睡眠不足
「ふあああっ。眠いー」
俺は学校に来ていた。
結局一睡も出来なくて、今日も寝不足である。
「もうさー。魔法で自分にスリープかけちゃおうかしら。上原くんどう思う?」
彼女も同じく寝不足で、目の下にクマが出来ている。
キレイな顔が台無しだ。
「魔法は良いとして、朝起きられるのかそれ?」
「起こしてくれる人が居ないと無理よね。目覚ましだと止めちゃいそうだし」
昼休み。
安良坂は来ていない。
多分教室で寝ているのだと思う。
「芸能人もこんな感じなのかしら?」
「三時間しか寝れないって聞いたことあるな…売れっ子アイドルとかだっけ」
彼らなら仕事だから決まった時間には寝れるだろう。
俺たちはいつ来るか分からない魔物に、常に気を張っていないといけないのだ。
「今度ゆかりに頼んでみるか?」
スリープの魔法なら、短時間でもぐっすり寝れるかもしれない。
ゆかりには申し訳ないが、お願いしてみる事にしよう。
*
「わたしもお願いして良い?」
黒田さんが俺の家に来ていた。
夢の再現?
いやいや、彼女は睡眠したいだけなのだから。
床に布団を敷いて、黒田さんが寝る。
俺は自分のベッドで寝る事になった。
逆に意識して寝られなくないか?
いや、魔法で寝るんだから大丈夫か…。
それにしても男の部屋で寝るなんて無防備すぎるだろ。
「襲われても知らないぞ」
「あら、貴方にそんな度胸あるのかしら。わたしなら返り討ちに出来るからしないと思うのだけど」
体力的に俺の方が上でも、魔法で負けるだろう。
後で酷い魔法をかけられても文句は言えないのだ。
「冗談だよ。するわけがない」
「ならいいわ。まあ、上原くんなら…別に襲われても良いけど」
ん?最後の方なんて言った?
聞き取れなかったけど。
「じゃあ、かけるわよ。しおりちゃん後よろしくね」
夜の九時から十二時までの三時間だけ寝る事にした。
十二時にゆかりが起こしてくれる手はずになっている。
その後は黒田さんは自宅に帰って寝る予定だ。
魔物が出現しなければという前提だが。
「ごめんな。後で何か埋め合わせするから」
「うん。わかった」
『睡眠魔法』
黒田さんが俺と自分自身にスリープをかけた。
俺の意識がそこで途切れた。
*** 上原ゆかり視点
「全く、お兄ったら勝手なんだから」
お兄と、ゆかりさんがお兄の部屋で眠っている。
「大変なのは分かるけど…納得いかないんだよね。何か高い物買ってもらおうかな」
私はお兄が好きだ。
兄妹だからダメなのは解っている。
「何で私にお願いするかなぁ。目覚まし時計で良くない?」
私はお兄の眠るベッドにそっと近づいた。
スウスウと寝息を立てて、気持ちよさそうに眠っている。
「どうせ起きないんだから…良いよね」
「チュッ」
お兄の頬に顔を近づけて、私は軽くキスをした。
ドキドキしてきちゃった。
大丈夫…起きてはいないみたい。
「はあ…」
ため息をついて、私は部屋をそっと出た。
***
あれ?
スリープをかけてもらい、ウトウトと寝始めた頃。
頬に柔らかい感触があった。
「え?」
目が覚めてしまった。
黒田さんは寝ているはずだから…ゆかりなのか?
鈍感な俺でも分かる。
ゆかりは俺の事が好きだったのか。
眠れなくなってしまった。
でも、流石に寝ないといけない。
自分で魔法をかけるか。
『睡眠魔法』
強制的に体を休めないと。
まだこの生活が続くのだから。
(でも、どうしたらいいのだろう…)
考えているうちに意識が遠のいていった。
「お兄、時間だよ。起きて」
あっという間に時間になった。
ついさっき寝た感覚だ。
デジタル時計は夜中の十二時を回っていた。
「起こしてくれて、ありがとな」
「黒田さん、起きて下さい」
ゆかりが黒田さんを揺すっている。
「もうちょっと寝たい…」
寝言なのか、彼女は寝起きが随分悪いみたいだ。
「ゆかり、可哀そうだから寝かせてあげるか」
「お兄が良いならいいけど…変な事しちゃだめだからね」
「まさか、するわけないだろ」
「……」
「おやすみ」
ゆかりは自室に戻っていった。
黒田さんの寝顔。初めて見たな。
まつげが長くて、肌は雪の様に白くてほっぺたは柔らかそうだ。
スウスウと気持ちよさそうに寝ている。
俺は、しばらく彼女の寝顔を眺めていた。




