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『最強探偵、異世界で攫われた相棒を探す旅に出る』  作者: れいじ
第3章 レベルスマウンテン編

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第52話 消えた足跡の先

いつもお読みいただきありがとうございます。


ゴンザットを救出した総一たちは、犯人を捕まえるために張り込みを続けます。


そして夜、ついに姿を現した二人の魔族。


総一とマリンは、事件の真相に迫ることができるのでしょうか。


第52話、よろしくお願いします!

森の中に、張り詰めた空気が漂っていた。


 地下の隠れ家から出てきた二人の魔族は、目の前に立つ総一とマリンを警戒するように身構えている。


 どちらも黒い外套をまとい、顔の半分を布で隠していた。月は厚い雲に覆われ、森の中はほとんど光が届かない。マリンが浮かべた小さな光球だけが、二人の姿をぼんやりと照らしていた。


「さて、ちょっと話を聞かせてもらおうか」


 総一が穏やかに声をかける。


「……何が目的だ」


「それはこっちの台詞だよ。あの地下室にいたエルフのおじいさんを迎えに来たんだろ?」


 二人の視線が一瞬だけ交わった。


 その小さな反応を、総一は見逃さなかった。


 改めて二人の顔を眺めると、どこかで見たような気がした。


 はっきりとは思い出せない。しかし、以前ビジュールで出会った魔族たちの姿が頭に浮かぶ。


 ベルガの右腕であるジャネスト。そして、黒豹の獣人である諜報部隊長キャナル。


 確か、キャナルの周囲にいた魔族の中に、こんな顔をした者がいたような気がする。


「……もしかして、キャナルちゃんの部下かな?」


 二人の表情がわずかに強張った。


「おや、当たりかな? ところで、キャナルちゃんは元気にしてる?」


「…………」


「だんまりか。久しぶりに会いたいんだけどなあ」


 軽い調子で話しかけても、二人は答えない。


 総一は困ったように頭をかいた。


「別に喧嘩したいわけじゃないんだよ。おじいさんを連れ去った理由を聞きたいだけなんだけどね」


 その言葉が終わるより早く、右側の魔族が動いた。


 懐から短剣を抜き、総一の胸元へ突き出す。同時に、もう一人が背を向けて森の奥へ走り出した。


「おっと」


 総一は身体をわずかにずらし、突き出された腕をつかんだ。


 そのまま軽くひねる。


「ぐあっ!」


 短剣が地面に落ち、魔族の身体が宙を舞った。


 鈍い音とともに背中から地面へ落ちた男は、何が起きたのか理解できない様子で総一を見上げている。


「危ないなあ。話の途中だろ?」


 一方、逃げ出した魔族はすでに木々の間へ入り込んでいた。


「マリン、そっちはお願い」


「言われなくても!」


 マリンが片手をかざす。


 次の瞬間、逃走していた魔族の身体に光の縄が巻きついた。


「なっ!」


 両腕を胴体に固定された魔族は、勢いを失って地面に転がった。


 さらにマリンが指先を動かすと、総一の足元に倒れていた魔族にも同じ縄が巻きつく。


「はい、これで終わり」


「さすが大賢者様。仕事が早いねえ」


「当然でしょ」


 魔族二人は必死に身体をよじったが、光の縄は緩む気配すらない。


「何だ、この魔法は……!」


「無駄よ。私より強い魔力がなければ、その拘束は破れないわ」


 マリンは平然と言い放った。


 その言葉を聞いた二人の表情が、さらに険しくなる。


 総一は落ちていた短剣を拾い、刃を確かめてから少し離れた場所へ置いた。


「安心してよ。殺すつもりはないからさ」


「……どうするつもりだ」


「キャナルちゃんのところまで、一緒に来てもらおうかな」


「場所など教えるものか!」


「うん。そう言うと思った」


 総一はあっさり頷いた。


「だから、自分で探すよ」


 そう言って、二人が現れた森の奥へ視線を向けた。


 先ほどまで暗闇に溶け込んでいた地面を、マリンの光球が淡く照らしている。


 落ち葉の乱れ方や、踏みつけられた草の向き。


 注意して見なければ気づかないほど小さな痕跡だったが、総一の目には進むべき方向がはっきりと見えていた。


「こっちだね」


「本当に分かるの?」


「まあ、たぶんね」


「また適当なこと言って」


「探偵の勘ってやつだよ」


 マリンは疑わしそうに総一を見たが、それ以上は何も言わなかった。


 こういうときの総一が、妙に頼りになることを知っているからだ。


 ◇


 森の奥へ進むにつれ、木々の間隔が狭くなっていった。


 厚い雲に覆われた夜空からは月明かりも届かず、光球の照らす範囲を一歩外れれば、足元さえ見えなくなるほど暗い。


 湿った土の匂いが漂い、ときおり遠くから夜行性の魔物らしい鳴き声が聞こえた。


 マリンは光球を少し前方へ移動させ、地面を照らした。


「これくらいで見える?」


「十分だよ。あんまり明るくすると、向こうに気づかれちゃうからね」


「分かってるわ」


 総一は先頭を歩き、マリンがその後ろに続く。


 拘束された魔族二人は、マリンの魔法によって逃げられない状態のまま歩かされていた。


 何度か立ち止まる場面はあったものの、総一は迷うことなく進んでいく。


 やがて、三十分以上が経過した。


「……結構遠いわね」


 マリンが小さく息を吐いた。


「そうだねえ。ずいぶん慎重に場所を選んだみたいだ」


「まだ着かないの?」


「もう少しだと思うよ」


「さっきもそんなこと言ってなかった?」


「そうだったかな?」


「絶対言ったわよ」


 総一は笑ってごまかしながら、光球に照らされた足元の落ち葉を見つめた。


 ここまで続いていた痕跡が、少しずつ薄くなっている。


 そして、さらに数分歩いたところで足を止めた。


「……おかしいな」


「どうしたの?」


「足跡が消えた」


 マリンが光球を動かし、周囲を照らす。


 そこには、これまでと変わらない森が広がっていた。


 大きな木々が立ち並び、地面には落ち葉が積もっている。建物はもちろん、人が通れそうな道すら見当たらない。


「方向を間違えたんじゃない?」


「いや、それはないと思うんだけどねえ」


 総一は振り返り、拘束された魔族二人を見た。


 二人とも口を閉ざしていたが、先ほどまでとは明らかに様子が違う。


 落ち着かない視線。


 わずかに強張った表情。


 総一は口元に笑みを浮かべた。


「……何かあるな」


「え?」


「この辺り、もう少し調べてみてよ」


「分かったわ」


 マリンは目を閉じ、周囲へ意識を集中させた。


 森を流れる自然の魔力に混じって、何か別のものが存在している。


 ほんのわずかな違和感。


 普通の魔法使いなら気づかずに通り過ぎてしまうほど微弱な反応だった。


 だが、マリンはその違いを見逃さなかった。


「……見つけた」


「何が?」


「結界よ。この先に何かが隠されているわ」


 総一は目の前の暗闇を眺めた。


「へえ。エルフの里みたいなもの?」


「似ているけど、仕組みが違うわ。エルフの里は空間魔法で隠されているの。こっちは結界で外から見えなくしているだけね」


「どっちも見えなくなるんだから、同じようなものじゃない?」


「全然違うわよ。空間魔法の方がずっと高度なの」


「なるほどねえ。じゃあ、こっちはどうやって入るの?」


「入り方を知らなくても、結界を破壊すればいいわ」


「それは簡単でいいね」


「普通は簡単じゃないわよ」


 マリンは呆れたように言いながら、目の前の空間へ手を伸ばした。


 その表情が、少しだけ真剣になる。


「……でも、妙ね」


「何か問題でも?」


「前にベルガの拠点で見た結界より、ずいぶん弱いのよ」


「そうなの?」


「ええ。あのときはレベルストーンを四個も使ったでしょう? ベルガ自身が強化していたから、あれほど強力だったんだと思う」


 マリンは結界の魔力を慎重に探った。


「今回はまだ強化されていないみたい。もしかすると、ベルガはここに来ていないのかもしれないわね」


「そっか。じゃあ、キャナルちゃんに聞くことが増えそうだ」


 総一は魔族二人へ視線を向けた。


「悪いねえ。ちょっとお邪魔するよ」


「や、やめろ!」


 一人が思わず声を上げた。


 しかし、マリンはすでに魔力を集中させていた。


「遅いわよ」


 彼女の手のひらから放たれた光が、何もない空間へ吸い込まれる。


 次の瞬間。


 バキィィン!


 まるで巨大なガラスが割れるような音が、森全体に響き渡った。


 目の前の景色に無数の亀裂が走り、木々の姿が大きく歪む。


 そして、結界が砕け散った。


 しかし、その向こうに広がっていたのは深い闇だった。


「……何も見えないねえ」


「待って。明かりを広げるわ」


 マリンが手をかざすと、頭上に浮かんでいた光球がゆっくりと前方へ移動した。


 淡い光が周囲を照らし、暗闇の中から巨大な石造りの門が浮かび上がる。


「……門?」


 マリンがさらに魔力を込める。


 光球が輝きを増し、その光が左右へと広がっていった。


 門の両側には、見上げるほど高い城壁が続いている。


「ずいぶん大きな建物みたいね」


「いや、ちょっと待って……」


 総一が目を凝らす。


 マリンは光の届く範囲をさらに広げた。


 すると、城壁の向こうから幾つもの尖塔が姿を現した。


 白く磨かれた石壁。黄金の装飾が施された屋根。精巧な彫刻が並ぶ巨大な柱。


 光が上へ、左右へと広がるにつれ、建物の輪郭が次々と明らかになっていく。


 それでも、まだ全体が見えない。


「……マリン、もうちょっと明るくできる?」


「できるけど?」


「頼むよ」


「分かったわ」


 マリンが両手を広げる。


 光球が一際強く輝き、広大な敷地を一気に照らし出した。


 その瞬間、夜の森に隠されていた建造物の全貌が明らかになった。


 天を突くような無数の尖塔。幾重にも連なる壮麗な屋根。黄金の装飾が輝く白亜の城壁。


 広大な庭園まで備えた、豪華絢爛な巨大城。


 総一は口を開けたまま、その光景を見上げた。


「…………」


「総一?」


 マリンが隣から声をかける。


 そして次の瞬間。


「なんじゃこりゃぁぁぁっ!」


 総一の絶叫が、夜の森に響き渡った。


「ちょっと! うるさいわよ!」


「いやいやいや! 何だよ、これ! 城じゃねえか!」


「そうね。お城ね」


「そうね、じゃないだろ! なんで森の中にこんなもんがあるんだよ!」


 総一は呆然と城を見上げた。


「……魔族って、どんだけ金持ちなんだよ」

最後までお読みいただきありがとうございます。


ついに発見した魔王軍の新たな拠点。


ところが、結界の向こうに現れたのは、想像をはるかに超える豪華絢爛な巨大城でした。


さすがの総一も、これには驚きを隠せなかったようですね。


果たして、この城には誰がいるのでしょうか。そして、キャナルの姿はあるのでしょうか。


次回もお楽しみに!


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