ギルド長と辺境伯令嬢
「「け、結婚!?」」
ゆかりの声がダイニングに響いた。
夕飯時に言う話題でも無かったか。
今日の夕飯はカレーで、部屋中に香りが漂っている。
「そんなに驚かなくても…」
黄色いカレーをスプーンですくって、一口食べた。
ジャガイモがゴロゴロしているな。
肉は入って無いのだろうか。
「驚くわよ。今の…聞き間違えじゃないわよね?」
ゆかりの声のトーンが大きくなっている。
「間違えていない。俺としおりは結婚する。だが異世界での話だ」
こちらの世界では、そもそも年齢が達していない。
確か親の許可が無いと、結婚できないんじゃなかったっけ?
「お兄、急に何でそんな事になっているの?」
「俺も詳しくは知らないのだが…しおりが、以前召喚された国の王子にしつこく付きまとわれたらしい。結婚すれば、しおりを諦めてくれるのではと言っていたんだ」
強引な事はしないとは思うが、王族だ。
無理やりにでも、しおりを連れて行くことも出来てしまう。
「そうなんだ。異世界ね~。今度、私も連れて行ってよ」
「えっ?向こうは治安が悪いから危ないぞ」
「安良坂くんに、守ってもらうから大丈夫だよ。それに結婚式見に行きたいし」
ゆかりはようやくカレーを食べ始めた。
安良坂には、また迷惑をかけるな。
俺たちが異世界に行っている間、彼はゆかりと随分仲良くなっているらしい。
一緒に行くのをお願いしても、多分断らないだろう。
*
俺と安良坂は屋上に居た。
昼休み、学校の校庭では男子がサッカーをやっている。
もう少しすれば夏休みだ。
「君たち結婚するんだって?気が早いね。ゆかりちゃんから聞いたよ。でも15歳って結婚できるんだっけ?」
安良坂は、床に座って焼きそばパンを食べていた。
足元には紙パックのカフェオレが置いてある。
「ここでじゃない。異世界での話だ」
「ふうん。異世界なんだ。でも、ゆくゆくは移住するんだよね?」
カフェオレをストローで飲む安良坂。
「なあ、これ両親に言ったほうが良いと思うか?」
「え…どうなんだろうね。こちらの世界で結婚するならまだしも。そもそもご両親に異世界の話もしてないのでしょ?」
両親はそもそも日本に居ないからなぁ。
何か月に一回は帰って来るのだけど。
「実はお前に頼みたいことがあってさ…ゆかりも一緒に異世界に行きたいって言っていて。悪いが、あいつの面倒を見てやってくれないか」
「異世界は治安が悪いもんね。良いよ。任せておいてよ」
*** バコダ町 冒険者ギルド長視点
おれは、冒険者ギルドのギルド長室で仕事をしていた。
コンコンコン。
「失礼します。王家の使いの者だそうですが、お通ししますか?」
「王家の使い?分かった。すぐお通ししろ」
「クロダ様がこちらに来たことは分かっております。居場所を教えてもらえませんか?」
おれはまだ報告をしていない。
何故、バレている?
おれは彼らが結婚した後、報告をするつもりだった。
もしかすると、他にもウエハラたちの事を知っている者がいるのだろうか。
実際居場所を知らないので、知らないと返答した。
その後直ぐに戻ったようだったが。
少しして、妙な来客があった。
「ギルド長、オリビア・スターマルク様がお会いしたいと言っておりますが」
「辺境伯の御令嬢?」
普段全く面識がない人物だ。
「分かった、こちらにお通ししなさい」
*
「いきなり来てすまない。僕は、オリビア・スターマルクだ。ウエハラとクロダは知っているだろうか?」
赤髪のオリビアはギルド長室へ入り、噂の二人の名をあげた。
「何事でしょうかな?」
「こちらに登録に来たはずだ。僕の不手際で、二人の事が王家に知られることになってしまい…直ぐに連絡を取りたいのだが」
彼女は確か御令嬢のはずだが。
王都では、女性が男性の恰好をするのが流行っているのだろうか?
まあ、今はどうでもいいが。
「そうですか。そのような者の居場所は知りませんな」
この人がウエハラたちを知っていたのか。
勇者と聖女という事を?
「居場所を知ったら、どうするおつもりですか?」
「…直接会って、話をしたいと思っている」
もしかして彼女は、彼らを匿おうとしているのだろうか?
匿ったら、王家に逆らう者として下手したら反逆罪になりかねない。
いくら辺境伯だと言ってもだ。
「彼らとお知り合いのご様子ですが、下手な事をなさらないほうが賢明かと存じます」
「そんな事は…分かっているさ」
彼女は窓の外を遠く眺めていた。




