第五話 オンボロ服のエリート魔法使い
「さ、どれ。読めない字はどこだった?」
「アタシが読めないんじゃなくて、この紙が悪いんだかんね」
「分かっとる」
ミラノが指さした箇所を、バウランが読み進める。
「趣味は洞窟探しと蛇使い。土球や火球を使って行う“ベスット”という球技が得意。身長168セント《cm》体重55キロガ《kg》。筋肉質で浅黒い肌。髮色は灰赤色。瞳の色は黒」
「ふ~ん。ブスットって球技は知らないな~」
「ベスットだ」
バウランが間髪入れず訂正する。
「いいか小娘。毎度のことだが失敗は厳禁。分かっとるな」
「へいへいへい。お安い御用ですってバウランさん」
ミラノは顔の位置で手をヒラヒラした。
今の情報は確実に記憶しましたよ。他人の情報ほど面白い見聞ったらないんだから。任せておきなさいって。
「ッたァく。考えてることがお見通しだぞ。他人を侮辱するでない」
「侮辱じゃないよ。正当な探究心だよ」
「どうだか」
とその時、コンコンとトロッガンの窓をノックする音がした。
「おーブレイク、ちょい待ってておくれ。ほれミラノ、お前は後ろだ」
「ほいほい」
ミラノは渋々と後部席へ移った。
チッ。どうしてブレイクが来るとアタシは後部席なんだよ。
ドアが開けられ、頬が痩せこけた一人のひょろ長い男が乗り込む。
「お邪魔します。ミラノさん、こんにちは」
「どうも」
ミラノは座席にふんぞり返った。
ブレイクは今日もモスグリーンの古臭い布を羽織ってる。何重にもなって踝まである長い布だ。生地は分厚くて寒い時期は良いかもしれないけど、暑い季節は具合悪くなりそうだ。
それにいつも思うんだけど、その羽織物は洗濯しているの? 若干臭いんですけど。
ブレイク・コーリーは一応、国が推奨する魔法使い。難関の試験を突破したエリートだけれど、この汚らしい風貌で国民からの信用はゼロ。
なぜかと言うと、肩まである髪の毛は久しく梳いてないくらい絡まっちゃてて色んなゴミがくっついているし、魔法使いの象徴でもあるトンガリ帽子はシナシナになってるし、元は白かっただろう指出しの手袋は真っ黒だし、上等そうなブーツは両足ともつま先に穴が開いてしまっている。
そして容姿にも問題ありで、浅黒い肌に酷くコケた頬と金壷眼は、二十五歳の若さにして大病を患った病人のようだ。
これじゃあ当然、魔法国館に在籍していても、彼を指名する人はいないってものだ。
アタシだったらこんな不潔感たっぷりの人に仕事をお願いしたくはない。どうせだったら清潔感のある美形に頼むよ。
「ミラノさん、今日も宜しくお願い致します」
前席に腰を落ち着かせたブレイクが振り返った。皮と骨だけの長い首が捻れるだけで気味悪い。
ミラノは軽く手を挙げて笑った。「こちらこそよろしく」
挨拶は基本だからね。いくら苦手な人であろうと彼がいないとウチの擬似屋は営業できないからさ。残念なことにね。しかも安い給料で引き受けてもらってるわけだし、仲良くしなきゃ。
「ミラノさんの笑顔は素敵です」
「それはどうも」
と言ってさらに笑顔を見せる。
ブレイクは目に見えて頬を紅潮させた。浅黒いけどハッキリと分かる。
「そ、その服装も似合ってます」
ゴクリと生唾を飲み込むブレイクの視線の先に、ミラノの白い太ももがあった。
いつものことだけど、ブレイクは女性の足が大好きのようだ。こんな十五歳の少女の足にもムラムラっときちゃうようでさ。
まぁ見られて減るもんじゃないし、ショートパンツは動きやすいし、何よりも可愛いしね。獣皮ってのがちょっと暑いんだけど、壊れ難いし気に入ってる。この格好は変えるつもりないよ。
ただ、おっさんにはちょいちょい注意される。ブレイクが困ってるんだって。なぜに困ってるのか今一分からないんだけど、ブレイクって勉学に勤しむことが趣味の学生だったらしいから、これといって女性と触れ合うこともなかっただろうし、今もなさそうだし、恋人居ない歴歳の数の男には太ももが露わになってることだけでも刺激が強すぎるのかな。
じゃあ上衣こそ胸元が大きく開いていたら卒倒しちゃうかもね。別に胸はデカくないけど、そこそこはあるかんね。




