第44話 レベルストーンの研究者
レベルスマウンテンから戻った総一たちは、レベルストーンを長年研究しているゴンザットのもとへ。
そこで語られる、長年の研究で判明した新たな事実とは……。
第44話、よろしくお願いします!
レベルスマウンテンを下り、エルフの里へ戻った総一たちは、その足でゴンザットのもとへ向かった。
マリンの記憶を頼りに里の奥へ進んでいくと、やがて木々の間に大きな建物が見えてくる。
石造りの土台に、太い木材を組み合わせた二階建ての建物だった。
マリンが足を止める。
「……ここ?」
「知らないのか?」
「場所は合ってると思うだけど。でも、昔はこんなに立派じゃなかったのよ」
五百年という年月を考えれば、建物が変わっていても不思議ではない。
それでもマリンは懐かしそうに辺りを見回していた。
「よく来てたのか?」
「幼馴染がいたのよ。ゴンザットの息子のジグゾー。昔はあいつについて、よく研究室にも遊びに来てたわ」
「研究者だったのか?」
「全然。遊んでばっかりだった」
そう言って、マリンが扉を叩いた。
しばらくして扉が開く。
「はーい!」
現れたのは一人の女のエルフだった。
年齢は分からない。
特別目を引くような美人というわけではなく、体つきもごく普通だ。
だが、にこっと笑った顔が妙に印象に残る。
「こんにちは! ゴンザットさんにご用ですか?」
「いるかな?」
「いますよ! 今日も朝からずーっと研究してます。たぶんお昼も食べてません」
「相変わらずね……」
「お知り合いですか?」
「まあね。マリンが来たって言えば分かるわ」
「マリンさんですね! どうぞどうぞ!」
女はカリーナと名乗り、五人を中へ招き入れた。
「……すごいな」
総一は思わず呟いた。
外から見たときはかなり大きな建物だった。
ところが中は狭い。
正確には、物が多すぎて狭く感じる。
壁一面の棚には本や資料がぎっしりと詰まり、机の上には透明な石や色とりどりの魔石、用途の分からない器具が並んでいる。
床にまで箱や紙束が置かれていた。
「昔より酷くなってない?」
マリンが呆れたように言う。
「そうなんですよ!」
カリーナが勢いよく頷いた。
「私も片づけたいんですけど、勝手に触ると怒るんです」
「誰が怒るって?」
奥から男の声がした。
やがて、資料の山の向こうから一人の老人が姿を現す。
白くなった長い髪。
顔には深い皺が刻まれ、見た目だけならかなりの老人だ。
しかし背筋は伸びている。
鼻筋の通った顔立ちや鋭さの残る目元には、老いてなお不思議な色気があった。
総一は老人の顔を眺めた。
この爺さん、若い頃は相当モテただろうな。
そんなことを考えていると、老人の視線がマリンで止まった。
「……もしかしてマリンか?」
「久しぶりね、ゴンザット」
しばらく二人は互いの顔を見つめていた。
先に口を開いたのはマリンだった。
「あなたもずいぶん老けたわね」
「五百年ぶりに会って最初に言うことがそれか」
「だって本当にお爺ちゃんになってるんだもの」
「八百年近く生きてるんだ。これくらいは許せ」
ゴンザットはマリンを上から下まで眺めた。
「それより、お前は変わらんな」
「そう?」
「その馬鹿みたいな魔力のせいだろ。昔から老けにくかったからな」
「馬鹿みたいは余計よ」
「褒めてるんだ」
「聞こえないわね」
ゴンザットが小さく笑った。
「それで、ジグゾーは?」
「畑に出てる」
「……畑?」
マリンが目を丸くする。
「あのジグゾーが畑仕事?」
「エルフだって五百年あれば変わるさ。今じゃ子供も孫もいる」
「へえ……あのジグゾーがね」
マリンの声が少しだけ柔らかくなった。
「皆さん、こっちへどうぞ!」
カリーナが奥の扉を開ける。
その向こうへ入った総一は、思わず後ろを振り返った。
「同じ建物だよな?」
こちらは綺麗に片づいていた。
大きなテーブルを中心に椅子が並び、床には紙一枚落ちていない。
「ここは私が管理してますから!」
カリーナが胸を張る。
「じゃあ、あっちも片づければいいだろ」
「それができないんですよ。資料をちょっと動かしただけで怒るんです」
「怒ってない」
後ろからゴンザットが入ってくる。
「この前なんて紙を三枚重ね直しただけですよ?」
「あれには順番がある」
「ほら!」
「なるほど」
総一は納得した。
「納得するな」
ゴンザットが苦笑した。
そこへもう一人、男のエルフが入ってくる。
エルフという言葉から受ける細身の印象とはかなり違った。
太い腕に厚い胸板。
かなり鍛えている。
「じいちゃん、これでいいか?」
男は手にしていた資料をゴンザットへ渡した。
「そこに置いといてくれ」
「分かった」
ゴンザットが総一たちを見る。
「こいつはボンズ。俺のひ孫だ」
「ボンズです」
簡単な挨拶を交わす。
カリーナはすぐにボンズの横へ行き、手にしていた資料を受け取った。
「それ私が片づけるよ」
「頼む」
「あと、さっき探してた資料も見つけたから!」
「早いな」
「でしょ?」
嬉しそうに笑うカリーナを見て、総一はなんとなく納得した。
どうやらボンズの助手らしい。
◇
「それで、何の用だ?」
全員が席につくと、ゴンザットが尋ねた。
「レベルスマウンテンへ行ってきたの」
「ほう」
「昔の採掘場にも行ったんだけどね。でも、レベルストーンがほとんどなかったわ。見つけたのはほんの数個だけ」
「そりゃそうだ」
あまりにもあっさり返され、マリンが眉を寄せた。
「どういうこと?」
「あそこのレベルストーンなら、俺とボンズがかなり回収したからな」
「あなたたちが?」
「今でも山にはよく行ってるんでな」
ボンズも頷く。
「マナバブーンの調査で、俺も月に何度か入ってます」
「じゃあ、魔族に持っていかれたわけじゃなかったのね」
「全部を把握してるわけじゃない。だが、あの採掘場で見つかったものなら、かなりの数がここにある」
ゴンザットが立ち上がった。
「見せてやるよ」
再び研究室へ戻る。
棚の一角に置かれた箱を開けると、中には透明な石がいくつも並んでいた。
「こんなに……」
シンが驚く。
「これ、全部レベルストーンですか?」
「そうだ」
「でも見ただけじゃ分からないんだろ?」
総一が尋ねる。
「もちろん。俺やボンズだけじゃ判別できない」
「じゃあ、どうやって?」
「アルベルだ」
マリンの表情が変わった。
「アルベル?」
「覚えてるだろ」
「当たり前よ。私の弟子だったんだから」
「今じゃ里一番の魔法使いだ」
「……あの子が?」
「その言い方をしたら怒るぞ。もう五百五十だ」
「私から見れば、あの子はあの子よ」
「今日はどうしてるの?」
「里の用事で出てる。相変わらず御用聞きみたいなことをやってるよ」
ゴンザットは箱の中から一つ取り出した。
「こいつを確実に判別するには、それなりの魔力が必要だからな。アルベルにはずいぶん世話になってる」
「へえ……」
マリンはどこか嬉しそうだった。
「欲しいなら何個か持っていけ」
「いいの?」
「構わん。数ならある」
そう言ってから、ゴンザットの口元がゆっくり上がった。
「ただ、その前に」
「何よ」
「せっかく大賢者様が五百年ぶりに帰ってきたんだ。俺たちの研究成果でも聞いていかんか?」
「……なんでそんなに嬉しそうなのよ」
「そりゃ楽しいからだ」
ゴンザットの目が輝いていた。
先ほどまでの老人らしい雰囲気が消えている。
「俺は何百年もレベルストーンを調べてきた。だが、ここ数年で急に分かることが増えた」
ゴンザットがボンズの肩を軽く叩く。
「こいつのおかげでな」
「ボンズが?」
「俺が調べてるのはマナバブーンです」
ボンズが答える。
「俺は石。ボンズは猿」
「マナバブーンな、じいちゃん」
「似たようなもんだ」
「研究対象だからそこはちゃんとしてくれ」
ゴンザットは楽しそうに笑った。
「別々のものを調べてたはずなのにな。それが最近、あるところでつながった」
「つながった?」
マリンが聞き返す。
「そうだ。しかも、とんでもない形でな」
ゴンザットは立ち上がると、研究室の奥へ向かった。
しばらくして、一つの透明な容器を持って戻ってくる。
中に入っていたのは、黒紫色の塊だった。
総一はそれを見た瞬間、嫌な記憶が蘇った。
「……これ、さっきの」
マリンの顔も引きつる。
「ちょっと待って。それって……」
「マナバブーンの排泄物だ」
「やっぱり!」
マリンが反射的に一歩下がった。
「なんでそんなものを大事そうに持ってるのよ!」
「大事な研究材料だからだ」
「私、今日それを顔に浴びたのよ!」
「それは災難だったな」
「そんな軽く言わないでよ!」
ゴンザットは笑いながら、手にした容器を机へ置いた。
「だがな、マリン」
「何よ」
「俺とボンズがマナバブーンを調べていて、最近とんでもないことが分かった」
ゴンザットの表情が変わった。
「お前たちが探しているレベルストーン」
「それが?」
ゴンザットは黒紫色の塊を指差した。
「こいつが、その正体だ」
「…………は?」
「レベルストーンは、マナバブーンの排泄物からできてる」
「えええええええええっ!?」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
まさかのレベルストーンの正体が判明しました。
これまで総一たちが必死に探してきた石が、まさかそこに繋がるとは……。
マリンにとっては、できれば一生知りたくなかった事実かもしれません(笑)
そして、ゴンザットとボンズの研究によって、まだ何か分かってきそうです。
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