入学
2021年4月4日
入学式だ。
市ヶ谷駅から世田谷美術大学までの道はなんとか覚えた。
ここには親もいない、友人もいない。寮には誰一人として美大生はいない。
でも不安よりわくわくとした武者震いが頭のてっぺんから足の先まで貫くようだ。
なんてったって一時は諦めた東京の私立大学。
両親は地方の公立美大を勧めたが紆余曲折あり、最後は僕の3年間の努力を認め、両親が折れてくれた。
宮崎で美大進学なんて、アイドルになりたいと言いだすくらい絵空事だ。
いや、ここ東京ではアイドルになりたいなんてこと言っても決して夢ではないと思う。だけど九州の中でも陸の孤島と言われる宮崎では大袈裟ではない。
入学式、講堂で偉い人の長くてありがたい祝辞を聞きながら「受かったらラッキーだよ」と半笑いで言った画塾講師の言葉を、今さら思い出した。
講堂を見渡すと新入生の8割は女性のようだ。
美大なんて変人の集まりだからみんな派手な格好をしてくるかと思っていたけれど、意外と普通だ。
紺やベージュのスーツを着た人がほとんどだが、講堂の上から見ると髪色はまあ鮮やかだ。
高校ではありえない七色の髪色がまるで春の花畑のようで、大学生になったんだとより実感させてくれた。
2日間のオリエンテーションを終え、いよいよ本格的に大学生活が始まった。
早速友人が出来た。あとで知ったことだが関東圏の生徒が大半でほとんどが自宅通学。地方から出てきた生徒は数える程だった。
「ねえ、キミオシャレだね。出身どこ。」
初めに話しかけてくれたのは綾人だ。彼は入学式からとにかく目立っていた。なんてったってガンダムだ。
ガンダム好きの彼はダンボールで作ったガンダムの頭を被って入学式にきていた。ある意味美大生らしいやつだった。
しかし、普段の彼は良くも悪くも東京人だ。僕からいわせりゃいっつもボソボソと喋る陰気なやつだが、もしかしたら僕が目指すシティボーイってのは彼のことを指すのかもしれないなと、憧れから目が覚めた気分になった。
僕は貧乏学生ということもあり、普段から古着屋で服を買い、組み合わせて着ることが好きなんだけど、どうやら僕はオシャレな人カテゴリーに入るらしい。
色んな人が「オシャレだね、友達になって」と話しかけてくれた。
こんな積極的な話しかけられ方、シャイな宮崎人ではまずありえない。
さすが東京。
東京の人はなんて大胆なんだ。
そのおかげで僕はスムーズに大学生活へ突入することができた。
しかし、未だコロナ禍。
多くの大学ではオンライン授業になり、入学式すらリモートで通学できない大学も少なくない中、世田谷美術大学は座学講義こそオンデマンドでの受講になっているが、課題の作品制作は大学の施設を使用できたのでほぼ毎日通学している。
デザイン学の教授陣は一度は名前を聞いたことあるトップデザイナーが揃っている。
僕はとにかく140名いるデザイン科の生徒の中で少しでも教授の目に留まるよう、
課題作品の制作に明け暮れた。




