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『最強探偵、異世界で攫われた相棒を探す旅に出る』  作者: れいじ
第3章 レベルスマウンテン編

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第51話 戻ってきた者たち

いつもお読みいただきありがとうございます。


森の地下で、ついに行方不明だったゴンザットを発見した総一たち。


無事に救出することはできましたが、誰が何の目的で連れ去ったのかは謎のまま。


総一は真相を探るため、ある行動に出ます。


第51話、よろしくお願いします!

掘り返された地面の下には、人が一人通れるほどの穴が開いていた。


 総一が身をかがめて覗き込むと、奥へ向かって緩やかな斜面が続いている。外から差し込む光は途中までしか届かず、その先は薄暗くなっていた。


「……誰かいるな」


「えっ、本当ですか?」


 シンが隣から覗き込む。


「気配が一つ。動いてはいないみたいだけどね」


「私が明かりを出すわ」


 マリンが小さな光球を生み出すと、総一は先頭に立って地下へ降りていった。


 湿った土の匂いが鼻をつき、足元からひんやりとした冷気が伝わってくる。壁は土魔法で固められているらしく、自然の洞窟とは違って表面が滑らかだった。


 奥まで進んだところで、シンが声を上げた。


「ゴンザットさん!」


 そこには、手足を縛られたゴンザットが横たわっていた。


 白い髪は乱れ、着ている服には土がついている。しかし、目立った外傷は見当たらなかった。


 シンが駆け寄ろうとすると、総一が片手を上げた。


「ちょっと待って。まず周りを確認しよう」


 一行は慎重に室内を調べたが、ほかに人の姿はない。簡素な寝台と水の入った容器が置かれているだけで、生活していたような形跡もなかった。


「見張りもいないのか……」


 ナバルが不思議そうに呟いた。


「ずいぶん不用心だな」


「それだけ見つからない自信があったのかもしれないね」


 総一はそう答え、ゴンザットのそばにしゃがみ込んだ。


 サリーがすぐに脈と呼吸を確認する。


「大丈夫です。眠っているだけみたいですね。ただ、普通の眠りとは少し違う感じがします」


「眠らされた可能性があるってことか」


「はい。おそらく何かの薬を使われたんだと思います」


 マリンはゴンザットの手首を縛る紐に目を留めた。


「待って。この紐、魔法がかけられてるわ」


「切っちゃ駄目なのか?」


 総一が尋ねると、マリンは首を振った。


「無理に外すと締めつけが強くなる仕組みみたい。普通の人が触ったら危ないわね」


「なるほど。じゃあ、マリン頼んだよ」


「任せて」


 マリンが紐に指を添えると、淡い光が走った。しばらくして紐から魔力が消え、彼女は慎重に結び目をほどいていく。


「これで大丈夫よ」


 拘束が解かれた手首を見た瞬間、総一の表情がわずかに変わった。


 皮膚には赤黒いあざが残っていた。手首を囲むようについたその痕には、見覚えがある。


(……アンリちゃんと似てるな)


 今朝、研究所の前で見た傷だった。


 総一は反対側の手首も確かめたが、やはり同じようなあざが残っている。


「総一、どうしたの?」


「いや、ちょっと気になることがあってね」


 総一はそれ以上口にせず、サリーに場所を譲った。


 サリーが回復魔法をかけ、しばらく様子を見ていると、ゴンザットのまぶたがゆっくりと動いた。


「……う、うむ?」


 ゴンザットが小さく声を漏らした。


 マリンはすぐに顔を近づけ、その表情を確かめた。


「ゴンザット、私がわかる?」


「……マリンか? ここは、どこじゃ?」


「森の地下よ。あなた、何者かに連れ去られたみたいなの」


「連れ去られた……?」


 ゴンザットは身体を起こそうとしたが、まだ力が入らないらしく、サリーに支えられた。


「最後に覚えていることは?」


 総一が尋ねる。


「昨夜、家に戻ったところまでは覚えておる。そのあとは……どうにも思い出せん」


「誰かに会った記憶は?」


「いや……ないのう」


 ゴンザットは困惑した表情で辺りを見回した。


「わしは、どうしてこんなところにおるんじゃ?」


「それを今から調べるところだよ」


 総一は穏やかに答えた。


◇


 地上へ戻ると、森には昼前の明るい陽光が差し込んでいた。


 ゴンザットはサリーに支えられながら、ゆっくりと歩いている。まだ足元はおぼつかないものの、命に別状はなさそうだった。


「さて、みんなはじいさんを里へ連れて帰ってくれるかな」


「総一さんはどうするんですか?」


 シンが尋ねると、総一は地下室の入口へ視線を向けた。


「俺はもう少しここに残るよ」


「何か調べるの?」


「犯人を待ってみようと思ってね」


 マリンが眉を上げた。


「ここに戻ってくると思うの?」


「たぶんね。わざわざこんな場所に隠したんだ。いつまでも放っておくつもりじゃないだろうから」


「でも、いつ戻ってくるかわからないわよ?」


「張り込みってのは、そういうものだよ」


 総一は軽く笑った。


 シンは自分も残ると言いかけたが、総一は首を振った。


「じいさんを安全に送り届けてほしいんだ。頼めるかな」


「……わかりました」


「俺も残った方がいいんじゃねえか?」


 ナバルが口を挟む。


「お前はじいさんの護衛を頼むよ。何があるかわからないからね」


「しょうがねえな。帰ったら酒でも奢れよ」


「なんでそうなるんだよ」


 総一が苦笑すると、ナバルは満足そうに笑った。


 マリンは少し迷っている様子だったが、結界の裏口を開けられるのは彼女だけだった。


「総一、一人で大丈夫?」


「大丈夫だよ。こういうのは慣れてるから」


「……わかったわ。でも、あとで様子を見に来るからね」


「それなら、何か食べ物でも持ってきてくれると嬉しいな」


「こんなときまで食べ物の心配?」


「腹が減ってちゃ、いい仕事はできないからね」


 マリンは呆れたようにため息をついた。


 総一が地下室の入口から離れると、彼女は魔法で土を戻し、掘り返された場所をできる限り元の状態に整えた。


 完全に隠しきれたわけではないが、遠目にはただの地面に見える。


 一行を見送った総一は、近くの大木に目を向けた。


「さて、仕事の時間だな」


 軽く地面を蹴ると、その身体は音もなく枝の上へ移動した。


◇


 森の中で、時間だけがゆっくりと過ぎていった。


 総一は太い枝に腰を下ろし、地下室の入口を見下ろしていた。


 気配を消し、呼吸を整える。


 風が葉を揺らす音や遠くの鳥の声が聞こえるものの、人が近づく様子はない。


 一時間が過ぎ、さらに時間が流れた。


「……なかなか来ないねえ」


 総一は小さく呟いた。


 探偵時代にも、こうして何時間も待ち続けたことがある。張り込みは派手な仕事ではない。むしろ、何も起きない時間の方が圧倒的に長かった。


 ふと、薫の顔が浮かんだ。


 昔は彼女と交代で張り込みをすることも多かった。総一が退屈そうにしていると、決まって呆れた顔をされたものだ。


(薫なら、こんなとき何て言うかな……)


 そんなことを考えていると、背後から小さな声が聞こえた。


「総一」


 振り返ると、マリンが近くの枝に立っていた。


 いつの間にか日は傾き、木々の間から差し込む光も赤みを帯びていた。


「おっ、戻ってきたのか」


「まだ誰も来てないの?」


「残念ながらね。そろそろ腹が減ってきたところだよ」


「そう言うと思った」


 マリンは小さな包みを差し出した。


 中にはパンと焼いた肉、それに果物が入っている。


「おお、助かるよ。さすがマリン、いい女だねえ」


「食べ物を持ってきただけでしょ」


「いやいや、こういう気遣いができる女性は素敵だと思うよ」


「……調子がいいんだから」


 そう言いながらも、マリンは少し嬉しそうだった。


 総一はパンを頬張り、久しぶりの食事を楽しんだ。


「そういえば、じいさんは?」


「無事に里へ戻ったわ。ボンズもカリーナも安心してた。バルフ様にも事情を説明しておいたから」


「そりゃよかった」


「それで、これからどうするの?」


「もう少し待ってみようか。戻ってこなければ、別の方法を考えるよ」


 マリンは総一の隣に腰を下ろした。


「私も付き合うわ」


「いいのか?」


「ここまで来て、一人だけ帰れないでしょ」


「そりゃ心強いな」


 二人はしばらく言葉を交わしながら、静かな森を見守っていた。


◇


 やがて太陽が山の向こうへ沈み、森は急速に暗さを増していった。


 昼間は明るかった木々の間も、今では奥まで見通すことが難しい。冷たい夜風が枝を揺らし、遠くから夜行性の鳥の鳴き声が聞こえてくる。


 総一とマリンは枝の上に身を潜めたまま、地下室の入口を見守り続けていた。


 さらに時間が過ぎた頃だった。


 総一が不意に顔を上げた。


「……来たな」


「え?」


「二人いる。こっちに向かってるよ」


 マリンもすぐに口を閉じ、周囲の魔力を探った。


 やがて暗い木々の向こうから、二つの人影が現れた。


 どちらも暗い色の外套をまとい、周囲を警戒しながら歩いている。月明かりさえ届きにくい森の中で、その姿は木々の影に紛れていた。


 総一はマリンに目配せし、二人で息を潜めた。


 男たちは地下室のある場所へ近づくと、突然足を止めた。


「……おい、何だこれは」


「土が動かされているぞ」


 一人がしゃがみ込み、地面を調べ始める。


「誰かが掘り返したのか?」


「馬鹿な。こんな場所を見つけられるはずが……」


 もう一人が辺りを見回した。


 総一は二人の様子を注意深く観察していた。


 外套の隙間から覗く肌や耳の形は、エルフとも人間とも違う。さらに、微かに漏れる魔力には、以前遭遇した魔王軍の者たちと似た気配があった。


(……魔族か)


 総一は目を細めた。


 これで、少なくともゴンザットを隠した場所に魔族が関わっている可能性は高くなった。


 だが、今すぐ飛び出すつもりはなかった。


 二人が何をしに来たのか、もう少し確かめたかったからだ。


「まずいぞ。中を確認する!」


 男たちは慌てて土をどかし、地下室へ降りていった。


 総一は枝の上から、その様子を静かに見守った。


「……どうするの?」


 マリンが小声で尋ねる。


「もう少し待とう。何を探してるのか、はっきりさせたいからね」


 ほどなくして、地下から慌ただしい足音が響いてきた。


「いないぞ!」


「そんな馬鹿な! 確かにここに置いたはずだ!」


 二人が地上へ飛び出してきた。


 その顔には明らかな焦りが浮かんでいる。


 総一は小さく息を吐き、枝から地面へ降り立った。


「探し物かい?」


 突然聞こえた声に、二人の男が振り返った。


 そこには、いつものように軽い笑みを浮かべた総一が立っていた。


「お探しのじいさんなら、もういないよ」


 男たちの表情が凍りつく。


 その背後で、マリンも静かに地面へ降り立った。


 総一は二人を見比べながら、ゆっくりと口を開いた。


「さて……ちょっと話を聞かせてもらおうか」

最後までお読みいただきありがとうございます。


今回は久しぶりに、総一の探偵らしい張り込みが描かれました。


そして、夜の森に現れた二人の怪しい男たち。


ようやく事件の真相につながる手掛かりをつかめそうですね。


果たして、総一は二人から何を聞き出すのでしょうか。


次回もお楽しみに!


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