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『最強探偵、異世界で攫われた相棒を探す旅に出る』  作者: れいじ
第3章 レベルスマウンテン編

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第55話 ベルガの居場所

いつもお読みいただきありがとうございます。


キャナルとの交渉を続ける総一。


事件の真相は明らかになりましたが、総一にはまだ確かめたいことがありました。


大切な相棒、薫を取り戻すために、さらなる情報を引き出そうとします。


果たして、交渉はうまくいくのでしょうか。


第55話、よろしくお願いします!

「じゃあ、知りたくない? レベルストーンの正体」


 総一の言葉に、キャナルの黒い耳がぴくりと動いた。


「……正体?」


「そう。あの透明な石が、どうやって生まれるのかって話」


 キャナルは目を細めた。


 レベルストーンは魔王軍が各地で探し求めている重要な石だ。その存在は知っていても、どこで、どのように生まれるのかまでは分かっていない。


 それを目の前の男が知っているという。


「本当に知っているの?」


「もちろん。さっきの取引でも嘘はつかなかっただろ?」


「……そうね」


 キャナルは総一の隣に立つマリンへ視線を向けた。


 先ほど受け取った二個のレベルストーンは本物だった。マリンが魔力を流し込んだ際の反応も、この目で確かめている。


 少なくとも、総一がまったく根拠のない話をしているとは思えなかった。


「それで、今度は何が欲しいの?」


「話が早くて助かるよ」


 総一は嬉しそうに笑った。


「ベルガの居場所を教えてほしい。ただそれだけだ」


「……またその話?」


「俺にとっては大事な話だからね」


 キャナルの表情が険しくなった。


「ベルガ様の居場所を教えることが、どれほど重大なことか分かっているの?」


「もちろん。だから、こっちも大事な情報を出そうとしてるんだろ」


「……」


「悪い取引じゃないと思うけどな」


 総一は余裕の笑みを浮かべ、キャナルの返事を待った。


 その横でマリンが小さくため息をつく。


「総一。あなた、魔王軍の幹部を相手にずいぶん楽しそうね」


「こういう交渉は嫌いじゃないんだよ」


「相手が美人だからでしょう?」


「それもある」


「否定しなさいよ」


 マリンの呆れた声にも、総一は笑っている。


 キャナルはそんな二人を見つめながら、頭の中で状況を整理していた。


 ベルガ様の居場所を教えるなど、本来なら許されることではない。


 しかも、この男がベルガ様を探している理由は分かっている。


 魔王ダグラス様に攫われた女、花咲薫。


 総一はその女を取り戻すため、魔王様へつながる手掛かりを追っているのだ。


 ベルガ様の居場所を教えれば、この男は間違いなくそこへ向かうだろう。


 だが、このことをすぐに報告すれば、ベルガ様が何とかしてくださるはず。


 相手がどれほど強くても、ベルガ様なら対処する方法を考えてくださる。


 それに、レベルストーンも二個手に入れた。


 ゴンザットという研究者の存在も、人工レベルストーンの研究についても報告できる。


 さらに、レベルストーンの正体まで分かれば、魔王軍にとって大きな成果になる。


 これだけの情報を持ち帰れば、きっとベルガ様も許してくださる。


 キャナルは自分にそう言い聞かせた。


 何より、目の前の男からこれ以上の情報を引き出せる機会は、そう何度もないだろう。


「……分かったわ」


 キャナルが静かに口を開いた。


「その取引、受けましょう」


「キャナル様!」


 壁際に控えていたリトリスが、思わず声を上げた。


「ベルガ様の居場所を人間に教えるなど!」


「リトリス。私が決めたことよ」


「ですが!」


「責任は私が取るわ」


 その一言で、リトリスは口を閉じた。


 キャナルは再び総一へ向き直る。


「ただし、あなたも約束を守ってもらうわよ」


「もちろん。俺は約束を破る男じゃないからね」


「……信用していいのかしら」


「女性との約束は特に大事にしてるよ」


「総一」


 マリンが低い声で名前を呼ぶ。


「はいはい。真面目にやります」


 総一が姿勢を正すと、キャナルは小さく息を吐いた。


「ベルガ様は現在、ラブリング島にいらっしゃるわ」


「ラブリング島?」


 聞き慣れない地名に、総一は首を傾げた。


「ここから南にある、大きな島よ」


「どのくらい大きいんだ?」


「島を一周するだけでも相当な時間がかかるわ。小さな島ではないわよ」


「へえ。そんな島があるのか」


「知らないの?」


 キャナルが意外そうな顔をした。


「ラブリング島は有名な観光地よ。島の形がハートに似ていることでも知られているわ」


「ハート形の島?」


 総一の顔が明るくなった。


「それはまた、ずいぶんロマンチックな場所だな」


「観光に行くわけじゃないでしょう」


 マリンがすかさず指摘する。


「分かってるって。でも、せっかく行くなら楽しみもあった方がいいだろ?」


「あなたの場合、楽しみの意味が違いそうね」


「失礼な。俺だって綺麗な景色くらい楽しむよ」


「綺麗な女性の間違いじゃないの?」


「両方かな」


 マリンは額に手を当てた。


 キャナルは二人のやり取りを不思議そうに眺めていたが、やがて話を続けた。


「島の中央には、ラブマウンテンという大きな火山があるわ」


「ラブリング島にラブマウンテンか。名前だけ聞くと平和そうだな」


「実際、観光客も多いわ。冒険者も大勢集まっている」


「冒険者も?」


「ええ。島には魔物が生息する地域もあるから、冒険者ギルドも賑わっているそうよ」


 総一は興味深そうに頷いた。


 観光客が集まり、冒険者も行き交う巨大な島。


 魔王軍が秘密裏に活動するには、かえって都合のいい場所なのかもしれない。


「それで、ベルガは島のどこにいるんだ?」


「そこまで詳しい場所は知らないわ。ただ、島にある小さな拠点を利用しているはずよ」


「小さな拠点?」


「ええ。マルガリーゼという幹部が、先に現地で活動していたの」


「マルガリーゼ……」


 総一はその名前を頭に刻んだ。


「その幹部が何か見つけたのか?」


「レベルストーンよ」


 キャナルの答えに、マリンの表情がわずかに変わった。


「ラブリング島でも見つかったの?」


「そう報告されているわ。発見された数や詳しい場所までは聞いていないけれど、ベルガ様が自ら向かわれるほどの情報だったということよ」


「なるほどな」


 総一は腕を組んだ。


 レベルストーンが見つかった。


 それなら、ベルガが向かった理由も納得できる。


「ベルガは一人で行ったのか?」


「いいえ。ジャネストも同行しているわ」


「ジャネストか」


 総一は以前の戦いを思い出した。


 浮遊する椅子に座った虎の魔族。


 強力な魔法を使いながらも、勝ち目がないと判断すると迷わず交渉に切り替えた男だ。


「あいつも一緒なら、話が早いかもしれないな」


「……あなた、ジャネストを何だと思っているの?」


「話の分かる相手かな」


「魔王軍の大幹部よ?」


「知ってるよ。でも、無駄な戦いをしないところは気に入ってる」


 キャナルは返す言葉を失った。


 普通の人間なら、魔王軍の四天王と大幹部の二人がいると聞けば警戒するはずだ。


 ところが、この男はまるで知り合いに会いに行くような口ぶりだった。


「……本当に変わった人ね」


「よく言われる」


 総一は笑い、椅子から少し身を乗り出した。


「さて、こっちの約束も果たさないとな」


 キャナルの耳が再び動く。


「レベルストーンの正体ね」


「そうそう」


 総一は隣のマリンを見た。


「マリン、説明してもいいよな?」


「取引すると決めたのはあなたでしょう」


「まあ、そうなんだけどさ」


「ただし、ちゃんと説明しなさいよ」


「任せてくれ」


 総一は自信満々に頷いた。


 そして、キャナルへ向き直る。


「実はな、レベルストーンっていうのは……」


 そこで一度、言葉を切った。


 キャナルは真剣な表情で続きを待つ。


 リトリスも聞き逃すまいと身を乗り出した。


 総一は二人の顔を見比べ、あっさりと言った。


「マナバブーンのウンコなんだよ」


「…………」


 広間が静まり返った。


 キャナルは瞬きもせず、総一を見つめている。


 リトリスも口を半開きにしたまま固まっていた。


「……何ですって?」


 ようやくキャナルが声を絞り出した。


「だから、マナバブーンのウンコ」


「二度言わなくていいわ!」


 キャナルの声が広間に響いた。


「あなた、私を馬鹿にしているの!?」


「いや、馬鹿になんかしてないよ」


「魔王軍が必死に探しているレベルストーンが、魔物の排泄物だと言うの!?」


「そういうことになるな」


「ふざけないで!」


 キャナルが勢いよく立ち上がった。


 背後ではリトリスが怒りに震えている。


「キャナル様! やはりこの男は我々を愚弄しています! 今すぐ!」


「リトリス、静かに!」


「しかし!」


「私が話しているの!」


 リトリスは悔しそうに歯を食いしばった。


 総一は困ったように頭をかく。


「いやあ、こうなるとは思ってたけどさ」


「だったら、もっとまともな説明をしなさい!」


 今度はマリンが怒った。


「あなた、わざとでしょう?」


「いや、事実を簡潔に伝えただけなんだけど」


「簡潔すぎるのよ!」


 マリンは総一を押しのけるように一歩前へ出た。


「キャナル。言い方はともかく、総一が言ったことは事実よ」


「……あなたまで?」


「マナバブーンの排泄物が、特定の環境で長い時間をかけて変化したもの。それがレベルストーンなの」


 キャナルは眉をひそめた。


「特定の環境?」


「魔素の濃い場所よ。ただし、どこでも同じように変化するわけじゃない。条件が揃わなければ、普通の排泄物のまま終わるの」


「……そんなことが」


「信じられないでしょうけど、本当よ」


 マリンの声は落ち着いていた。


 総一とは違い、冗談を言っている様子はない。


 キャナルは考え込んだ。


 魔素の濃い場所。


 マナバブーン。


 その二つが関係しているのなら、レベルストーンの発見場所にも何らかの共通点があるのかもしれない。


 だが、あまりにも突拍子もない話だった。


「……証拠はあるの?」


「今ここで見せるのは無理ね」


 マリンは正直に答えた。


「変化する瞬間を見つけること自体が難しいもの」


「それでは信じられないわ」


「信じるかどうかは自由よ」


 マリンは肩をすくめた。


「でも、レベルストーンを調べるなら、マナバブーンの生息地を調査する価値はあると思うわ」


 キャナルは黙り込んだ。


 目の前の二人が嘘をついている可能性はある。


 だが、もし本当だったら。


 魔王軍がこれまで探し続けていた石の入手方法が、大きく変わるかもしれない。


 それはベルガに報告する価値のある情報だった。


「……確認させてもらうわ」


 キャナルは静かに告げた。


「もちろん。好きなだけ調べてくれ」


 総一は軽く手を振った。


「ただし、マナバブーンを見つけたからって、すぐにレベルストーンが手に入るわけじゃないからな」


「分かっているわ」


「あと、ウンコを拾うときは気をつけて」


「もうその話はいいわ!」


 キャナルの尻尾が大きく揺れた。


 マリンは呆れた顔で総一の腕を引っ張る。


「もう帰るわよ」


「そうだな。聞きたいことも聞けたし」


 総一は椅子から立ち上がった。


「それじゃあキャナルちゃん、いろいろありがとな」


「……あなたに感謝されても、素直に喜べないわね」


「俺は楽しかったよ」


「私は疲れたわ」


「それは残念」


 総一は笑いながら出口へ向かった。


 マリンもその後に続く。


 扉の前で、総一がふと足を止めた。


「そうそう。キャナルちゃん」


「……まだ何かあるの?」


「ベルガによろしく伝えておいてくれ」


 キャナルの表情が引き締まった。


「本当に会いに行くつもりなのね」


「もちろん。まだ聞かなきゃいけないことがあるからな」


 総一の声から、先ほどまでの軽さが少し消えた。


 キャナルは、その理由を知っている。


 花咲薫。


 魔王に攫われた、総一の大切な相棒。


 この男は、彼女を取り戻すために旅を続けている。


「……ベルガ様を甘く見ないことね」


「忠告ありがとう」


 総一は振り返り、いつもの笑顔を見せた。


「じゃあ、またどこかで」


 扉が閉まった。


 広間には、キャナルとリトリスだけが残された。


「……キャナル様」


 リトリスが恐る恐る声をかける。


「本当によろしかったのですか?」


 キャナルはしばらく閉じた扉を見つめていた。


「よくはないわ」


 その答えに、リトリスが顔を上げる。


「でも、手に入れた情報は大きい。レベルストーン二個に、人工レベルストーンを研究するゴンザットというエルフ。そして、石の生成に関する新しい手掛かり」


 キャナルは自分に言い聞かせるように続けた。


「ベルガ様へ報告するわ。できるだけ早く」


「承知しました」


「それから、ゴンザットについても引き続き調べさせて。あの研究者は重要人物よ」


「エルフの里へ兵を向かわせますか?」


「ええ。ただし、今は総一たちがいる。無理に手を出さず、監視を優先しなさい」


「はっ!」


 リトリスが頭を下げた。


 キャナルは窓の外へ目を向ける。


 あの男は、本当にラブリング島へ向かうのだろう。


 そして、ベルガ様と再び接触する。


 そのとき何が起こるのか。


 考えたくもなかった。


 それでも、キャナルは自分の判断が間違っていないと信じたかった。


 ベルガ様なら、きっと何とかしてくださる。


 黒い尻尾を静かに揺らしながら、キャナルは報告の準備を始めた。

最後までお読みいただきありがとうございます。


ついにベルガの居場所が判明しました!


次なる目的地は、ハート形の島として知られるラブリング島。


そして、魔王軍が必死に探していたレベルストーンの正体まで明らかに。


まさかの事実に、キャナルも驚きを隠せませんでしたね。


総一たちの旅は、いよいよ新たな舞台へと向かいます。


次回もお楽しみに!


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