言語翻訳の魔法
「言語翻訳の魔法を知っているかですって?」
俺たちは家に帰ってしおりに訊いてみた。
彼女はリビングで寛いでお茶を飲んでいた。
「聞いた事ないけど…あるのかしら」
しおりはアイテムボックスから、分厚い魔法書を取り出してテーブルの上に載せる。
よくみると付箋が沢山付けられているな。
ぱらぱらとページをめくるしおり。
「魔法薬、補助魔法、翻訳?…んー見つからないわね。ラノベとかだと、教会とかで力のある魔術師が、何らかの魔法をかけるのを読んだ事があるけど…」
「「それだ!」」
「ええ?でもそれは本の中でのお話よ?実際にあるとは限らないのだし」
「ゆかりを連れて、教会へ行ってみよう。何かしらヒントがあるかもしれない」
*
「お兄、私は何でこんな所に連れて来られたのかな?」
ゆかりがジト目で俺を見ている。
俺たちは、転移魔法を使って教会の目の前に居た。
善は急げという事で、ゆかりに説明もしないで強引に連れてきてしまった。
「すまん。先に言っておくべきだったな。この世界に来て色々と不便だろう?教会に来れば何か解決策があると思ってだな…」
はぁー。
ゆかりはため息をついた。
「言葉が通じないって事?確かに不便だけど、何とか生活できるから大丈夫なのに」
「てっきり、説明をしてから連れてきたのだと思ったわ」
「お兄のいつもの事ですよ。思ったら考えなしに行動するところとか。振り回される方は堪ったものじゃないけど」
「あの、教会に何か御用でしょうか」
教会の入口で話してたら、教会のドアが開いた。
黒いスーツ姿のココアさんだ。
この間結婚式でお世話になった人だった。
*
ココアさんに事情を話し、神官に取り次いでもらった。
結婚式でお世話になった神父ではなく、神官。
どうやらこの教会で、一番上の立場の人のようだ。
着ている服も細かい刺繍が入っていて豪華な感じがする。
「残念ながら、そのような魔法は無いと思われます。聞いた事もありません。みな努力して言語を習得していますからね。
……そうだ。もしよろしかったら、祭壇で女神さまに祈ってみてはいかがでしょうか?」
「祈る?」
「はい。貴方がたは、女神さまと少なからず縁がおありのようなので、願い事を聞いて頂けるかもしれませんよ」
安良坂は、女神は俺たちを見ているらしいと言っていた。
今も俺たちの事を見ているのだろうか。
リリア・ホワイトの女神像が置かれている祭壇の前に行き、俺たちはしばらく祈りを捧げた。
程なくして、金髪の美女が現れる。
『わたくしを呼びましたか?』
鈴の音ような声が響き渡る。
女神リリア・ホワイトが目の前に立っていた。
「まさか、本当に来るとは思わなかったな」
「め、女神さま!ほ、本当に?」
本当に現れるとは思っていなかったのだろう。
神官は腰を抜かして驚いている。
立てなくなってしまったようだ。
『一応呼ばれましたので。貴方の妹、ゆかりさんでしたか。言葉が解るようになればいいのですね?せっかくなので、他に魔法が使えるようにしましょうか』
頼んでもいないのに、出血大サービスだ。
女神はゆかりの両手を取り包み込む。
次の瞬間、ゆかりは柔らかい光に包まれていた。
「何これ、体が…温かい」
『これで、言葉が解るようになったはずです。貴方たちには、色々と迷惑をかけましたからね。何かあったらまた呼んでくれて構いませんよ』
「女神さま、ありがとうございます!」
ゆかりは頭を下げた。
「ああ…目の前に本当にリリア・ホワイトさまが…」
神官は夢を見ているような、うつろな表情を浮かべていた。
「あっ!本当に言葉が解る!凄い」
「良かったね」
ゆかりは嬉しさのあまり飛び跳ねていて、その様子を安良坂は穏やかに見つめている。
女神は微笑んで、いつの間にか姿が消えていた。




