第三話 ウェッジ村のサイバードさんからの依頼
「ほれ、今日の仕事だ。しかと記憶せい」
バウランは穴の空いた安っちい土紙に殴り書きした依頼書をミラノの太ももの上に置いた。
「ちょいちょいちょい、いっつも思ってたんだけど、樹紙にしようよ。値段だってそんな大して変わんないんだし、樹紙のほうが丈夫で書きやすいじゃんか。土紙って読みづらいんだよね~」
「読めれば良し。紙なんてどれも一緒だ」
バウランは前を見据えたまま言った。「くだらんこと言ってないでちゃんと読むんだ」
ったくぅ。ここもケチケチかよ。絶対に金が貯まったらそそくさと辞めてやる! 止めたって無駄だよ!
ミラノは舌を一回鳴らし、土紙の文字を黙読していった。
え~なになに? ウェッツ村のサイバードさん。四十歳の女性。ほ~ん、おっさんと同い年か。で? 成り代わりは十七歳の少年か。特徴は口数が少なめだけど、何かと熱くなるタイプで、起伏が激しい、か。なんだか面倒な性格だな――で? 自分のことは「オイラ」ときて、母親のことを「カカァ」と呼ぶ、か。
ミラノは目を凝らした。それでも判別がつかなったので、バウランの顔面に依頼書を押し付けるようにした。
「次が読めない。何て書いてるのここッ」
「バカめ!」
すかさずバウランが依頼書を手で払う。「前が見えんだろ! 事故を起こしたらどうしてくれる!」
「その前に機械トラブルで壊れそうだけど」
トロッガンは今まで聞いたことのない音を出していた。ブスブスブスと後ろの方が言っている。
「これくらいまだ大丈夫。余計な心配は無用だ小娘」
とバウランは言って大きく右に操縦する。「もう少しで瞬間移動入口だ。そこで止めるから待っとけ」
「瞬間移動代は高いんじゃないのかよ?」
「じゃあかしい。行き先が1000キメル《km》も先の村だ。瞬間移動なしでは夜になっちまうだろ」
「そんな遠いなんて知らなかったし」
ミラノは頬を膨らませた。長旅なら事前に報告しとけよおっさん。「つか、1000キメル向こうに飛ぶって、かなり高額じゃんか!」
「その金は先方が支払ってくれるから安心せい。それよかこっちを読んでおけ」
胸ポケットから一通の手紙を取り出したバウランは、ミラノに突きつけた。
それは伝書だった。
「依頼者からのものだ。目を通しておけ。今から仕事モードに頭を切り替えるんだ」
「分かってるよ」
ミラノはバウランの手から手紙を奪い取るようにした。
さすがにこちらの紙質は上等だった。樹紙の中でも取り分け白い用紙だ。手触りも滑らかで書き心地が良さそうだ。
今日の依頼者は裕福層の御方ってわけか。しかし息子の言葉遣いから推測するとド田舎の坊ちゃんってタイプだな。
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バウラン・ジェングス様
初めまして。私は十七歳の息子と二人暮らしです。その息子のことなんですが、家に戻らないまま七色日が過ぎました。連絡はありません。特別思い当たる節がないので混乱しております。
親子喧嘩をしたわけでもありませんし家出をするような子ではありません。ただ、十七歳という年頃は過敏ですしとてもデリケートな時期だと思うので、私としましては、もう少し様子を見ようと思っております。
本題の依頼の内容なのですが、藍二十五色日に、息子の通う高院から教員の方々が査察のために訪問される予定にあります。これは息子の等級に関わる一大事でもあります。息子が不在となると、きっと、点数に響くでしょう。卒業も難しくなるばかりか、安定した就職も叶わなくなるでしょう。親の私としましては、それだけは絶対に回避したく思います。安定した職に就いて、将来は親を頼ることなく不自由のない家庭を築いて欲しいので……。
そこで、バウラン様にお願いなのですが、藍二十五色日、十色時に、息子の成り代わりをお願い致したく思います。時間としては一色時間程。教員との会話や受け答え等です。
以下、息子の秘密情報を記します。
・クラウン・サイバード 十七歳
・高院三期年
・取得魔術:下位Ⅰ・Ⅱ、中位Ⅰ・Ⅱ、上位Ⅰ、特異型α、良薬変質
・権利魔法:ファイアンA・B、ウォータンA、フラウェイ1000、ゴースチュン
・在魂番号:T‐W‐320078
所:ウェッツ村スエン帯56号地
その他の必要情報は連絡いただいた際にお知らせ致します。
追伸
勝手ながら私は下位の魔術しか使えませんので、連絡方法は水晶及び伝書にてお願い致します。水晶色:BRU3218
キリエ・サイバード
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