↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『最強探偵、異世界で攫われた相棒を探す旅に出る』  作者: れいじ
第一章 攫われた相棒

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/33

第9話 素性の知れない女

第9話です。


薫を探すため、まずはライラックで情報を集めることにした総一。


今回は、異世界で初めて「探偵らしい依頼」に挑みます。


それでは、お楽しみください。

 朝のライラックは、昨日までと変わらない活気に包まれていた。


 露店から立ち上る湯気。石畳を行き交う荷馬車。店先では商人たちが声を張り上げ、冒険者たちは武器を背負ってギルドへ向かっている。


 その中を、総一は一人で歩いていた。


 隣にいるはずの薫はいない。


 何か言えばすぐに返ってきていた小言も、呆れたようなため息も聞こえない。


「静かなもんだな」


 独り言に返事はなかった。


 総一はわずかに眉を寄せたが、すぐに前を向く。


 今は立ち止まっている場合ではない。


 まず金を稼ぐ。


 テレマを手に入れる。


 そのうえで、ライラックに残っているかもしれない魔王軍の手掛かりを探す。


 やることは多かった。


 冒険者ギルドへ入ると、朝から依頼掲示板の前に人だかりができていた。


「おはようございます、総一さん」


 受付嬢が声を掛けてくる。


「今日はお一人なんですね」


「ああ。相棒は、ちょっと遠くへ出掛けてる」


 受付嬢は事情を知らない。


 総一はそれ以上説明せず、掲示板へ目を向けた。


「すぐに受けられる依頼はあるか?」


「総一さんはまだFランクですので、街中の仕事か、危険の少ない採取依頼になります」


「薬草はもういいかな」


「昨日も大変でしたものね」


 受付嬢は苦笑し、数枚の依頼書を机へ並べた。


 荷物運び。


 倉庫の整理。


 街路の清掃。


 どれも今の総一には少々物足りない。


 とはいえ、無一文の男に選り好みする権利があるのかは怪しいところだった。


「まずカードを確認しますね」


 受付嬢に求められ、総一はギルドカードを差し出した。


 カードが確認用の魔道具へ置かれる。


 淡い光が表面を走り、情報が浮かび上がった。


 受付嬢はそれを確認しようとして、動きを止めた。


「……え?」


「どうした?」


「少々お待ちください」


 受付嬢はカードを取り上げ、別の確認用魔道具へ置き直した。


 もう一度、光が走る。


 表示された内容は変わらない。


「総一さん」


「今度は何が壊れた?」


「壊れていません。レベルが上がっています」


「レベル?」


「現在、二十です」


 総一もカードをのぞき込んだ。


 登録されたばかりの頃には表示されていなかった数字が、確かに刻まれている。


 レベル二十。


「ギルドへ登録されて、まだ数日しか経っていませんよね?」


「たぶんな」


「たぶん……」


 受付嬢は困ったように眉を下げた。


「普通は依頼を何度もこなし、少しずつ経験を積んでいくものです。これほど短期間で二十まで上がるなんて、聞いたことがありません」


 魔王軍幹部を五人倒した影響だろう。


 総一には心当たりがあったが、その事実はシンの功績にしたばかりだ。ここで話せば、昨日のやり取りが丸ごと水の泡になる。


「成長期なんじゃないか?」


「三十六歳でしたよね?」


「人にはそれぞれ成長する時期がある」


「そういうものなのでしょうか……」


 受付嬢は納得していない様子だったが、さらに表示を追い、また首を傾げた。


「スキルも一つ増えています」


「スキル?」


「はい。名称は……気配遮断」


 カードには新しい項目が浮かんでいた。


 スキル。


 気配遮断、レベル一。


「知ってるか?」


「申し訳ありません。私は聞いたことがありません」


 受付嬢は奥にある資料棚へ目を向けた。


「スキルには非常に多くの種類があります。珍しいものや、本人にしか発現しない固有スキルもあるので、ギルドでもすべては把握できていないんです」


「名前からすれば、気配を消すんだろうな」


「おそらくは。ただ、使用方法や効果までは確認できません」


「使って確かめるしかないか」


 総一はカードを裏返した。


 筋力、体力、敏捷。


 そのすべてには、相変わらず赤い文字が並んでいる。


 ERROR。


 魔力だけは変わらずゼロだった。


「能力値の方は相変わらずだな」


「こちらも引き続き調査中です」


「別に急がなくていい。困ってないからな」


 受付嬢は複雑そうにカードを返した。


「ところで、変わった仕事はないか?」


「変わった仕事、ですか?」


「魔物を倒すとか、荷物を運ぶとかじゃないやつだ」


 受付嬢は少し考え、依頼書の束をめくった。


「一件だけあります。ただ、冒険者向きかどうか分からなくて、何日か残っている依頼なんです」


 差し出された紙には、短くこう記されていた。


『素性不明の女性に関する調査』


「調査か」


 総一の目がわずかに細くなる。


「これにする」


「まだ内容をご説明していませんよ?」


「詳しい話は依頼人から聞けばいい」


 受付嬢は少し驚いた後、奥の待合席へ視線を向けた。


「依頼人のラウベルさんは、今もギルドにいらっしゃいます」


 呼ばれて現れたのは、四十代後半ほどの男だった。


 濃紺の上着を着込み、髪も髭も丁寧に整えられている。商人らしい落ち着いた身なりだったが、目元には疲れがにじんでいた。


「初めまして。ラウベルと申します」


「田端総一だ。依頼について聞かせてくれ」


 二人はギルドの隅にあるテーブルへ移った。


 ラウベルは周囲を気にするように声を落とす。


「私はライラックで食料品や生活物資を扱っています。長年付き合いのある取引先があるのですが、最近、見知らぬ女性が頻繁に出入りするようになりまして」


「名前は?」


「分かりません。取引先へ尋ねても、ただの客だとしか答えてくれないのです」


「見た目は?」


「二十代半ばほど。黒髪で、背の高い女性です。目立つほど美しい方なのですが……」


 総一の眉がわずかに動いた。


「美人か」


「そこに反応するんですか?」


 受付嬢が横から呆れた声を挟む。


「人物を特定するための重要な情報だ」


「顔が嬉しそうですけど」


「気のせいだ」


 薫がいれば、間違いなく脇腹をつねられていただろう。


 そう思った瞬間、総一の表情からわずかに笑みが消えた。


「その女は何を買っている?」


「分かりません。ただ、彼女が現れるようになってから、取引先が大量の食料や魔石、薬品を仕入れるようになりました。店の規模に見合わない量です」


「取引先は売り先を教えない?」


「はい。商売上の秘密だと言われました」


「なるほどな」


 大量の物資。


 素性を明かさない女性。


 口を閉ざす取引先。


 確かに調べる価値はある。


 だが、怪しいからといって悪人とは限らない。


「何者なのか確認すればいいんだな」


「はい。危険な相手でなければ、それで構いません。私はただ、長年の取引先が何かに巻き込まれていないか心配なのです」


「分かった。ただし、結果があんたの望むものじゃなくても、そのまま報告する」


「もちろんです」


 依頼は正式に受理された。


     ◇


 午後。


 総一はラウベルから教えられた商店の向かいにある路地へ入った。


 壁にもたれ掛かるように立ち、人通りへ視線を向ける。


 露店の商品を眺めるふりをしながら、商店の出入り口を静かに見張った。


 対象の女性が現れたのは、日が傾き始めた頃だった。


 黒い髪を背中まで伸ばした、長身の女。


 灰色の外套をまとい、迷いなく商店の中へ入っていく。


「確かに美人だな」


総一は小さく呟いた。


 だが、いつものように声を掛けようとはしない。


 仕事中だ。それに今は、薫を探すための手掛かりが何より優先だった。


 しばらくして女が店から出てきた。


 手ぶらだった。


 買い物に来た様子ではない。


 総一は周囲へ自然に視線を走らせる。


 女が少し離れたのを確認すると、一定の距離を保ちながら静かに後を追った。


 女との距離を保ちながら、通りの人混みに紛れた。


 そこで、カードに表示されていたスキルを意識する。


「気配遮断……だったか」


 身体の内側で、何かが静かに切り替わった。


 姿が消えたわけではない。


 足音も出ている。


 それなのに、人々の視線が不自然なほど総一を避けていく。


 前を歩く女が一度振り返った。


 総一は隠れなかった。


 道の端を普通に歩いている。


 だが女の視線は、総一の上を素通りした。


「なるほど。こりゃ尾行向きだな」


 女は街の中心部を離れ、人気の少ない道へ入っていった。


 やがて門を抜け、森へ向かう。


 日が沈みかけた森に、女の足音だけが続く。


 総一は一定の距離を保ったまま、その後を追った。


 しばらく進むと、女は何もない木立の前で立ち止まった。


 岩も建物もない。


 ただ木々が並んでいるだけだった。


 女が片手を上げ、小さく何かを唱える。


 次の瞬間、目の前の空間が水面のように揺れた。


「……何だ?」


 揺らぎの向こうに、暗い通路らしきものが一瞬だけ現れる。


 女は周囲を確認すると、その中へ足を踏み入れた。


 空間が閉じる。


 後には、何も残らなかった。


 総一は木陰から出て、女が消えた場所へ近づく。


 手を伸ばしても、触れるのは冷たい空気だけだ。


「隠し扉……いや、魔法か」


 何があるのかは分からない。


 女が何者なのかも、まだ断定できない。


 ただ一つ確かなのは、この森の奥に誰かが隠している場所があるということ。


 総一は静かに周囲を見回した。


「さて……どうやって入るかな」


 新しく得たスキルだけでは、閉ざされた空間を開くことはできない。


 力ずくで殴れば開く可能性もある。


 だが、それでは調査にならない。


 中にいる者すべてに、自分の存在を知らせることになる。


 総一は何もない空間を見据え、口元をわずかに緩めた。


「まずは、出入りの仕組みを調べるか」


 探偵の仕事は、扉を壊すことではない。


 鍵の開け方を見つけることだった。

第9話を読んでいただき、ありがとうございました!


今回は久しぶりに、総一の探偵らしい部分をしっかり描いてみました。


新しく手に入れた「気配遮断」も、総一とはかなり相性のいいスキルになりそうです。


そして、怪しい女性の先に現れた謎の隠し場所。

次回、総一がどうやって中へ入り込むのか。


続きが気になりましたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります!


次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。