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『最強探偵、異世界で攫われた相棒を探す旅に出る』  作者: れいじ
第3章 レベルスマウンテン編

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第50話 森に消えた足跡

いつもお読みいただきありがとうございます。


突然姿を消したゴンザットを捜し、森の奥へと進む総一たち。


わずかな痕跡を頼りに調査を続けますが、途中で足取りが途絶えてしまいます。


果たして、ゴンザットの行方につながる手掛かりは見つかるのでしょうか。


第50話、よろしくお願いします!

研究所の裏手から続く細い道を、総一たちは慎重に進んでいた。


 朝の陽光が木々の隙間から差し込み、足元の草にはまだ露が残っている。里の中心部から離れるにつれ、人々の話し声は聞こえなくなり、代わりに鳥のさえずりと葉の擦れる音が辺りを満たしていた。


「総一さん、本当にこちらで間違いないんですか?」


 シンが前を歩く総一に尋ねた。


「間違いないとまでは言えないけどね。少なくとも、誰かがここを通った形跡はあるよ」


 総一は歩みを緩め、道の端に生えた草へ視線を落とした。


 何本かの茎が同じ方向へ倒れ、柔らかな土には靴底で踏まれたような跡が残っている。普通なら気にも留めないほど小さな変化だったが、今の総一には不思議なほどはっきりと見えていた。


「……やっぱり、前よりよく見えるな」


「何がですか?」


「いや、こっちの話」


 総一は軽く笑って歩き出した。


 その後ろでは、マリンが周囲の魔力を探りながら進んでいる。


「こっちで合ってるわ。微かだけど、さっきの魔力がまだ残ってる」


「便利だな、魔法ってのは」


「総一だって、どうしてそんな小さな足跡が見えるのよ」


「長年の勘ってやつかな」


「絶対それだけじゃないでしょ」


 マリンが呆れたように言うと、総一は肩をすくめた。


 しばらく進んだところで、総一が突然立ち止まった。


「……ん?」


「どうした?」


 ナバルが背後から覗き込む。


「足跡がここで途切れてる」


「途切れてるって、どういうことだよ」


「そのままの意味だよ。ここまでは続いてるのに、この先には見当たらないんだ」


 総一は目の前の木々を眺めた。


 道らしい道はまだ先へ続いている。しかし、追ってきた痕跡だけが不自然に消えていた。


「マリン、魔力は?」


「……変ね。ここで急に薄くなってる」


 マリンは周囲を見回したあと、何かに気づいたように顔を上げた。


「そういうことね」


「何かわかったのか?」


「ここ、結界の裏の出入り口よ」


「裏口?」


「ええ。里の結界には出入り口が二つあるの。普段使っている表の出入り口と、森へ通じる裏の出入り口」


 総一は辺りを見回したが、門らしいものはどこにもなかった。


「何も見えないけど?」


「当然よ。場所を知らなければ見つけられないようになってるんだから」


「なるほど。隠し扉みたいなものか」


「そんなところね。それに、場所がわかっても開け方を知らなければ通れないわ」


 シンが不思議そうに首を傾げた。


「では、ここを通った人物は、出入り口の場所と開け方を知っていたということですか?」


「そうなるわね」


 総一は腕を組んだ。


 エルフの里は結界に守られている。外部の者が簡単に出入りできないのなら、里の事情を知る者が関わっている可能性もある。


 もっとも、エルフ本人とは限らない。誰かに開けてもらえば、同行者も通れるからだ。


「とりあえず、向こうを調べてみようか」


「わかったわ。少し待ってて」


 マリンは木々の間に立ち、片手を前へ伸ばした。


 指先から淡い光が広がると、何もなかった空間に薄い波紋が生まれた。水面を揺らすように光が広がり、やがて人が通れるほどの開口部が姿を現す。


「おお、すげえな」


 ナバルが感心した声を上げた。


「これ、知らなかったら絶対わかんねえぞ」


「だから結界なのよ」


 マリンに促され、一行は順番に開口部を通り抜けた。


 最後にマリンが通ると、背後の光は静かに消え、そこには再び何の変哲もない森の景色が広がった。


◇


 結界の外は、里の中よりも空気がひんやりとしていた。


 高い木々が陽光を遮り、地面には湿った落ち葉が厚く積もっている。遠くで鳥が鳴いていたが、その姿は見えない。


「さて、こっちにも残ってるかな」


 総一はしゃがみ込み、落ち葉を指先で払いのけた。


 しばらく地面を調べていたが、やがて小さく頷いた。


「あった」


「本当ですか?」


「ほら、ここ。土が少し沈んでるだろ」


 シンが隣にしゃがんだものの、やはりよくわからないらしい。


「……言われれば、そんな気もします」


「気がするだけかよ」


 ナバルが笑うと、シンは困ったように眉を下げた。


「ナバルさんには見えるんですか?」


「いや、全然」


「それなら笑わないでくださいよ」


「まあまあ。仲良くやろうぜ」


 総一は二人の肩を軽く叩き、再び歩き始めた。


 森の奥へ進むにつれ、足跡は少しずつわかりにくくなっていった。


 それでも総一は、落ち葉の乱れや踏み折られた小枝を見つけ、進む方向を確かめていく。


 やがて、一本の太い木の根元で足を止めた。


「……複数人だな」


「え?」


 シンが聞き返す。


「足跡が重なってる。少なくとも二人以上は通ってるみたいだ」


「ゴンザットさんも一緒だったんでしょうか?」


「それはまだわからない。ただ……」


 総一は少し離れた場所に残る足跡へ目を向けた。


「こっちの跡は、さっきより深いな」


「体格の大きな人物でしょうか?」


「その可能性もあるけど、途中で何か重いものを持ったのかもしれないね」


 シンの表情が険しくなった。


「では、ゴンザットさんが運ばれた可能性も……」


「ある。でも、決めつけるのは早いよ」


 総一は立ち上がり、森の奥へ視線を向けた。


 もし誰かがゴンザットを連れ去ったのなら、何のためにこんな場所を通ったのか。


 研究が目的なのか。それとも、別の理由があるのか。


 今のところ、答えにつながるものは何一つ見つかっていない。


「総一、こっちの魔力もだいぶ薄くなってきたわ」


 マリンが声をかけた。


「そっちもか。まあ、もう少し進んでみよう」


◇


 それからしばらく歩いたところで、総一は再び足を止めた。


 目の前には、木々に囲まれた小さな空間が広がっている。


 地面には落ち葉が積もり、周囲と変わったところは見当たらない。


 しかし、総一が追っていた足跡は、そこで完全に途切れていた。


「……おかしいな」


「また消えたんですか?」


「そうみたいだね」


 総一は周囲をゆっくり見回した。


 木の根元、茂みの奥、落ち葉の下まで調べてみるが、それらしい痕跡は見つからない。


「空でも飛んでいったのかねえ」


「飛行魔法ならあり得るわね」


 マリンが頭上の枝を見上げた。


「でも、ここにはそれらしい魔力が残ってないのよ」


「じゃあ、木の上でも渡っていったか」


「それも考えられるわ」


 総一は太い枝が何本も重なった頭上を眺めた。


 身軽な者なら、枝から枝へ移動することも不可能ではないだろう。ただ、何者がどちらへ向かったのかを判断できる痕跡はなかった。


「困ったな。ここまで来て行き止まりか」


「どうしますか、総一さん?」


「もう少し周囲を調べてみよう。何か見落としてるかもしれない」


 総一とシンは手分けして辺りを調べ始めた。


 マリンも目を閉じて魔力を探ったが、しばらくすると首を横に振った。


「駄目ね。これ以上はわからないわ」


 そのときだった。


「おーい、ちょっと休まねえか?」


 ナバルが大きく伸びをした。


「朝からずっと歩きっぱなしだろ。少しくらいいいじゃねえか」


「ナバルさん、まだ調査中ですよ」


「わかってるって。ちょっと座るだけだよ」


 そう言ってナバルは、近くの木陰に腰を下ろした。


 ところが、座った途端に妙な顔をした。


「……ん?」


 ナバルは腰を浮かせ、足元の地面を見つめた。


「何だ、これ」


「どうした、ナバル?」


 総一が振り返る。


「いや、なんかここだけ柔らかいんだよ」


「柔らかい?」


「ほら、こっちと比べてみろよ」


 ナバルは指先で地面を押した。


 周囲の土は固く締まっているのに、彼が座っていた場所だけは簡単に指が沈む。


「それに、土の色もちょっと違わねえか?」


 総一が近づき、隣にしゃがみ込んだ。


 落ち葉を払いのけると、確かにその一角だけ土がわずかに明るい。


 指先ですくってみると、周囲よりも柔らかく、細かな土が簡単に崩れた。


「……本当だな」


「だろ?」


 ナバルが得意げに胸を張った。


「どうやら、最近掘り返されたみたいだ」


「えっ、じゃあ何か埋まってるんですか?」


 シンも駆け寄ってきた。


「それは調べてみないとわからないな」


 総一はナバルを見上げた。


「やるじゃないか、ナバル。たまには役に立つな」


「たまには余計だ!」


 ナバルの抗議に、シンが思わず笑った。


 しかし、総一の視線はすでに地面へ戻っていた。


 こんな森の奥で、誰かがわざわざ土を掘り返している。


 しかも、追ってきた痕跡が途切れた場所と重なっていた。


 偶然と考えるには、少々出来すぎている。


「マリン、ちょっと頼めるか?」


「何をすればいいの?」


「この辺りの土を掘り返してほしいんだ。できる?」


「それくらい簡単よ」


 マリンは地面へ手をかざした。


「みんな、少し離れて」


 一行が後ろへ下がると、マリンの足元に淡い魔法陣が浮かび上がった。


 次の瞬間、地面がゆっくりと盛り上がり始めた。


 土が左右へ押し分けられ、絡みついていた木の根が露わになる。湿った土の匂いが辺りに広がり、積もっていた落ち葉が風に舞った。


「おお……」


 ナバルが目を丸くした。


 マリンがさらに魔力を込めると、盛り上がった土の下から、ぽっかりと黒い空間が現れた。


 総一は思わず身を乗り出した。


 掘り返された地面の下には、自然にできたとは思えない空洞が広がっている。


「……おいおい、何だよこれ」


 ナバルの声から、先ほどまでの軽さが消えていた。


 シンも驚いた様子で穴を覗き込む。


「総一さん、これは……」


 総一は暗い空洞を見つめたまま、ゆっくりと口を開いた。


「……地下があるぞ」

最後までお読みいただきありがとうございます。


今回は総一の探偵としての観察力に加え、ナバルも思わぬところで活躍してくれました。


そして、森の地面の下から現れた謎の空間。


果たして、この地下には何が隠されているのでしょうか。


次回、総一たちは地下の調査へと進みます。


続きも楽しみにしていただけると嬉しいです!


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