森とピクニック
「「うわあー凄いな。何だこれ」」
異世界に来た俺たちは、森の全体を見るために上空を飛んでいた。
見渡す限り周り、広大な森林が広がっている。
村などの集落は見当たらない。
「森はどこまで続いているんだろう…しおり、世界地図には町や村の情報は載っていないのか?」
「実際に行かないと記載されないみたい。ある意味ゲームと同じよね」
そういえば、ここには小屋がある。
最初は不思議に思わなかったけど、小屋があるって事は人が何処かに居るはずだよな?
近くに住んでいるのだろうか?
「指輪で元の世界にいつでも戻れるのだし。行けるところまで行ってみない?」
ここにも魔物は居るのだろうか?
初めての場所は少し怖い。
「しおりは怖くないのか?」
「怖い?わたしが?そうねー。怖いって言うより、好奇心の方が強いのかも。とってもワクワクしてるんだもん」
彼女は思っていたよりも、逞しいらしい。
「移動は歩く?それとも空を飛ぶ?」
「念の為、歩いた方が良いかもな」
出来るだけ魔力は温存したほうが良い。
何があるか分からないからな。
俺たちは空中から地面に降りた。
「一応テントとかも持ってきた。食料もあるし…キャンプみたいだな」
手ぶらで動けるし、アイテムボックスはこういう時に便利だ。
*
「疲れたーそろそろ休憩しない?」
しおりは、ペットボトルの水を飲みながら、木の幹に寄りかかっている。
歩いて汗だくになっていた。
暖かい気候で少し暑いくらいだ。
腕時計を見るといつの間にか、十二時近くになっていた。
「そういえば腹が減ったな。ご飯の用意するか」
俺はアイテムボックスから、レジャーシートを取り出し地面の上に敷いた。
続いて缶詰をいくつか取り出す。
サバの味噌味、サバの塩味、サバの醤油味、焼き鳥の缶詰、果物の缶詰…。
よく見たらサバばっかりだ。
「缶詰ね」
「好みが分からないから、スーパーで適当に買ってきた。ネットで揃えれば良かったか」
調理しないで食べられるから缶詰にしたのだが。
パカッ。
塩味のサバの缶詰を手に取り開けた。
開けてから気が付く。
あ、はし忘れた。
「お箸なら持ってきたわよ。わりばしだけど。もしかしてお皿も無いんじゃない?」
「直で食べるならお皿は使わないだろ?」
「お皿あるわよ」
しおりはアイテムボックスから、わりばし、紙の皿、炊飯器を取り出した。
「炊飯器ごと持ってきたのか…」
「アイテムボックスは時間が止まっているから、保存しておくのに適しているのよ」
炊飯器を開けると、湯気が立ち上がり米の良い匂いがする。
しおりは、しゃもじで紙のお皿に米をよそった。
「はい、どうぞ」
「まさか、温かい米が食べられるなんて…」
「大げさねえ。炊いて持ってきただけなんだから」
水は魔法で出せるが、食料は出せないからな。
この世界にある木の実や動物を食べるしかない。
あれ、もしかして缶詰じゃなくて、お惣菜や弁当をアイテムボックスに入れてくるだけで良かったのでは?
今更、気が付いても遅いけど。
「…美味しい」
普通の魚の缶詰なのに。
ご飯も甘く感じる。
「ご飯って外で食べると美味しくなるわよね。ここは空気も良いし」
黙って座っていると、ピクニックにでも来た気分になる。
歩いている時には気にしなかったけど、野鳥の声が遠くから聞こえていた。
火照った体に風も心地いい。
「外で二人っきりとか遠足以来かな?」
「遠足の時は他に大勢いたじゃない。ピクニックデートっていうのもいいわね」
*
俺たちは、いったん小屋に戻ることにした。
『転移魔法』
転移魔法で、小屋まで戻った。
一度行った場所なら、転移魔法で移動することが出来る。
「小屋の掃除をするか。床は埃だらけだな」
テントを持ってきたけど、小屋の方が耐久性が高いだろうし、折角あるのに使わない手はない。
ドアを開けて、室内で風魔法を使う。
『風よ』
つむじ風が小屋の中をくるくると回る。
意外と細かい操作が難しい。
床のゴミを外に出すつもりだったのだけど。
「コホッ、ちょっと埃が舞い上がるじゃないの」
「悪い。思ったより上手く出来ないな」
しおりが咳き込んでいる。
風魔法は、室内をただかき回しただけだったようだ。
「やっぱり、何でも魔法でって訳にはいかないわね。ちょっと家に戻って、ホウキ持ってくるわ」
『時空間移動魔法』
「あ、おい…」
止める間もなく、しおりは魔法で元の世界に戻ってしまった。
…また戻ってくるよな?
俺は、物凄く不安になってきてしまった。
しばらくすると、しおりがホウキを持って現れた。
良かった戻ってきて。
俺はホッとしていた。
「ただいま…帰ったら、母に怒られちゃった。炊飯器返せって…」
「…そんな事だろうと思ったよ。持って行くなら保存容器に詰めないとな」
「うん…そう言われた。って…ゆう?どうしたの?」
俺はしおりをギュッと抱きしめる。
温かい温もりを感じてようやく安心する。
「…急にしおりがいなくなって、不安になった…俺を置いて行くなよ」
「そっか、ごめんなさい。これからは一緒に行くようにするね」
「うん…」
俺は異世界に行って、魔法を得て強くなったと思ったけど、そうでもなかったようだ。
しおりが居なくなるだけでこんなにも不安になる。
「お詫びにって訳じゃないけど、戻った時にケーキ買ってきたの。一緒に食べよ?」
ペットボトルの冷たいコーヒーとチーズケーキ。
チーズケーキは甘くて、疲れた体と心が癒される気がした。




