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上京

2021年 春

東京の美大に進学した。

九州の宮崎でプロダクトデザイナーになりたいと願った僕は必然的に県外に出るしかなかった。

高校3年の時にコロナが流行し、バスケ部のレギュラーに食らいついてたが、高校総体は中止になり自動的に受験モードに切り替わった。

だけど僕には都合がよかった。

美大受験には必須の実技を学ぶには宮崎は不利だったから。

宮崎には実技を学ぶための美術予備校、いわゆる画塾がないから僕は夏休み、冬休み、春休みそれぞれ毎回1週間ほど福岡の画塾に通う必要があった。

とにかく僕には時間がなかった。だからコロナ禍で部活ができなくなることは願ったりだった。

そんなわけで制限の多い受験期を乗り越え僕はなんとか第1志望の世田谷美術大学のデザイン科に現役合格した。


僕は市ヶ谷にある宮崎県の学生寮に入寮した。

古いビルだけど市ヶ谷駅から徒歩10分。

一等地だ。

周りは高級マンションだらけ。そりゃそうだ。すぐそこに皇居がある。靖国神社もある。世界各地の大使館もある。東京の中枢部だ。

そんな高級街を自転車も持たない田舎出身の貧乏学生が数十人闊歩し居住する宮崎県学生寮。ここの建物だけ時が止まった異空間のようだ。

それでも僕の心は清々しい爽やかな風が吹いていた。

憧れの東京。憧れの美大生。憧れのデザイナーになる1歩を着実に踏み出した感触がした。

相部屋の窓を開けて「シティボーイに俺はなるっちゃがー」と大声で叫んだ。

寮監から後でしこたま怒られた。


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