お兄の友達
教室にある、壁掛け時計の時刻を見る。
今日のHRが終われば学校は終わりだ。
俺は彼女に話しかけた。
「黒田さん、あの…」
「えっと、付き合っているのだから栞って呼んでほしいかな」
「し、しおり…」
「はい。勇くん」
「ゆうくん?」
「あれ?名前違ったっけ?勇者のゆうくん」
「間違ってはいないけど…」
俺の本名は上原勇。
勇者の勇だ。
子供の頃、その名前の所為で散々揶揄われたんだよな。
親以外から言われるのって、何だか慣れなくて恥ずかしい。
「良いじゃない。名前呼びの方が彼氏って感じするし」
俺の気持ちを知ってか知らずか、しおりは強引に押し通してくる。
「ゆうでいいよ。何だか小学生以来で恥ずかしいな」
「わたしも名前で呼ばれると恥ずかしいよ?家族以外で言われた事ないんだからね」
しおりの頬がほんのり赤くなった。
メッチャ可愛い。
「お前らって本当に仲が良いよな~カップルみたいで」
麻木が会話に入ってきた。
あの事件の一件以来、何故か普通に仲良くなってしまった。
わだかまりが全くないといったら嘘になるけど。
クラスメートだし、仲良い方が良いに決まっているしな。
「あれ?言ってなかったっけ。俺たち付き合ってるんだけど」
「えええ?マジ?オレ密かに、黒田さんの事良いなって思ってたんだが…」
「アサギー、何今更言ってんの?あいつら最初からラブラブだったじゃねえか」
真崎が会話に入ってきた。
「「それは流石に無い」」
俺としおりの声が重なった。
「そういう、気が合う所だよ」
*
俺たちは一緒に下校していた。
学校だと異世界の話は少々話しづらい。
「しおり、そういえば…あれ、親に相談してみたか?」
「母に反対されたわ。「高校は出ておきなさい」だって」
やっぱり反対されたか。
知り合いに、金銭的に学校へ通えず中卒で働いている人がいるが、だいぶ苦労したらしい。
最終的に親戚にお願いしてコネ入社したとか。
高校卒業資格がないと、どこも雇ってもらえないらしい。
結局働きながら、夜間の高校に通うことにしたようだったが。
「とりあえず、週末だけ異世界に行くというのはどうだ?移住は卒業したら考えるということで」
*
俺たちは、週末だけ異世界に行ってみる事にした。
時間の流れは同じらしく、あまりズレが無い。
以前、異世界に行って戻って来た時、時間が進んでいなかったのは…女神が何か細工していたのだろう。
「おじゃまします」
土曜の朝九時。
約束通り。
しおりは俺の家にやってきた。
二人で異世界へ行く約束をしていたのだ。
俺たちは自室で行く準備をしていた。
「いってらっしゃいー。二人ともちゃんと日曜の夜には帰ってくるのよ。それと二人っきりだからって変な事しちゃだめだからね」
「あはは。心配しなくても大丈夫よ、ゆかりちゃん」
ゆかりは手を振っている。
「ゆかり何かあったら、安良坂をいつでも呼び出していいからな。じゃあな」
いざという時の為に、食料と水はアイテムボックスに仕舞ってある。
服装は黒いTシャツにGパン、水色のパーカーを羽織っている。
打ち合わせをしたわけではないが、しおりも同じような格好だった。
俺はしおりと手を繋いだ。
「じゃあ準備は良いかしら」
「OK」
『時空間移動魔法』
しおりが魔法を発動させる。
床に魔法陣が現れて、俺たちは眩しい光に包まれた。
*** 上原ゆかり視点
「行っちゃった…」
部屋は途端に静かになった。
お兄は二日間は帰って来ない。
「安良坂さんね。連絡してみようかな…」
用は無いけど、無性に寂しくなってしまった。
話し相手にはなってくれるだろう。
メッセージならいいよね?
『こんにちは』
お兄のスマホから、安良坂さんにメッセージを打ち込む。
直ぐに既読が付き、返事が返ってきた。
『上原くん?どうしたの?』
『あの私、妹のゆかりです』
『え、ゆかりさん?一体どうしたの…』
「ルルルルル…」
電話が、かかってきた。
安良坂くんからだ。
『もしもし、ゆかりさん?』
『……』
優しい声が、電話口の向こうから聞こえてくる。
私を心配してくれているみたい。
『ちょっと、待ってて。今すぐお家に行くから』
え?
黙っていたら心配されてしまったようだ。
彼は、車にひかれそうになった犬を助けたって言ってたっけ。
お兄とは違って、優しい。
お兄も優しいけどね。
私は、ぼーっとしていると。
『ピンポーン』
突然、呼び鈴が鳴った。
「え?まさか、もう来たの?」
早すぎない?
玄関のドアを開けると、安良坂さんが立っていた。
「お待たせ。つい魔法で空を飛んで来ちゃったよ」
髪が乱れていて、本当に空を飛んできたみたい。
*
「そっか。お兄さん、異世界に行ったんだ…黒田さんと一緒に」
安良坂さんは、私の話を黙って聞いてくれていた。
「それは…寂しいよね。今までずっと一緒だったのでしょ?」
彼には、私がお兄の事好きとは一言も言っていない。
だけど、何となく分かってしまっていたのだろうか。
「お兄さんの事…好きだったんでしょ?いつも見てたもんね」
頭をそっと撫でられた。
目頭が熱くなり、目の前が霞んでいる。
「泣いて良いよ。ぼくは隣にいる事しか出来ないけど…」
「うん…」
私の頬から、幾つも雫が滴り落ちていった。
彼はただ黙って、私の隣に居てくれていた。




