薬草摘み
「久しぶりに冒険者ギルドへ行かない?最近、体を動かさないから鈍っちゃってさ」
俺は、安良坂に声をかけられる。
家のリビングで、彼は腕をぐるぐると回してストレッチをしていた。
彼が何故か、女神さまから銀の指輪を貰って数日。
ちょくちょく異世界の俺の家に来るようになった。
「力があるんだから使わないと勿体ないよ」
「それもそうだな。そういえば、お前何か探しているのか?昨日は本屋に行っていたらしいけど」
「え?えっと…良い魔法があったらいいなと思って」
「何の魔法?」
一通りの魔法が使えるはずだが、いまさら何を憶えたいのだろう?
「他言語の…翻訳が出来そうな魔法」
「ゆかりの為か。お前、そんなに…ゆかりの事好きなんだな」
俺たちは異世界召喚された時、女神から言語が通じるようにスキルを与えられていた。
だが、一般人のゆかりは言葉が全く解らないからな。
「え…えっと…」
安良坂の顔は真っ赤になっている。
「ゆかりさんの、力になりたいと思って。言葉が解らないと買い物も不便だから」
ゆかりは言葉が解らないので、買い物も身振り手振りで何とかやっているらしい。
俺が海外に行ったら同じ事をするのだろう。
一から言語を憶えるにはかなり大変だろうからな。
英語と違い、勉強するための本も無い。
「もしかしてギルドへ行くのは、その情報収集の為か?」
「それもあるけど…。体が鈍っているのは本当の事だし」
「そうか。たまには体を動かした方が良いよな」
夏休みの宿題を終えた俺は、安良坂に付き合う事にしたのだった。
「ウエハラ様、ようやく仕事する気になりましたか!」
冒険者ギルドへ行くと、ラナさんに声をかけられた。
俺たちは登録をしていたが、まだ一件も依頼をやっていなかったな。
「来てくれて良かったです。何もしないと冒険者の資格が消えてしまいますからね」
「そうだったのか」
「そうですよ。結婚なさったのだし、バリバリ働いてもらわないと」
「えええ…」
別にバリバリ働かなくても良いのだが。
という事は、しおりも連れて来ないとダメって事じゃないか。
「ぼくとウエハラくんで出来るお仕事ありますかね?」
安良坂はやる気満々のようだ。
「おう。丁度良いじゃないか。あれやってもらって。やる人が居なくて困っていた依頼があるだろ」
ちょうど通りかかった、ギルド長がラナさんに指図する。
「え?あれですか?割に合わないってみな引き受けないんですよ。良いのかなぁ…」
俺と安良坂はラナさんにその依頼を受けさせてもらう事にした。
*
「割に合わない…か。確かに危険ではあるよね」
俺と安良坂は、とある山に来ていた。
山の崖に生えている草の花を取るために。
名前は白雪草という真っ白い花が咲く草花。
雪が積もる高い場所にしか生えないそうだ。
場所が場所なだけに、普通の冒険者でも足を踏み外すと落下して大怪我をする。
切り立った崖にしか生えない野草。
だが、俺と安良坂ならば問題ない。
二人とも風魔法を使って、空中に自由に浮かんでいられるからな。
「魔法の薬ができるらしいね」
「何の薬なんだか」
綿のような不思議な形をした花びら。
空中に浮かび、崖に生えている花を茎からキレイに切り取る。
そうすることで、また別の場所から生えてくるからだ。
根絶やしにしないように。
摘んだ花からは、甘いほのかにいい香りがした。
「楽勝すぎて申し訳ないな。これで銀貨10枚だっけ」
「ぼくたちには楽勝だけど、普通は山に登って採るから命がけだよね」
「採ってきたぞ」
俺はアイテムボックスから、白雪草を出した。
丁寧にカウンターに並べる。
「えっ?もう?まだ一時間も経っていませんよ?」
ラナさんは目をぱちくりさせていた。
今採ってきた花を丹念に調べている。
「…確かに、白雪草で間違いはないようです。クアット山は、慣れた冒険者でも二・三日かかるんですよ?何でこんなに早いんですか」
「俺たちは、空を飛んで向かったから早かったのだろうな」
「…お二人を常識の範囲内で考えたのが間違いでした。ブラックカード持ちでしたものね」
ラナさんは苦笑いを浮かべていた。
「銀貨30枚です。確認してください」
ラナさんがトレーに銀貨を並べた。
「あれ、ずいぶん多くないか?」
「鮮度がいいですし、花も多めでしたのでサービスです」
「ありがとう。安良坂、半分に分けよう。しおりも連れてくれば良かったかな。全然危なく無かったし」
「彼女もギルドの仕事してないんだっけ。高いお金払ったから、カードの資格が消えるのはもったいないよね」
あれ?
俺は思い出した。
「安良坂、しおりに訊いてみたか?」
「黒田さん?」
思い出した。
魔法書で詳しそうなのが身近に居たではないか。
「古めかしい魔法書をしおりが持ってる。もしかしたら言語習得の魔法も載っているかもしれない」




