↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『最強探偵、異世界で攫われた相棒を探す旅に出る』  作者: れいじ
第3章 レベルスマウンテン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
57/58

第57話 里を動かす大魔法

いつもお読みいただきありがとうございます。


十個のレベルストーンを使い、ついに始まったエルフの里の大移動。


マリンとアルベルが力を合わせ、前例のない大魔法に挑みます。


果たして、里を無事に移動させることができるのでしょうか。


第57話、よろしくお願いします!

十個のレベルストーンが一斉に輝きを放った。


 地面に描かれた巨大な魔法陣から光の柱が立ち上り、エルフの里全体を包み込んでいく。空気がビリビリと震え、足元から伝わる振動に、総一は思わず身構えた。


「おいおい……本当に大丈夫なんだろうな?」


 総一の目の前では、マリンとアルベルが魔法陣を挟んで向かい合っていた。二人の周囲には無数の光の粒が舞い、足元から立ち上る魔力が髪や衣服を激しく揺らしている。


「総一! 余計なこと言ってないで、そこから動かないで!」


「動くなって言われても、地面の方が動いてるんだが!」


「だったら踏ん張ってなさい!」


 いつもの調子で言い返すマリンだったが、その額にはすでに汗が浮かんでいた。


 アルベルも両手を前に突き出し、魔法陣へ魔力を注ぎ続けている。


「師匠、異空間の境界を固定しました。いつでも移動できます!」


「分かったわ。ここからが本番よ!」


 マリンが両手を高く掲げると、魔法陣の光がさらに強まった。


 ゴゴゴゴゴ……。


 地鳴りのような低い音が響き、里の周囲を覆っていた空間がゆっくりと歪み始める。


 総一には、その光景が理解できなかった。


 木々も家々も、足元の地面さえ元の場所にある。それなのに、里の外側に見える景色だけが、水面に映った風景のように揺らいでいた。


「……何だ、こりゃ」


「すごいですね……」


 隣に立つシンも、目の前の光景に圧倒されているようだった。


「こんな規模の魔法、見たことがありません」


「そりゃそうだろ。村ごと引っ越しする魔法なんて、普通は考えねえよ」


「マリンさんたち、本当に大丈夫でしょうか?」


 サリーが心配そうに二人を見つめる。


 総一も同じことを考えていた。


 マリンが世界でも屈指の魔法使いであることは知っている。アルベルも、その弟子とは思えないほどの実力者だ。


 しかし、二人の表情を見れば、今回の魔法が簡単なものではないことくらい分かる。


「アルベル! 少し右側に魔力が偏ってる!」


「修正します!」


 アルベルが指先を動かすと、魔法陣の一部が青白く輝いた。


 その瞬間、里の外側に広がる景色が大きく揺れた。


 ぐらり、と足元が傾いたような感覚が総一を襲う。


「うおっ!」


 近くにいたサリーがよろめき、総一はとっさにその腕を支えた。


「大丈夫か?」


「は、はい。ありがとうございます」


「気をつけろよ。何が起きるか分からねえからな」


 そう言いながら、総一は再びマリンへ視線を向けた。


 いつもなら余裕たっぷりに魔法を使う彼女が、今は歯を食いしばっている。


 アルベルの顔色も悪い。


「師匠……想定以上に負荷がかかっています!」


「分かってる! でも、ここで止めたら最初からやり直しよ!」


「魔力の消費が……!」


「あと少し! 私に合わせなさい!」


 二人の声が重なった。


 魔法陣から放たれる光が一段と強くなり、里全体が白い輝きに包まれる。


 総一は反射的に目を細めた。


 周囲の音が遠ざかっていく。


 風の音も、木々のざわめきも、エルフたちの声さえ聞こえなくなった。


 まるで世界から切り離されたような、不思議な静寂だった。


 その中で、マリンとアルベルの声だけが響く。


「アルベル、最後よ!」


「はい、師匠!」


 二人が同時に両手を突き出した。


 ドォォォン!


 腹の底に響くような轟音とともに、巨大な魔法陣がひときわ激しく輝いた。


 次の瞬間、総一の身体がふわりと浮き上がるような感覚に包まれた。


「うおおっ!」


 思わず声を上げたが、それもほんの一瞬だった。


 足元に確かな感触が戻り、周囲を満たしていた光がゆっくりと薄れていく。


 地鳴りも止まっていた。


 風が吹き抜け、木々の葉がさらさらと音を立てる。


 何事もなかったかのような静けさが、里を包んでいた。


「……終わったのか?」


 総一が周囲を見回す。


 家々は元の場所にあり、木々も倒れていない。近くに停めてあった馬車も、移動前と変わらずそこにあった。


 見たところ、里には何の変化もない。


「これで成功なのか?」


「外を確認してみましょう」


 シンの言葉に頷き、総一たちは里の外れへ向かった。


 異空間の境界に近づくにつれ、これまで見えていた山の景色がはっきりとしてくる。


 そして総一は、その違いに気づいた。


「……おい、山の形が違うぞ」


 以前は里の向こうに切り立った岩山が見えていた。しかし今は、緩やかな斜面と深い森が広がっている。


 遠くに見える山並みの位置も、まるで違っていた。


「本当ですね。景色が変わっています」


 シンが驚いたように呟く。


 近くにいたエルフたちも、次々と声を上げ始めた。


「移動したのか?」


「レベルスマウンテンの反対側だ!」


「成功したんだ!」


 喜びの声が里のあちこちから上がる。


 総一もようやく実感が湧いてきた。


「すげえな……本当に里ごと動かしちまったのか」


 感心しながら振り返った、そのときだった。


「……アルベル?」


 マリンの声が聞こえた。


 総一が視線を向けると、アルベルが膝をついていた。


「師匠……どうやら、成功したようです……」


 そう言って微笑んだ直後、アルベルの身体が前へ傾いた。


「アルベル!」


 近くにいたエルフたちが慌てて駆け寄る。


 だが、総一の目は別の異変を捉えていた。


 マリンもまた、ふらふらと身体を揺らしていたのだ。


「おい、マリン!」


「……ちょっと、疲れたかも」


 そう言って笑おうとしたマリンの膝が、がくりと折れた。


 総一は地面を蹴り、倒れかけた彼女を抱き止めた。


「おい! しっかりしろ!」


「……うるさいわね。そんな大声出さなくても聞こえてるってば……」


「だったらちゃんと立てよ!」


「無茶言わないでよ……もう、魔力が空っぽなんだから……」


 マリンは総一の腕に身体を預けたまま、ぐったりと目を閉じた。


「マリン?」


 返事はなかった。


 総一の表情が変わる。


「おい、マリン! 冗談じゃねえぞ!」


「総一さん、落ち着いてください!」


 駆け寄ってきたサリーがマリンの様子を確かめる。


 呼吸は穏やかで、顔色も極端に悪いわけではなかった。


「大丈夫です。気を失っているだけみたいです」


「……本当か?」


「はい。でも、相当無理をされたんだと思います」


 総一は腕の中のマリンを見下ろした。


 普段は口が達者で、何を言っても倍にして返してくる女だ。それが今は、まるで別人のように静かだった。


「……ったく。無茶しやがって」


 小さく呟くと、総一はマリンを抱き上げた。


「休ませられる場所はあるか?」


「わしの家へ運ぶのじゃ。二人とも、すぐに休ませねばならん」


 バルフの指示を受け、総一はマリンを抱き上げたまま長老の家へ向かった。アルベルも数人のエルフに支えられ、その後に続く。


 幸い、バルフの家には二人を休ませられる部屋があり、マリンとアルベルはそれぞれ寝台に寝かされた。


 ◇


 しばらくして、総一たちはバルフの家で二人の状態について説明を受けていた。


「命に別状はない。じゃが、あれほどの大魔法を使ったのじゃ。魔力が戻るまでには数日かかるじゃろう」


「数日か……」


 総一は椅子の背にもたれ、深く息を吐いた。


「それにしても、よく成功したな」


「まったく、あやつには驚かされてばかりじゃ。アルベルもよくやってくれた。あの二人でなければ、こんな大魔法は成功せんかったじゃろう」


 バルフの言葉には、長年マリンを知る者ならではの感慨が込められていた。


 総一も異論はなかった。


 実際に目の前で見せられたのだから、あれがどれほど大変なことだったのか、魔法を使えない自分にも少しは分かる。


「これで、魔族に里の場所を知られる心配はなくなったんですよね?」


 シンが尋ねると、バルフは頷いた。


「少なくとも、以前の場所を探しても見つからん。新しい場所についても、わしらが不用意に外へ知らせなければ、簡単には発見できんじゃろう」


「それなら、ひとまず安心ですね」


 サリーが胸を撫で下ろした。


 総一は窓の外へ目を向けた。


 移動を終えた里では、エルフたちが家の周囲を確認したり、互いの無事を喜び合ったりしている。


 あれだけの大魔法を使ったというのに、建物にも道にも目立った被害はない。


 それを見ていると、ようやく肩の力が抜けた。


「これで俺たちも、少しはゆっくりできそうだな」


「そうですね。マリンさんが回復するまでは、ここに滞在することになるでしょうし」


 シンも穏やかな表情を浮かべた。


 総一は大きく伸びをする。


「そうと決まれば、久しぶりにのんびりするか。何かうまいもんでも食わせてもらおうぜ」


「総一さん、さっきまであんなに心配していたのに……」


 サリーが苦笑する。


「心配してたからこそ腹が減るんだよ」


「そんな理屈、初めて聞きました」


 シンが呆れたように笑った。


 久しぶりに、穏やかな空気が流れた。


 しかし、その時間は長く続かなかった。


 ピピピッ、ピピピッ。


 突然、聞き慣れない音が室内に響いた。


「ん?」


 総一が顔を上げると、シンが腰の荷物に手を伸ばしていた。


「テレマですね」


「おっ、久しぶりに聞いたな、その音」


 シンが取り出したのは、ギルドカードを使って遠くの相手と会話できる通信魔道具だった。


 総一も同じものを持っているが、最近は使う機会がほとんどなかった。


「誰からだ?」


「確認してみます」


 シンはテレマを操作し、通信をつないだ。


「こちら、シンです」


『勇者シン様! ようやく繋がりました!』


 切羽詰まった男の声が響いた。


 シンの表情が引き締まる。


「どうしました?」


『王都から緊急の連絡です。国王陛下より、シン様へ至急帰還するよう命令が出ています』


「国王陛下から?」


 思いがけない知らせに、シンは驚いたように聞き返した。


 総一とサリーも顔を見合わせる。


「何かあったのですか?」


 シンの問いに、通信相手は一瞬言葉を詰まらせた。


『実は……隣国ワルダシア王国との間で、問題が発生しています』


「ワルダシア王国……?」


『詳しい状況は王都で説明するとのことです。とにかく、一刻も早くお戻りください』


 その言葉を聞いた瞬間、シンの表情が険しくなった。


「……分かりました。すぐに帰還します」


『お願いいたします。国王陛下も、シン様の帰還をお待ちです』


 通信が切れると、室内に重い沈黙が落ちた。


 つい先ほどまで、エルフの里の移動成功を喜んでいたというのに、今度は人間の国同士で問題が起きているという。


 総一は腕を組み、シンの顔を見た。


「……隣国との間で何かあったのか?」


「詳しいことは分かりません。ただ、国王陛下が僕を呼び戻すほどですから、何か重大な問題が起きているのかもしれません」


「そうか……面倒なことにならなきゃいいけどな」


 シンはテレマを握りしめたまま、静かに頷いた。


 総一は窓の外へ目を向けた。


 そこには、ようやく平穏を取り戻したエルフの里が広がっていた。


 せっかく一つの問題が片づいたと思った矢先に、また別の問題が持ち上がった。


「……まったく、この世界は休ませてくれねえな」


 総一の呟きに答える者はいなかった。


 勇者シンに届いた突然の召集命令。


 その知らせが、総一たちの旅を再び大きく動かそうとしていた。

最後までお読みいただきありがとうございます。


マリンとアルベルの大活躍によって、エルフの里の移動は無事に成功しました!


ただし、二人とも魔力を使い果たしてしまい、しばらく休養が必要になりそうです。


これでようやく一息つけると思ったところへ、勇者シンに届いた突然の召集命令。


隣国ワルダシア王国との間で、いったい何が起きているのでしょうか。


次回から、物語は新たな展開へと進んでいきます。


続きも楽しみにしていただけると嬉しいです!


面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。