっちらと体を捻りつつバックする。きっと後ろから俺の姿を見た人がいるなら「愛らしい」と思ってくれるに違いない。
さて、これをどこに届けるかだ。
一瞬近くにいる使用人ならだれでも良いのではないかと考えたが、もしこれが価値あるものだったり場合、着服されるかもしれない。きっとそんな人間はここにはいないと思いたいところだが、付き合いが浅い俺には彼ら彼女らの人となりがわからないのだ。
かといってここに交番は存在しない。できれば信用できる相手が望ましい。
そう考えると最初に浮かんだのは、もちろんアミー。階段をピョンピョンと駆け上がり、先ほどのレッスン室を目指す。
辿り着くとレッスン自体は終わっていたようで、室内にはアミーら使用人が数名片づけを行っているところだった。
そんな中、すぐにアミーはこちらに気付いたようでそばに来てくれた。
「アンバー様。いかがなさいました?」
実は俺、見つけちゃいました!
成果は自慢したくなるもの。俺はドヤ顔を決めながらポトリとアミーの前に拾得物を落としアピールする。
「アンバー様。それをどこからお持ちになられたのでしょうか?」
髪留めを拾い上げるアミーの態度は、予想していたものとは違った。どうも俺がどこかからいたずらで持ってきてしまったと思われているみたいだ。
アミーちゃん違うんです!
これ落ちてたんですよ!
必死に伝えようとするが、出てくるのは「ミャ! ミャミャ!」という伝わらない音ばかり。
くそう。しゃべれないことが嘆かわしい。
「こちら私がお預かりしまして、持ち主の元に返させていただきますね。今後はこのようなことをなさいませんようお願いいたします。メッでございます」
俺のアピールは虚しくも勘違いされたまま終わってしまった。これが恋愛ゲームであったならアミーの好感度ゲージはグンと下がったことだろう。
アミーは髪留めをポケットに収めると、片付けに戻ってしまった。
俺はしょんぼりとしたまま部屋に帰ることを選択する。どうもパトロールという気分ではなくなってしまったのだ。
自室に着くと、すぐベッドにピョンと飛び上がり不貞寝を決め込む。窓から見えるのは曇り空。まるで今の俺の気分のようだ。
良い事をしたはず。むしろ褒められるのではないかと期待していただけに気持ち的に落差が大きい。
「メッでございます」は可愛かったなあ。
自らの気持ちを慰めるように、先ほどの出来事でのプラス面を無理やり思い出しながら眠りにつく。明日は晴れるといいなと思いながら。




