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『最強探偵、異世界で攫われた相棒を探す旅に出る』  作者: れいじ
第3章 レベルスマウンテン編

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第58話 それぞれの道

いつもお読みいただきありがとうございます。


エルフの里の大移動は無事に成功しましたが、マリンとアルベルは魔力を使い果たしてしまいました。


そんな中、国王から緊急召集を受けた勇者シン。


隣国ワルダシア王国との間で、何が起きているのでしょうか。


第58話、よろしくお願いします!

エルフの里の広場では、シンたちが慌ただしく出発の準備を進めていた。


 国王からの緊急召集を受け、すぐに王都へ戻ることになったのだ。


「ナバルさん、馬車の準備をお願いします。サリーは荷物をまとめてくれる?」


「任せろ。馬の状態も確認しておく」


「分かりました。すぐに戻りますね」


 二人がそれぞれ動き出すと、シンは広場の端に立っていた総一のもとへ歩み寄った。


「総一さん、急なことになってしまってすみません」


「気にしなくていいよ。国王からの呼び出しじゃ仕方ないでしょ」


「ありがとうございます」


「それにしても、隣国と何があったんだろうね」


「詳しいことは聞かされていません。王都に戻ってから説明を受けることになると思います」


「そうか。面倒なことにならなきゃいいけど」


 総一は軽く肩をすくめた。


 シンは勇者として王国に仕える身だ。国王から呼び出されれば、戻らないわけにはいかない。


「総一さんは、これからどうするんですか?」


「俺? 予定どおりラブリング島に行くつもりだよ」


「王都には来られませんか?」


「悪いけど、人間同士の争いには興味がないんだよね。それに、今は薫を探すのが先だから」


「ベルガですね」


「そう。四天王なら魔王の居場所を知ってるはずだからね。せっかく居場所が分かったんだし、会いに行かないと」


 総一はいつもの調子で答えたが、その目は真剣だった。


 キャナルから聞き出した情報によれば、ベルガはラブリング島にいる。


 そこから魔王城へたどり着けるかもしれない。


「分かりました。僕も王都で何か情報が入ったら連絡します」


「よろしく頼むよ。こっちも何か分かったらテレマで知らせるから」


「はい」


「それに、シンなら大丈夫でしょ。勇者なんだから」


「そんな簡単に言わないでくださいよ」


「ははっ、期待してるってことだよ」


 総一が笑うと、シンも少しだけ表情を緩めた。


「準備できたぞ!」


 ナバルの声が広場に響いた。


 馬車には荷物が積み込まれ、馬も出発を待っている。


 そこへサリーも小さな鞄を抱えて戻ってきた。


「総一さん、マリンさんたちにはご挨拶できそうにありませんね」


「まだぐっすり寝てるからね。起こすのもかわいそうだし、俺から伝えておくよ」


「ありがとうございます。早く元気になるといいですね」


「そうだね」


 マリンとアルベルは、里を移動させる大魔法で魔力を使い果たし、バルフの家で休んでいる。


 すぐに目を覚ます様子はなかった。


「それじゃ、総一さん。僕たちは行きます」


 シンが右手を差し出した。


 総一はその手を握り返す。


「気をつけてね。何が起きてるか分からないんだから」


「はい。総一さんもベルガには気をつけてください」


「大丈夫。危なくなったら逃げるから」


「総一さんが逃げるところ、想像できませんけど」


「俺だって命は惜しいんだよ?」


 シンは思わず笑った。


 総一の実力を知っているからこそ、その言葉が冗談にしか聞こえなかった。


「それじゃ、また会いましょう」


「うん。またね」


 シンが御者台に乗り込み、ナバルがその隣に座る。


 サリーは客車へ乗り込む前に振り返った。


「総一さん、お元気で」


「サリーちゃんもね。今度会ったら、また美味しいものでも食べに行こうよ」


「ふふっ、楽しみにしています」


「総一さん、サリーを口説かないでくださいよ!」


 御者台からシンの声が飛んできた。


「えっ、これくらいで?」


「これくらいって……」


 シンが呆れた顔をすると、サリーが小さく笑った。


 出発の準備が整ったところで、バルフが馬車の前へ進み出た。


「では、出口を開くぞ」


 バルフが片手をかざすと、何もなかった空間がゆっくりと揺らぎ、森へと続く出入り口が現れた。


「お世話になりました、バルフさん」


 シンが御者台から頭を下げる。


「気をつけて行くんじゃぞ」


 やがて馬車が動き出す。


 総一は片手を上げ、三人を見送った。


 車輪の音が遠ざかり、馬車が出入り口を通り抜けると、バルフは静かにそれを閉じた。


「……さてと」


 総一は馬車が消えた場所を眺めながら、ふと思い出した。


「……あっ、そうだ。馬車がないってことは、俺たちの移動手段がなくなっちゃったな」


 思わず小さく呟くと、隣にいたバルフがその声を拾った。


「なるほどのう。里にも馬車はあるにはあるが、ここを出る者はほとんどおらんからのう」


「そうなんだ?」


「馬車を使うとすれば、アルベルくらいか。目を覚ましたら相談してみるとよい」


「そっか。じゃあ、アルベルが起きてから考えようかな」


 総一はそう言って、バルフに顔を向けた。


「とりあえず、マリンのところへ戻ろうか」


「そうじゃのう」


 二人は並んでバルフの家へ戻った。


 総一は奥の部屋を覗いた。


 マリンとアルベルは、並べられた寝台で眠っている。


 どちらも顔色は悪くなさそうだったが、起きる気配はない。


「二人はどれくらいで回復しそう?」


「そうじゃのう。あれほど魔力を使ったんじゃ。数日は休ませた方がよかろう」


「数日かぁ……」


「おぬしも、しばらくは里でゆっくりするとよい」


「そうさせてもらうよ」


 総一は頷いた。


 マリンが回復しなければ、ラブリング島へ向かうことも難しい。


 急いだところでどうにもならないなら、今は待つしかない。


 そう考えたとき、総一の頭に一人の女性の顔が浮かんだ。


「……そうだ」


「どうしたんじゃ?」


「いや、ちょっと思い出したことがあってね」


 アンリ。


 以前、総一は彼女とデートをしたつもりでいた。


 ところが、あのとき一緒にいたのは、変身魔法でアンリに化けたキャナルだった。


 本物のアンリとは、まだデートをしていない。


 総一の口元が自然と緩んだ。


「そういえば、アンリちゃんとはまだちゃんと会えてなかったんだよね」


「アンリ? わしの孫がどうかしたのか?」


「いやぁ、せっかく時間ができたし、アンリちゃんの店に行ってみようかなって」


「……おぬし、わしの孫に何をするつもりじゃ?」


「ちょっとデートに誘おうかなって」


「おぬし、さっきまで旅のことを考えておったじゃろう」


「それはそれ、これはこれだよ」


 総一は悪びれる様子もなく答えた。


 バルフは呆れたように息を吐く。


「まったく、調子のいい男じゃのう」


「褒め言葉として受け取っておくよ」


「褒めておらんわ!」


 総一は笑いながら玄関へ向かった。


 その足取りは、先ほどまでとは見違えるほど軽い。


「じゃあ、ちょっと行ってくるね」


「本当に行くつもりか?」


 総一は振り返り、にっこりと笑った。


「もちろん。アンリちゃんに会いに行くんだよ」


 そう言い残すと、総一はバルフの家を飛び出した。


 目指すはアンリの食堂。


 昼の営業が始まる前なら、少しくらい話す時間もあるだろう。


 マリンが目を覚ますまで、まだ数日はある。


 どうやら退屈せずに済みそうだった。

最後までお読みいただきありがとうございます。


今回は、これまで一緒に旅をしてきたシン、ナバル、サリーとの一時的なお別れとなりました。


総一とマリンはラブリング島へ向かう予定ですが、肝心の移動手段がなくなってしまいましたね。


そして、待ち時間ができた総一が思い出したのは、本物のアンリとのデート!


キャナルに邪魔されてしまった恋の行方は、どうなるのでしょうか。


次回もお楽しみに!


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