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『最強探偵、異世界で攫われた相棒を探す旅に出る』  作者: れいじ
第3章 レベルスマウンテン編

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第56話 大賢者の弟子

いつもお読みいただきありがとうございます。


魔王軍との交渉を終え、エルフの里へ戻ってきた総一とマリン。


しかし、事件が解決したからといって、すべての問題が片づいたわけではありません。


大切な里を守るため、総一たちは新たな問題に向き合います。


第56話、よろしくお願いします!

 東の空が白み始め、レベルスマウンテンの森に朝日が差し込もうとしていた。


 総一とマリンがエルフの里へ戻ってきたのは、ちょうど夜が明ける頃だった。木々の葉には夜露が残り、ひんやりとした空気が肌を撫でていく。


「結局、朝になっちまったな」


 総一は大きく伸びをしながら、眠そうにあくびをした。


「まさか、あんなところで夜を明かすことになるとは思わなかったぜ」


「仕方ないでしょ。それより、先にバルフへ報告しないと」


「そうだな。あの女がいつ動き出すか分からないし」


 二人はまだ静まり返っている里を歩き、長老バルフの屋敷へ向かった。


 早朝にもかかわらず、バルフはすぐに二人を迎え入れてくれた。


「バルフ、ちょっと話があるの」


 マリンが部屋へ入るなり声をかけると、バルフは面倒そうに顔を上げた。


「なんだ、朝っぱらから。今度は何をやらかした?」


「なんで私が何かやらかしたことになってるのよ」


「お前がわざわざ私のところへ来るときは、ろくな話ではないからな」


「……今回は本当に大事な話なのよ」


 マリンの真剣な表情に、バルフは眉をひそめた。


「何があった?」


「魔族に、この里への入り方を知られたの」


「……なんだと?」


 バルフの顔から、それまでの軽さが消えた。


 マリンはキャナルとの交渉について説明した。


 魔王軍の諜報部隊を率いるキャナルが、アンリの記憶を探っていたこと。そして、その記憶からエルフの里の出入り口と出入り方法を知ってしまったこと。


 話を聞き終えたバルフは、険しい表情で腕を組んだ。


「アンリの記憶を探っただと……。厄介なことになったな」


「問題はゴンザットよ」


 マリンは静かに続けた。


「彼は人工レベルストーンの研究者として、一度魔族にさらわれているでしょ? 今回もキャナルは研究に興味を示していたわ。すぐに何かするとは思わないけど、折を見てまた狙ってくるかもしれない」


「しかも、あの女は変身魔法の使い手だからな」


 総一が口を挟んだ。


「アンリに化けて俺とデートしてたくらいだ。今度は別のエルフに化けて入ってくるかもしれないぜ」


「それでは誰が魔族なのか見分けがつかん。里の者を疑いながら暮らすわけにもいかんからな……」


 バルフの顔がさらに曇った。


 この里は高度な空間魔法によって作られた異空間に存在している。周囲の森と自然につながるように構築されているため、普通に森を歩いていても簡単には発見できない。


 しかし、出入り口の位置と出入り方法を知られてしまえば、その安全性は失われる。


「だから、里を移動させようと思うの」


「移動だと?」


「ええ。この異空間そのものを、レベルスマウンテンの反対側の森へ移すのよ。もちろん、出入り口の場所も方法も変えるわ」


 総一は窓の外に広がる森へ目を向けた。


「同じ山の反対側なら、ゴンザットも研究を続けられるってわけか」


「そういうこと。マナバブーンの生息環境から大きく離れる必要もないしね」


 バルフはしばらく考え込んでいたが、やがてゆっくりとうなずいた。


「確かに、それができるなら安心だろう。だが、異空間そのものを移動させるつもりか?」


「そうよ」


「お前の実力は知っている。だが、里全体となれば話は別だ。本当にできるのか?」


「理論上はね。ただ、普通の魔力じゃ到底足りないわ」


 マリンは少し考えてから続けた。


「ゴンザットにレベルストーンを分けてもらいましょう」


◇


「十個だと!?」


 ゴンザットの大声が研究室に響き渡った。


「おいおい、そんなに驚くことか?」


 総一が耳を押さえると、ゴンザットは呆れたように顔をしかめた。


「当たり前だ! 本物のレベルストーンがどれだけ貴重か分かっているのか!」


「まあ、ウンコからできる石だってことは知ってるけどな」


「その言い方はやめろ!」


 総一が笑う横で、マリンは真剣な表情を崩さなかった。


「ゴンザット、お願い。里の安全のためなのよ。それに、あなた自身がまた狙われる可能性もあるわ」


「……それは分かっている」


 ゴンザットは腕を組み、しばらく黙り込んだ。


 研究室の奥には、長年かけて集められた貴重なレベルストーンが保管されている。人工レベルストーンの研究を進めるうえでも、欠かせない資料だった。


「十個も使って、本当に成功するのか?」


 その問いに、マリンはすぐには答えなかった。


「……正直、保証はないわ」


「おい、マリン!」


 総一が驚いて振り向く。


「十個ものレベルストーンを同時に使ったことなんてないもの。魔力を増幅するだけなら問題ないけど、それを制御しながら異空間全体を移動させるとなると、話は別よ」


「だったら、無理するなよ」


「でも、ほかに方法がないでしょ?」


 マリンは困ったように笑った。


「私だって、何でもできるわけじゃないのよ」


 普段は自信に満ちている大賢者の言葉に、総一はそれ以上何も言えなかった。


 ゴンザットも深いため息をつく。


「……分かった。十個用意しよう。ただし、慎重に扱ってくれよ」


「ありがとう、ゴンザット」


 マリンはほっとしたように微笑んだ。


◇


 バルフの屋敷へ戻り、魔法の準備について話し合っていたときだった。


 廊下の向こうから、慌ただしい足音が近づいてきた。


「バルフ様! バルフ様!」


 勢いよく扉が開き、一人の男性エルフが姿を現した。


 見た目は三十代ほど。整った顔立ちに落ち着いた雰囲気を持ち、身なりもきちんとしている。しかし、今は息を切らし、ひどく慌てた様子だった。


「街から戻ったら、マリン師匠が帰ってきたと聞いたのですが、本当ですか!?」


 男性は室内を見回し、マリンの姿を見つけた瞬間、その場に立ち尽くした。


「……師匠?」


 マリンは不思議そうに首を傾げた。


「えっと……あなた、誰?」


「ぼ、僕ですよ! 師匠!」


「僕?」


「アルベルです! アルベルですよ!」


「……アルベル?」


 マリンは目を丸くし、男性の顔をじっと見つめた。


 確かに面影はあった。目元も、口元も、真っすぐにこちらを見つめる瞳も、記憶の中の少年によく似ている。


 だが、マリンが覚えているアルベルは、まだ幼さの残る子供だった。


 それが今では、立派な大人の男性になっている。


「……本当に、あのアルベルなの?」


「はい……!」


 アルベルの声が震えた。


「師匠……師匠なんですね……!」


 その目から、大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。


「ずっと……ずっとお会いしたかったです……!」


「ちょ、ちょっと、アルベル!?」


「もう二度とお会いできないかと思って……!」


 アルベルは両手で顔を覆い、とうとう声を上げて泣き始めた。


 マリンは驚いたように目を見開いたが、やがて懐かしそうに微笑んだ。


「まったく……。こんなに立派に成長したのに、泣き虫なのは変わらないわね」


「師匠ぉ……!」


「もう、そんなに泣かないでよ」


 総一は二人の様子を眺めながら、バルフへ小声で尋ねた。


「あの人、いくつなんだ?」


「アルベルは五百五十歳ほどになるな」


「五百五十!?」


 総一は思わずアルベルを見直した。


「……五百五十歳でも、師匠の前じゃ子供なんだな」


 アルベルは慌てて涙を拭った。


「し、失礼しました。お見苦しいところを……」


「いや、いいんだけどさ。なんか、いいもの見せてもらったよ」


「総一、からかわないの」


 マリンはそう言いながらも嬉しそうだった。


 五百年という歳月は、人間には想像もできないほど長い。かつて自分の後ろをついて歩いていた少年が、こうして立派な魔法使いになっている。


 マリンは改めてアルベルを見つめた。


「それにしても……ずいぶん魔力が増えたわね」


「はい。師匠に教わったことを、ずっと続けてきました」


「そう。頑張ったのね」


 アルベルは再び目を潤ませた。


「……師匠」


「もう! また泣くの?」


 総一が思わず吹き出す。


 しかし、マリンはふと何かを思いついたように表情を変えた。


「ねえ、アルベル。あなた、魔力の制御には自信がある?」


「もちろんです。今は里の魔法使いたちを指導する立場ですから」


「そう……だったら、ちょっと手伝ってくれない?」


「師匠のお役に立てるなら、何でも!」


 その返事を聞いたマリンは、ようやく安心したように笑った。


◇


 里の中央にある広場には、十個のレベルストーンが円を描くように並べられていた。


 周囲にはバルフやゴンザット、そして数人のエルフたちが集まっている。住民には事情が説明され、魔法が終わるまで家の中で待機するよう伝えられていた。


「本当に二人で大丈夫なのか?」


 総一が尋ねると、マリンは小さくうなずいた。


「一人よりはずっと可能性が高くなったわ。アルベルなら、増幅された魔力を分担して制御できるはずよ」


「師匠、準備はできています」


 アルベルは真剣な表情でレベルストーンを見つめていた。


 先ほどまで泣いていた人物とは思えないほど落ち着いた姿だった。


「アルベル、私が魔力の流れを作るわ。あなたは増幅された魔力を受け取り、空間全体に均等に行き渡らせて」


「承知しました」


 二人は向かい合い、静かに両手をかざした。


 キィィィン……。


 最初のレベルストーンが青白い光を放った。


 続いて二個、三個と輝き始め、石と石の間に細い光の線が伸びていく。


 ブゥゥゥン……!


 空気が震え、足元の地面に複雑な紋様が浮かび上がった。


「アルベル、魔力を合わせて!」


「はい、師匠!」


 アルベルが両手を広げた瞬間、残りのレベルストーンが一斉に輝いた。


 ゴォォォォッ!!


 突風が広場を吹き抜け、総一の髪を激しく揺らした。


「うおっ! なんだ、この風!」


 地面を走る光の線は広場を越え、家々の下を通り、森の奥へと伸びていく。


 さらに、空中にも無数の光の文字が浮かび上がった。


 ヴォォォォン!!


 低い振動音とともに、里の上空に巨大な光の輪が現れる。


「師匠! 魔力の増幅が予想以上です!」


「分かってる! でも、まだ制御できるわ!」


 マリンの額に汗が浮かんだ。


 アルベルも歯を食いしばりながら、両手に集まる膨大な魔力を必死に制御している。


 次の瞬間。


 ズズズズズ……!


 大地の奥底から響くような重い音が、里全体を包み込んだ。


 総一が顔を上げる。


 そこには、空を覆い尽くすほど巨大な魔法陣が浮かび上がっていた。


「……なんだ、この巨大な魔法陣は」


 十個のレベルストーンが、同時にまばゆい光を放った。

最後までお読みいただきありがとうございます。


今回は、エルフの里を守るためにマリンが大きな決断をしました。


そして登場したのは、五百年前にマリンの弟子だったアルベル。


五百五十歳になっても師匠の前では泣き虫という、ちょっと可愛らしい一面を見せてくれました。


そんな二人が力を合わせ、ついに始まった里の大移動。


果たして、この前代未聞の大魔法は成功するのでしょうか。


次回もお楽しみに!


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