冒険者ギルドからの依頼 1
週末、休みのたびに俺は異世界に来ていた。
テレビもスマホも無いけれど、異世界は静かでいいんだよな。
今日は何処かへ行く用事も無い。
ただのんびりするだけで、心が癒される気がする。
しおりもこちらに来ていて、お茶を入れてもらい一緒に飲んでいた。
彼女とは、特に会う約束をしていないが毎週来ている。
「異世界は素朴でいいのよね。人も食材も。今日も何か買っていこうかしら」
こちらの世界は、農薬などが使われていないから野菜の味が違う。
移住したくなる気持ちも分かるな。
そういえば俺たち新婚?だったっけ。
すっかり忘れてたけど。
キイー。
玄関のドアが開いた。
「ただいまー。上原くん、ギルド長から手紙預かってきたよ」
「手紙?俺、宛に?」
一体何だろう?
俺は、安良坂から手紙を受け取った。
封を開け、便箋を開いて目を通す。
達筆な字で文章は書かれていた。
「えっと…冒険者ギルドで、教官をしてほしい…だって?俺は、他人に物を教えた事ないんだが。俺よりは、安良坂が良いんじゃないのか?」
安良坂は、勉強も教えるのが上手かったしな。
「えーそれは直接、ギルド長に言ってよ。あ、いやぼくを推薦されても困るけど…」
安良坂は慌てて否定した。
「とすると、ゆうは、冒険者ギルドに就職するのかしら?それも良いかもしれないわね。雇用が安定していそうだわ。さしずめ公務員というところかしらね」
「公務員?」
「ほら、冒険者ギルドってお仕事を紹介する職業安定所みたいじゃない?そこに勤めるなら公務員かなって」
職安と比べるのはどうかと思うんだけど。
冒険者ギルドか。
近いうちに行こうとは思っていたが。
*
「ウエハラ、よく来てくれた」
ギルド長のカルロスが、冒険者ギルドの入口で俺を見つけて駆け寄ってきた。
まだやるとは一言も言ってないんだけど。
「一応、お話を聞こうと思いまして」
「話し方はいつも通りでいいぞ。今更、畏まられてもこっちの調子が狂う」
バンバンと背中を叩かれる。
俺、アルバイトとかもした事ないんだよな。
面接?とかするのだろうか。
「まあ、中に入ってくれ」
俺は、奥の応接室に通された。
この部屋は数回入った事がある。
何だか緊張するな。
三人掛けのソファに向かい合って座り、カルロスが話し始める。
「ウエハラは、最近は精力的に危険な案件もやってくれているし安心できる。実力があるから、若者の育成に丁度良いと思ってな」
冒険者は怪我をしたりする事が日常茶飯事だ。
高い回復ポーションが買えればいいが、持っていない人も多い。
回復魔法を使える人は限られるしな。
俺たちみたいに、怪我無く戻ってくるとは限らないのだ。
カルロスは、冒険者が無事に帰って来られるようにしたいらしい。
登録したばかりの初心者に指導してもらいたいという。
「俺は他人に魔法や剣の技術を教えた事はないですよ。他の人よりは魔法を多く使えるとは思いますが、それだけです」
元々、女神に貰った魔法だし。
チートスキルだと思う。
「教官は謙虚なくらいが丁度良い。最近の若い者は、傲慢だと付いてこないだろうからな。やってもらいたい大まかな内容はここに書いてある。足りなければ足すなり、引くなり自由にやってもらっても良い。どうだ?やってみないか?」
厚めの冊子を手渡された。
教える内容は自由にして構わないといったところか。
本の中身を見ると、冒険者の心得とか色々書いてあった。
「字を読める者が少なくてな。いつでも閲覧できるようにギルド内に置いてはあるのだが。せっかく作ったのだが意味がない」
どうやら思っていた内容とは少し違ったようだ。
初心者相手に、心構えとか注意点を教えるくらいで良いらしい。
「少し、考えさせてもらっていいですか」
俺は冊子を持ち帰り、考える事にした。
家に帰って、しおりと安良坂に冊子を見せた。
「冒険者ギルドの件、保留にしたの?」
「えー?上原くんの事だから即決してくると思ってたよ」
「ああ、まだ高校に通わないといけないからな。仕事をするとなると、毎日行かないといけないだろう?」
「「確かに」」
俺たちはまだ高校生なのだ。
卒業したら、ギルドで働くのも良いのかもしれないが。




