第53話 魔王軍の豪華な城
いつもお読みいただきありがとうございます。
森の奥で発見した、想像を絶する巨大な城。
その正体を確かめるため、総一とマリンは城内へと足を踏み入れます。
果たして、二人を待ち受けているのは何者なのでしょうか。
第53話、よろしくお願いします!
目の前にそびえ立つ巨大な城を、総一はしばらく呆然と見上げていた。
マリンの光魔法によって照らし出された白亜の城壁は、夜の闇の中でも眩しいほど美しく、幾つもの尖塔には黄金の装飾が施されている。正面にそびえる城門だけでも、普通の屋敷がすっぽり収まりそうな大きさだった。
「いやあ……何度見てもすごいねえ」
「いつまで見てるのよ。中に入るんでしょ?」
「そうだったね。キャナルちゃんに会わないと」
総一はようやく視線を下ろし、巨大な城門へ近づいた。
門には複雑な模様が彫り込まれ、中央には大きな魔族の紋章が刻まれている。見るからに頑丈そうな造りだったが、総一は特に気にした様子もなく、その表面に手を当てた。
「さて、開くかな?」
軽く押してみる。
しかし、門はびくともしなかった。
「鍵がかかってるみたいね」
「困ったなあ。せっかく来たのに」
「だからって、正面から入ろうとする人がいる?」
「裏口を探すのも面倒だしねえ」
総一はもう一度、門に両手を当てた。
「じゃあ、ちょっとだけ強く押してみようか」
次の瞬間。
バゴォォォン!
凄まじい音とともに、巨大な城門が内側へ吹き飛んだ。
重厚な扉は石畳の上を滑り、庭園の一角にある噴水へ激突する。水しぶきが高く舞い上がり、周囲に置かれていた彫像まで巻き込んで崩れ落ちた。
「…………」
総一は門のあった場所を見つめた。
「あら、ごめんね」
「ごめんね、じゃないでしょ!」
マリンが思わず声を上げる。
「いやあ、こんなに簡単に壊れるとは思わなくてさ」
「あんた、自分の力を少しは考えなさいよ!」
「次から気をつけるよ」
「絶対またやるわね……」
マリンは呆れたように額を押さえた。
そのとき、城門の向こうから慌ただしい足音が聞こえてきた。
「な、何だ今の音は!?」
「城門が破壊されたぞ!」
「敵襲だぁぁぁっ!」
夜の静寂を切り裂く叫び声が、城の敷地全体へ広がっていった。
総一は門の向こうを覗き込み、苦笑する。
「おっと、手荒いお出迎えだねえ」
◇
城門と本城の間には、広大な石畳の広場があった。
左右には美しく整えられた庭園が広がり、噴水や彫像が規則正しく並んでいる。城の正面には幅の広い階段が続き、その先に巨大な玄関扉が見えた。
しかし、総一がゆっくり景色を眺めている暇はなかった。
城のあちこちから武装した魔族たちが駆けつけてきたのだ。
剣を構えた者、槍を持つ者、弓を引き絞る者。さらに城内からも増援が現れ、広場はたちまち兵士たちで埋め尽くされた。
「侵入者を取り囲め!」
「絶対に城内へ入れるな!」
怒号が飛び交い、兵士たちが左右へ展開する。
その数は百人を軽く超えていた。
「……ずいぶん歓迎されてるねえ」
「歓迎じゃないでしょ。どう見ても」
「まあ、そうだよね」
総一は背後にいる拘束された魔族二人を振り返った。
「ちょっと危ないから、二人とも大人しくしててね」
「貴様ら、ここで終わりだ!」
一人が吐き捨てるように言った。
総一は困ったように笑った。
「そうなると困るんだけどなあ」
直後、兵士たちが一斉に動き出した。
先頭の数人が剣を振り上げて迫る。
総一はその間をするりと抜け、最初の一人の腕をつかんだ。
「よっと」
軽く身体をひねると、兵士は隣の仲間を巻き込みながら地面へ転がった。
続けて突き出された槍を片手で受け止め、そのまま引き寄せる。
「うわっ!」
槍を握っていた兵士が前のめりになったところを、総一は軽く押し返した。
それだけで三人がまとめて倒れ込む。
「な、何だこいつは!」
「怯むな! 数で押せ!」
後方から矢が放たれた。
しかし、総一が動くより早く、マリンが片手をかざす。
「まったく、面倒ね」
淡い光を帯びた防御結界が広がり、飛んできた矢をすべて弾き落とした。
さらにマリンが指先を動かすと、兵士たちの足元から光の縄が伸び、十数人をまとめて拘束する。
「ぐっ! 動けない!」
「魔法使いだ! あの女を狙え!」
「だから、無駄だってば」
マリンが軽く手を振ると、広場を駆け抜けた突風が兵士たちを次々と吹き飛ばした。
石畳の上を転がった者たちは、武器を手放したまま呻いている。
総一も次々と襲いかかる兵士たちを、拳や蹴りで軽くあしらっていた。
必要以上に傷つけるつもりはない。
ただ、立ちはだかる相手を退かしているだけだった。
「ほらほら、危ないから下がっててよ」
「ふざけるなぁ!」
大柄な魔族が巨大な斧を振り下ろす。
総一は片手で斧の柄をつかみ、その動きを止めた。
「なっ……!」
「重そうな武器だねえ」
次の瞬間、斧を取り上げられた魔族は、軽く肩を押されただけで数メートル後方へ転がった。
周囲の兵士たちが息を呑む。
「ば、化け物だ……」
「何なんだ、あいつら……!」
最初は勢いよく襲いかかっていた兵士たちも、次第に足を止め始めた。
倒れた仲間が増える一方で、侵入者の二人には傷一つない。
それどころか、総一は相変わらず気の抜けた表情を浮かべている。
「もういいんじゃない? こっちは話をしに来ただけなんだけど」
誰も答えなかった。
やがて一人が武器を落とし、後ずさった。
「む、無理だ! 勝てるわけがない!」
「退け! いったん退却だ!」
その声をきっかけに、兵士たちは次々と城内へ逃げ込んでいった。
広場には、倒れた兵士たちと散乱した武器だけが残された。
「終わったみたいね」
「そうだねえ。じゃあ、中に入ろうか」
総一は何事もなかったように歩き出した。
◇
城の内部は、外観に負けないほど豪華だった。
広々とした玄関ホールには巨大なシャンデリアが吊るされ、磨き上げられた大理石の床には繊細な模様が描かれている。
壁には大きな絵画が並び、廊下の両側には高価そうな壺や彫像が飾られていた。
「……すごいわね」
マリンが思わず呟く。
「本当だねえ。これだけ広いと掃除するのも大変そうだ」
「感想がそれ?」
「いや、だってさ。誰が掃除してるんだろうと思って」
「知らないわよ」
そんな会話を交わしながら、二人は階段を上っていく。
途中で何度か兵士たちが立ちはだかったものの、総一とマリンの前ではまともな戦闘にすらならなかった。
魔法で動きを封じられ、あるいは総一に武器を取り上げられ、次々と道を開けることになる。
やがて、姿を見ただけで逃げ出す兵士まで現れ始めた。
城門から広場、そして城内へ。
総一たちの前に立ちはだかった魔族は、合わせて百五十人ほどに達していた。
しかし、二人の歩みを止められる者は一人もいなかった。
「……あれ?」
総一が足を止めた。
目の前には、これまでよりもひときわ豪華な扉があった。
振り返ると、長い階段が下へ続いている。
「どうしたの?」
「いやあ、いつの間にか一番上まで来ちゃったみたいだね」
「本当ね。ずいぶん上ったわ」
マリンは肩を軽く回した。
その後ろには、最初に捕まえた魔族二人が、相変わらず光の縄で拘束されたまま立っている。
総一は豪華な扉を見つめた。
「さて、キャナルちゃんはいるかな?」
そのときだった。
「待つのだぁぁぁっ!」
甲高い声が廊下に響き渡った。
奥の扉が勢いよく開き、小柄な魔族が姿を現した。
背丈は総一の腰ほどしかなく、豪華な衣装を身にまとっている。身体は小さいが、胸を大きく張り、威厳を示そうとする態度だけは誰にも負けていなかった。
「き、貴様ら! ここがどこだと思っておるのだ!」
総一は目を丸くした。
「……小さいねえ」
「な、何だとぉぉ!?」
「いや、ごめんごめん。ちょっと驚いただけだよ」
小柄な魔族は顔を真っ赤にして地団駄を踏んだ。
「わしはリトリス! ベルガ様に仕える十人の幹部の一人なのだ! 無礼者め!」
「へえ、幹部さんなんだ。俺は田端総一。よろしくね」
「よろしくではないわぁ!」
リトリスの大声が廊下に響き渡る。
総一は思わず耳を押さえた。
「元気だねえ。それで、キャナルちゃんはいるかな?」
その名前を聞いた瞬間、リトリスの表情が変わった。
「……キャナル様に何の用なのだ?」
「ちょっと聞きたいことがあってね。久しぶりに顔も見たいし」
「キャナル様はここにはおらん! さっさと帰るのだ!」
「そうなの? 残念だなあ」
総一は困ったように頭をかいた。
しかし、すぐに何かを思い出したように振り返った。
「そうそう。キャナルちゃんの部下を二人ほど連れてきたんだよ」
総一が横へ退くと、マリンの拘束魔法で縛られた二人の魔族が姿を現した。
「な、何ぃぃ!?」
リトリスが目を見開く。
「お、お前たち! 何をしておるのだ!」
「リトリス様……申し訳ありません」
二人は悔しそうに俯いた。
リトリスは総一へ向き直り、小さな身体を震わせた。
「き、貴様! その二人を今すぐ解放するのだ!」
「いやあ、それはちょっと無理かな」
「何だと!?」
「まだ聞きたいことがあるんだよ。キャナルちゃんに会わせてくれたら、ちゃんと話し合うつもりなんだけどね」
「だ、だから! キャナル様はここにはおらんと言っておるだろう!」
「そっか。じゃあ、仕方ないね」
総一は肩をすくめた。
そして、いつもの穏やかな表情のまま、リトリスを見つめた。
「出てこないなら、この二人がどうなっても知らないよ?」
「なっ……!」
リトリスの顔から血の気が引いた。
「き、貴様ぁ! 卑怯だぞ!」
「そうかな? 俺はただ話がしたいだけなんだけどねえ」
総一は笑っていた。
だが、その目はリトリスのわずかな表情の変化も見逃していなかった。
キャナルがいないという言葉。
それを口にするたび、リトリスの視線は奥の扉へ向かっている。
総一は小さく笑みを深めた。
「まあ、キャナルちゃんに伝えてくれるだけでいいんだけどね」
リトリスは唇を噛み、返す言葉を探していた。
そのとき。
「……相変わらず、強引な人ですね」
廊下の奥から、聞き覚えのある女の声が響いた。
リトリスが勢いよく振り返る。
「キャ、キャナル様!」
奥の扉が静かに開き、一人の女性魔族が姿を現した。
艶のある黒い毛並み。しなやかな身体。そして、暗闇の中でも鋭く光る瞳。
黒豹の獣人、キャナルだった。
総一は嬉しそうに片手を上げた。
「おっ、キャナルちゃん。久しぶり!」
キャナルは総一を見つめ、小さくため息をついた。
「……まさか、こんな形で再会するとは思いませんでした」
総一は笑みを浮かべたまま、ゆっくりと彼女へ歩み寄った。
「いやあ、俺もだよ。ちょっと聞きたいことがあるんだよねえ」
その言葉に、キャナルの瞳がわずかに細くなった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
今回も総一とマリンの圧倒的な強さが発揮されました。
百五十人もの兵士をものともせず、ついに魔王軍幹部のリトリス、そしてキャナルと再会した総一。
果たして、ゴンザットを連れ去った目的は何だったのでしょうか。
次回は総一とキャナルのやり取りが中心となります。
続きも楽しみにしていただけると嬉しいです!
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