病院
「おはよう~」
夏休みもあけて、新学期が始まった。
俺は隣の席を見ていた。
しおりはまだ学校に来ていない。
いつも早めに登校するのに珍しいな。
「「上原くん!!」」
慌てて、安良坂が教室に入ってきた。
まだHRも始まっていない。
「お前、どうしたんだ?クラス違うのに」
「黒田さんが…車に…」
「え?」
しおりがどうしたって?
「今、救急車で病院に運ばれていて…」
「連れて行ってくれ」
「ああ…うん」
俺と安良坂は教室を出た。
廊下で、教室に入ろうとする担任の先生にすれ違った。
俺たちは「黒田さんが入院したから病院へ行ってくる」と言い残し学校を後にした。
*
「一体どうなっているんだ?」
「ぼくも詳しい事は分からないけど、子供を助けようとしたみたい」
俺たちは魔法を使えるが、超人という訳ではない。
普通に怪我するし、病気もする。
ただ魔法が使えるだけ。
車にはねられれば、下手すれば死んでしまう事もあり得るのだ。
「いくら回復魔法を使えるとはいっても、自分が怪我すれば意味ないじゃないか」
しおりは近くの総合病院に運ばれていた。
玄関から入り廊下を歩いていると。
「あら、貴方上原くんよね?」
以前しおりの家で会ったしおりの母親に声をかけられた。
看護師の白い制服を着ている。
しおりの母親の勤務先の病院だったようだ。
「しおりは三階の101号室にいるわ。わたしも後から行くから行ってあげて」
「ありがとうございます」
俺と安良坂は頭を下げ、エレベーターへと向かった。
*
「しおり……」
彼女は白いベッドに静かに横たわっていた。
ただ安らかに眠っているように見える。
幾つかの管が体中に繋がれていて、点滴や機械に繋がれていた。
ドラマで見たような光景。
機械の画面には波が映し出されていた。
ぼーっと見ていると、後からしおりの母親が入ってきた。
「しおりね、意識不明の重症なの。目を覚ますか解らなくて。体は不思議と傷ついていないのだけどね」
「何で…」
また元気に会えると思っていたのに。
このまま死んでしまうかもしれないなんて。
回復魔法を使える本人が、意識不明じゃどうしようもないじゃないか。
涙がぽつりと滴り落ちた。
「上原くん…あの」
安良坂が何か言いたげな顔をしている。
元気を出してと励ますつもりだろうか?
「励ましはいらない…」
ただ傍にいてくれるだけで良かったのに。
「結婚…なんて…できな…じゃ…かよ」
涙で言葉をうまく出せない。
「一緒に…暮らすの…が…それも…」
「上原くん、少し外に出よう」
涙で目の前がかすむ。
安良坂に言われて、俺は外に出た。
病室に居ても何もできない。
俺は無力なのだと思い知った。
病院の中庭のベンチに、俺と安良坂は座っていた。
「ぼく、回復魔法を使えるんだ」
「は?」
「以前、女神さまに貰ったの憶えてる?」
回復魔法?
女神?
えっと何だっけ。
頭が働かない。
「上原くん、しっかりしてよ。病室に人が居る時は出来ないけど、ぼくが黒田さんに回復魔法をかければきっと意識を取り戻すと思うんだ」
「お前、しおりを助けられるのか?」
「さっきからそう言ってるじゃないか。しっかりしてよ」
朦朧とする意識がハッキリしてきた。
「そうか、しおりは助かるんだ…」
絶望的だと思っていたが、安良坂が回復魔法を使えるらしい。
「使うのは初めてだけどね」
「そうか」
幸いにも個室なので他の患者はいない。
看護師や医師が居ないタイミングで魔法を使うしかないだろう。
「安良坂!戻るぞ」
俺は安良坂を引っ張り、しおりの眠る病室へ向かった。




