第十話
水場でアミーから水魚についての説明を受けていると、衝撃の事実を告げられた。
なんと目の前の水魚とかいうお魚さん、自らが水を生み出すらしいのだ。
まさかこの魚が?
急にファンタジーっぽいことを言われ、うかつにもビックリしてしまった。きっと今の俺の瞳は黒い部分が大きくまん丸に広がっていることだろう。瞳孔が開くってやつだね。
「お話させていただいた通りに、人以外の生物は皆特殊な力を備えていると教えられております。先代様もそうでございましたし、アンバー様もきっと何かお力をお持ちなのではないでしょうか?」
あ。それ聞いちゃいます?
そうです。俺にもすごい能力が備わってるんですよ!
背筋を伸ばし、イケてる猫を表現する。
今回はいつもよりピンと張っている髭がポイント。先が少しカールしている部分もあるが、ちょっとしたおしゃれだと思えば悪くはないはず。
自信のある男性って魅力的に映るらしいとネットや雑誌に書かれているのを以前見かけた。なのでそういった仕草を猫でも取り入れようと水面に映る姿を見ながら練習していた期間がある。
微妙に首の角度を変え、微笑むのがいいんだっけ。
尚、未だにその成果が出た記憶はない。
「アンバー様は見たところ年若いお猫様でございますので、もしかするとまだご自分のお力に気付いてらっしゃらないかもしれませんね」
少しばかりポージングに時間をかけ過ぎてしまったようで、頑張った仕草は違う意味に受け止められたみたいだ。今更ここで俺の能力を披露するっていうのも、ベストなタイミングではないような気がする。機を逃してしまった。
ちなみに俺の能力は『超能力』である。
スーパーな能力だからっていうわけではなく、日本人である自分的理解で言葉にすればそうなる。要するに、念力とかサイコキネシスなんて世間で言われているアレ。
そんな能力。さすがに何のデメリットもなく使えるわけではなく、集中を要したり使用後に疲労感があったりする。それに非常時に使えないとなれば馬鹿としか言いようがないので、普段はあまり使用しないようにしている。ただし高い場所へジャンプする際に補助として利用したりと練習は欠かしていない。
こうした能力であるが、アミーが言うように一生自分の能力に気付かずに終わる場合もあるのだと思う。現に俺の兄妹には能力を使っている様子が見られない個体もいたからだ。
だから自分は特別なんだと思っていた。それがまさか魚にまでそういった特殊な力があるだなんて……。
だって水路で泳ぐ魚を見たとてそれは自然のことで、水を生み出しているなんて気付きもしないのは当然でしょう?
自らが超能力を持っているのに水魚の説明を聞いて驚いていたのは、そういった理由からである。
さて、なぜ俺は自分の能力に気付けたかということだが、母猫が子供たちが遠くに行きすぎると空中に浮かせて回収しているのを見たから。
初めてみたときは非常に驚いた。そして興奮もした。猫ながらに口を大きく開いてぽかーんとしてしまったものだ。自分も体験してみたくてわざと離れようとして怒られたのはいい思い出だ。
そうなれば「もしかして自分もできるのでは?」と思い、試してみるのが日本人というもの。そういった類の小説やアニメを多く子供の頃から目にしているからね。
そしてやってみると出来たという単純な話なのだ。
なので俺は意識すれば大抵の物は自由に動かすことが出来る。もちろんその延長線上として自らの体を浮かせ空中移動を行うことも可能だ。よって自分以上の能力を持つ相手以外からはいつでも逃げることが出来ると思う。
「アンバー様。そろそろお昼時にございます。お戻りになられませんか?」
アミー先生による特別授業を聞き、物思いに耽っているとそんな時間になっていたようだ。周囲の目があるとはいえ、こういった場所での二人きりの時間が名残惜しいが戻ることにする。
部屋を目指し足を動かす。
数歩進んだところで後ろから音が聞こえたので振り返ると、水魚が跳ねる姿が見えた。
何か意味のある行為だったのか、それとも単に空中に浮かぶ虫を捕えるためだったのか。それは俺にはわからないが「また来いよ!」と言ってくれたのだとポジティブニ考える。
一人で「ミャ!」と返事をするように鳴くとまた前を向き歩き始める。
短い初デートだったが、良いデートスポットを見つけたと思えば存外悪くはない。いつの日かあの緑の上で可愛い女の子の膝の上に寝転び休むなんて日が来ればいいなと思う。
思うだけなら自由なのだから。




