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『最強探偵、異世界で攫われた相棒を探す旅に出る』  作者: れいじ
第3章 レベルスマウンテン編

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第49話 消えた研究者

いつもお読みいただきありがとうございます。


エルフの里で穏やかな一日を過ごした総一たち。


しかし翌朝、思いがけない出来事が起こります。


突然姿を消したゴンザット。

果たして、どこへ行ってしまったのでしょうか。


第49話、よろしくお願いします!

エルフの里に、穏やかな朝が訪れた。


 木々の間から差し込む陽光が石畳を照らし、通りには焼きたてのパンの香りが漂っている。


 そんな平和な朝とは裏腹に、カリーナは朝から落ち着かない様子で研究所の中を歩き回っていた。


「ゴンザットさん、どこへ行ったんだろう……?」


 いつものように研究所の片づけを始めようとしたのだが、ゴンザットの姿が見当たらない。


 研究机には資料が広げられたままで、昨夜まで作業をしていたことがうかがえる。


 最初は散歩にでも出かけたのだと思った。


 しかし、研究に夢中になると食事さえ忘れるゴンザットが、何も言わずに研究所を空けるのは珍しい。


 カリーナはボンズに相談し、二人で自宅や里の中を探して回った。


「じいちゃん、どこ行ったんだ……?」


「いつもなら、もう研究を始めてる時間なのにね」


 何度か行きそうな場所を探したものの、ゴンザットは見つからなかった。


 二人は顔を見合わせ、里長バルフの家へ向かった。


「バルフ様、じいちゃんを見かけませんでしたか?」


「ゴンザットか? いや、昨日から会っておらんが」


「そうですか……」


「どうした。何かあったのか?」


「朝から姿が見えないんです。家にも研究所にもいなくて」


「私も朝から探してるんですけど、どこにもいないんです」


 カリーナも心配そうに付け加えた。


 バルフは白い眉を寄せた。


「ふむ。あやつのことだ。何か思いついて森へ出かけたのかもしれんぞ」


「僕もそう思ったんですが……」


 ボンズは言葉を濁した。


 どうにも胸騒ぎがする。


 それを見たバルフは、しばらく考えたあと口を開いた。


「念のため、総一殿にも相談してみるか」


◇


「行方不明?」


 エリナバールの家で朝食を終えた総一は、訪ねてきたボンズとカリーナの話に眉を上げた。


「はい。じいちゃんが朝からどこにもいないんです」


「散歩にでも出かけたんじゃないのか?」


「それならいいんですが、研究所も昨日のままで……」


 総一は腕を組んだ。


 人が突然いなくなる理由など、いくらでもある。


 急な外出、事故、あるいは事件。


 今の話だけでは、どれとも判断できなかった。


「まあ、とりあえず現場を見せてもらおうか」


「ありがとうございます!」


「総一さん、僕も行きます」


 隣で話を聞いていたシンが立ち上がった。


「俺も行くぜ。どうせ暇だしな」


 ナバルも椅子から腰を上げる。


「お前、暇じゃなくてもついてくるだろ」


「そりゃそうだ。面白そうなことを見逃す手はねえ」


「人がいなくなってるんだぞ。面白がるなよ」


 総一が呆れると、ナバルは肩をすくめた。


 その後、知らせを受けたマリンとサリーも合流し、一行はゴンザットの研究所へ向かった。


◇


「おかしいわね……」


 研究所に入るなり、マリンが首を傾げた。


 机の上には研究資料が積み重なり、魔石や鉱石の入った容器が所狭しと並んでいる。


「三日前、ここで一緒に研究したばかりなのよ。あのときは、かなり興奮してたのに」


「何か進展があったんですか?」


 シンが尋ねる。


「人工レベルストーンの研究よ。まだ完成には程遠いけど、いくつか重要なことがわかったの」


「へえ。そりゃ、ますます研究を続けたくなるだろうな」


 総一は机の上を眺めた。


 開いたままの資料。


 書きかけの記録。


 途中まで整理された魔石。


 いずれも、持ち主が作業を中断したまま戻っていないように見える。


「ボンズ、じいさんは普段からこんな感じなのか?」


「はい。研究中はいつも散らかっています。カリーナが片づけても、すぐ元どおりで……」


「本当にそうなんです。昨日も片づけたばかりなのに、もうこんな状態で」


 カリーナが困ったように笑った。


「なるほど。じゃあ、この散らかり具合は手がかりにならないな」


「すみません」


「謝ることじゃないよ。普段と同じってのも大事な情報だからな」


 総一は室内をゆっくり歩いた。


 倒れた家具はない。


 床に血痕も見当たらない。


 何者かが暴れたような形跡もなかった。


「今のところ、事件かどうかもわからないな」


「じいちゃん、自分で出かけたんでしょうか?」


「その可能性もある。まずは最後に姿を見た人を探そう」


 そう答えたときだった。


「……ん?」


 総一が足を止めた。


 鼻先に、何かが引っかかった。


 ごく微かな匂い。


 研究所には薬品や鉱石の独特な匂いが漂っている。その中に、別の匂いが混じっていた。


(……どこかで嗅いだな)


 総一は記憶をたどった。


 それほど昔ではない。


 つい最近、どこかで。


「総一?」


 マリンに声をかけられ、顔を上げる。


「いや、何でもない」


「何か見つけたんじゃないの?」


「ちょっと気になる匂いがしてな」


「匂い?」


 マリンも鼻を動かしたが、首を傾げた。


「薬品の匂いならするけど」


「それとは違うんだよな……」


 総一はもう一度考えた。


 そして、ふと昨日の光景が浮かんだ。


 淡い緑色のワンピース。


 白い花の髪飾り。


 隣を歩いていたアンリの笑顔。


(……もしかしてアンリちゃん?)


 似た匂いを嗅いだ気がする。


 だが、あまりにも微かで確信が持てなかった。


 そもそも、アンリが研究所を訪れていたとしても、それだけでおかしいとは言えない。


「どうしたのよ。難しい顔して」


「いや、何でもない。ほかも調べようか」


 総一はそれ以上口にせず、研究所を出た。


◇


 研究所の外では、アンリがサリーと一緒に待っていた。


「総一さん!」


「おう、アンリちゃん。おはよう」


「ゴンザットさん、まだ見つからないんですか?」


「今、調べてるところだ。ところで、昨日はありがとう、すごく楽しかったよ」


「私もです。ありがとうございました」


 アンリは嬉しそうに微笑んだ。


 その髪には、昨日総一が贈った白い花の髪飾りがついている。


「おっ、今日もつけてくれてるんだな」


「はい。気に入ってますから」


「そりゃ嬉しいな」


 総一が笑ったとき、アンリが髪を直そうと腕を上げた。


 その袖口から、赤黒いあざが覗いた。


「……アンリちゃん、その手首どうしたの?」


「え?」


 アンリは自分の腕に目を落とした。


「あ、これですか? 実は私もよくわからなくて」


「わからない?」


「今朝気づいたんです。ほかにも小さな傷があって……いつできたのか覚えてないんですよ」


「ちょっと見せてもらっていいか?」


「はい」


 総一は差し出された手首を眺めた。


 細長いあざが、手首を囲むようについている。


(……何かで縛られた痕にも見えるな)


 ただ、似た傷ができる理由はほかにもある。


「痛みは?」


「少しだけです。大したことありませんよ」


「そうか。無理しないようにな」


「ありがとうございます」


 アンリが袖を戻した。


 そのとき、総一はもう一つの違和感に気づいた。


(……あれ?)


 匂いが違う。


 昨日、隣を歩いていたときに感じたものとは、どこか違っていた。


「そういやアンリちゃん、香水変えた?」


「え? 香水ですか?」


「うん。昨日とちょっと匂いが違う気がしてね」


「私、香水はつけてませんよ?」


「そうなの?」


「はい。どうしてですか?」


「いや、昨日はいい香りがしたもんだからさ。てっきり香水かと思って」


「ふふっ。総一さんって、そんなところまで気づくんですね」


「美人のことはよく覚えてるんだよ」


 アンリは少し照れたように笑った。


 総一も笑い返したが、心の中では首を傾げていた。


(……香水じゃないのか)


 もっとも、石鹸や服の匂いだってある。


 それだけで何かを判断するつもりはなかった。


「じゃあ、傷はお大事に」


「はい。ありがとうございます」


 総一は軽く手を振り、研究所の裏手へ向かった。


◇


 建物の裏には細い道が続き、その先には木々が生い茂っていた。


 森へ向かって延びるその道は、里の中心部に比べて人通りが少ない。


 総一は地面にしゃがみ込んだ。


「……妙だな」


「何がですか?」


 後ろからシンが覗き込む。


「いや、前より痕跡が見えるようになった気がするんだよな」


「痕跡?」


「ほら、ここ。土が少し削れてるだろ」


 総一が指差した場所を、シンがじっと見つめる。


「……すみません。僕にはよくわかりません」


「俺にもさっぱりだ」


 ナバルも首をひねった。


「まあ、普通は気づかないだろうな」


 総一自身も不思議だった。


 以前なら見落としていたような小さな足跡や、草のわずかな乱れが、妙にはっきり目に入ってくる。


 マナバブーンと戦ってから、身体の感覚が少し変わったような気もする。


 もっとも、本人はそれほど気にしていなかった。


「総一、ちょっと待って」


 今度はマリンが声を上げた。


 彼女は目を閉じ、周囲の魔力を探っていた。


「……変ね」


「何かあったか?」


「微かだけど、魔力が残ってるの」


「魔力?」


「ええ。ただ、普通の魔法とは少し違う感じがするのよ。何かが混じってるような……」


 マリンは眉を寄せた。


 長年魔法を研究してきた彼女でも、すぐには正体を判断できないらしい。


「どっちの方向だ?」


「少し待って……」


 マリンはゆっくりと顔を動かし、やがて森へ続く道を指差した。


「あっちね。もうほとんど消えかけてるけど」


 総一はその方向を見た。


 自分が見つけた痕跡も、同じ方角へ続いている。


「……なるほどな」


「何かわかったの?」


「奇遇だな。俺もそっちが気になってた」


「え?」


「地面に痕跡が残ってる。誰のものかはわからないけどな」


 マリンは目を丸くした。


「私の魔力感知と、総一の見つけた痕跡が同じ方向ってこと?」


「そういうことだね」


「偶然かしら?」


「さあね。だから確かめに行くんだろ?」


 総一は立ち上がり、服についた土を払った。


「総一さん、僕たちも一緒に行きます」


 シンが剣の柄に手を添えた。


「もちろんだ。じいさんが森で迷ってるだけなら、それが一番いい」


「迷子のじいさん探しに勇者まで出動かいな」


 ナバルが笑う。


「何もなけりゃ、それでいいんだけどな」


 総一は軽く笑い返し、森へ続く道に目を向けた。


「……本当に、じいさんはどこ行ったんだ」


 そう呟くと、総一は痕跡を追って歩き始めた。

最後までお読みいただきありがとうございます。


今回は、ゴンザットの失踪をきっかけに、総一の探偵としての一面が描かれました。


研究所に残された微かな匂い、森へ続く痕跡、そしてマリンが感じ取った不思議な魔力。


少しずつ手掛かりが見つかり始めましたが、果たしてゴンザットの行方につながるのでしょうか。


次回、総一たちは森の奥へと向かいます。


続きも楽しみにしていただけると嬉しいです!


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