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『最強探偵、異世界で攫われた相棒を探す旅に出る』  作者: れいじ
第3章 レベルスマウンテン編

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第40話 五百年ぶりの帰郷

レベルスマウンテンを目前にした総一たち。


しかし、その途中で見つけたのは傷ついた一人のエルフの少年でした。


そして今回、これまでさらっと仲間に加わっていたマリンの意外な正体も明らかになります。


五百年間、一度も帰らなかった故郷。


どうやら素通りとはいかなさそうです。


今回もよろしくお願いします!

翌朝。


 昨夜、街道脇で野営した総一たちは、朝早くから馬車を走らせていた。


 目指すレベルスマウンテンは、昨日よりもはるかに大きく見える。


 街道の両側には深い森が広がり、進むにつれて道も細くなっていた。


「このまま進めば山の麓に出るのか?」


 総一が窓の外を眺めながら尋ねる。


「ええ。ただ、途中から馬車では進めなくなると思うわ」


 向かいに座るマリンが答えた。


「そこから歩きか」


「そうなるでしょうね」


「また尻が痛くなるよりマシか」


「まだ言ってるの?」


「一晩寝たら治ると思ったんだけどな」


 総一が座る位置を少しずらす。


 その様子を見て、サリーが小さく笑った。


 昨日からずっとこの調子だった。


 ただ、マリンは昨日より少し落ち着かないようにも見える。


 理由は総一にも分かっていた。


 この近くにはレベルスマウンテンだけでなく、マリンが生まれ育ったエルフの里もある。


「ちなみに里はどっちなんだ?」


「行かないわよ」


「まだ何も言ってないだろ」


「顔に書いてあるもの」


「せっかく五百年ぶりに近くまで来たんだから、顔くらい出せばいいのに」


「嫌」


「喧嘩の原因も覚えてないんだろ?」


「それとこれとは別よ」


「何が別なんだよ」


「別ったら別なの」


 完全に子供の理屈だった。


 総一はそれ以上触れないことにした。


 マリンが長バルフと何を揉めたのかは知らない。


 本人が覚えていないくらいなのだから、よほど大したことではなかったのだろう。


 それでも五百年間帰らないのだから、エルフという種族は気が長いのか短いのかよく分からない。


 そのときだった。


「ナバル、止めてくれ」


 突然、総一が声を上げた。


「どうした?」


「ちょっと待ってくれ」


 馬車がゆっくりと止まる。


 シンが総一を見る。


「何かありましたか?」


「……血の臭いがする」


 マリンの表情が変わった。


 総一は馬車から降りると、森の中へ目を向ける。


 街道から少し外れた草の上に、小さな赤い跡が残っていた。


「血ですね」


 後から降りてきたシンが確認する。


 総一はしゃがみ込み、周囲を見る。


 血痕は一つではない。


 折れた枝。


 踏み荒らされた草。


 さらに少し先にも血が落ちている。


「誰か逃げてきたみたいだな」


 総一はその跡を追った。


 シンたちも続く。


 森へ入って百メートルほど進んだところで、総一の足が止まった。


「いた」


 大きな木の根元。


 一人の少年が倒れていた。


 淡い金色の髪。


 そして髪の間から覗く、細く尖った耳。


「エルフ……」


 シンが呟く。


 その瞬間、マリンが総一たちを押し退けるように前へ出た。


「ちょっと!」


 少年のそばへ膝をつく。


 服は泥と血で汚れ、背中から肩にかけて大きく裂けている。


「息はある」


「サリー」


「はい!」


 サリーがすぐに少年の横へ座った。


 両手を傷口へかざす。


 柔らかな光が少年の身体を包み、傷が少しずつ塞がっていく。


 総一は周囲を確認した。


 足元に拳ほどの石が転がっている。


 その一つに血が付着していた。


「これか」


 拾い上げる。


 ただの石だ。


 だが少年の傷を見る限り、ただ投げられただけとは思えない。


 マリンも石を見る。


 その顔から表情が消えた。


「……マナバブーン」


「分かるのか?」


「たぶんね。この辺りに、こんな石をあの威力で投げられる魔物なんて他にいないもの」


 昨日聞いた話を総一は思い出した。


 人間の十倍ほどの腕力。


 頭がよく、道具も使う。


「でも、ここってまだ山じゃないだろ?」


「だから変なのよ」


 マリンが森の奥を見る。


「マナバブーンはレベルスマウンテンに棲む魔物よ。少なくとも私が知っている頃は、こんな場所まで下りてこなかった」


「五百年前の話だけどな」


「……それを言われると弱いわね」


 やがて少年が小さく身じろぎした。


「う……」


「大丈夫ですか?」


 サリーが優しく声をかける。


 ゆっくりと目を開けた少年は、見知らぬ人間たちを見て身体を強張らせた。


「人間……?」


「大丈夫。助けただけだ」


 シンが安心させるように答える。


 しかし少年はまだ警戒している。


 その視線が、総一からサリーへ移り、最後にマリンで止まった。


「……え?」


 少年が目を見開く。


 マリンが首を傾げた。


「何?」


「まさか……」


 少年は信じられないものを見るようにマリンを見つめる。


「大賢者……マリン様?」


「なんで私を知ってるのよ」


 今度はマリンが驚いた。


 だが、それ以上に大きな反応を見せたのはシンだった。


「大賢者マリン……?」


 シンが目を見開く。


「まさか、あの大賢者マリンですか?」


「何? 知ってるの?」


「知ってるも何も……」


 シンは言葉を失ったようにマリンを見つめた。


 大賢者マリン。


 その名は、古い魔法の歴史を語るときに登場する。数百年前、数々の高度な魔法を操ったとされる伝説的なエルフの魔法使い。


 御者台から様子を見に来ていたナバルまで驚いた顔をした。


「俺でも名前くらいは聞いたことがあるぞ。昔の人物だと思ってたが……」


「昔の人物って何よ。生きてるわよ」


「いや、普通はそう思うだろ。何百年前の話だぞ」


 総一だけが三人の顔を順番に見た。


「そんなに有名なのか?」


「総一さん、知らないんですか?」


「俺、この世界に来てまだそんなに経ってないんだぞ」


「それは……そうでした」


 総一は改めてマリンを見る。


「お前、大賢者だったの?」


「そう呼ぶ人もいるわね」


「初めて聞いたぞ」


「聞かれなかったもの」


「いや、普通もうちょっと早く言わない?」


「自分から『私は大賢者です』なんて言う方が恥ずかしいでしょ」


「それは確かに」


 総一はあっさり納得した。


 エタコーナはそんなやり取りを不思議そうに見ていた。


「里にはマリン様の肖像画もあります」


「肖像画?」


 マリンの顔が引きつる。


「はい。とても有名です」


「……誰がそんなもの残したのよ」


 マリンは心底嫌そうな顔をした。


「あなた、名前は?」


「エタコーナです」


「エタコーナね。どうしてこんなところにいたの?」


「アネポワールを採りに……」


「アネポワール?」


 総一が聞き返す。


「この辺りで採れる果物よ」


 マリンが答えた。


「梨に似ていて、一年に一度だけ実をつけるの」


 一瞬だけ、マリンの声が妙に柔らかくなった。


「……美味いのか?」


「すごく美味しいわよ」


 即答だった。


「好きなんだな」


「悪い?」


「何も言ってないだろ」


 エタコーナによれば、里の外にある森には毎年アネポワールを採りに行く場所があるという。


 今日も一人でそこへ向かった。


 危険な場所ではない。


 今までも何度も行ったことがある。


 ところが突然、明るい紫色の猿のような魔物が現れた。


「魔法を使ったんです。でも……」


「吸収されたのね」


 マリンの問いにエタコーナが頷く。


「それで逃げました。でも、後ろから石を投げられて……」


 総一は手に持った石を見る。


 まともに当たれば、大人でもただでは済まない。


 エタコーナがここまで逃げられたのは運が良かったのだろう。


「何匹いた?」


「最初は三匹でした。でも逃げている途中で、もっと……」


「もっと?」


「木の上にたくさんいました」


 マリンの顔から、完全に笑みが消えた。


「そんなところまで群れが広がってるなんて……」


 昨日までの情報とは明らかに違う。


 五百年。


 天敵のほとんどいない山で、豊富な魔素を食べ続けてきた。


 その間に何が起きたのか。


「一度、里で話を聞いた方がよさそうだな」


 総一が言う。


「……」


「マリン?」


「……」


「聞こえてる?」


「聞こえてるわよ」


 マリンは露骨に嫌そうな顔をした。


「でも、エタコーナをこのままにはできないでしょ」


「じゃあ決まりだな」


「嬉しそうね」


「五百年ぶりの再会なんて滅多に見られないからな」


「見世物じゃないわよ!」


 エタコーナが不思議そうに二人を見ている。


 そこでマリンが何気なく尋ねた。


「そういえば、あなたの両親は?」


「父がコールズで、母がエリナバールです」


「コールズ……エリナバール……」


 マリンは記憶を探るように少し考えたが、やがて首を横に振った。


「知らないわね」


 五百年も離れていれば、それも当然なのかもしれない。


「じゃあ、今の長は誰なの?」


「バルフ様です」


 マリンの眉がぴくりと動いた。


「……まだあいつが長なんだ」


 その名前を聞いて、総一もすぐに思い出した。


「バルフって、もしかしてお前が五百年前に喧嘩した相手か?」


「……そうよ」


「まだ長やってるんだな」


「エルフなんだから、別に不思議じゃないでしょ」


 すると、エタコーナが二人の会話を聞いて、不思議そうに口を開いた。


「バルフ様は、僕のひいおじいちゃんです」


「……え?」


 マリンがエタコーナを見る。


「あなた、バルフのひ孫なの?」


「はい」


 総一は思わず笑いそうになった。


「これはもう、里まで送っていくしかないな」


「……」


「五百年ぶりの再会か」


「楽しそうに言わないで」


 ◇


 エタコーナを馬車に乗せ、一行は森のさらに奥へ進んだ。


 やがて道らしい道もなくなり、馬車を置いて歩くことになった。


 エタコーナに案内されながら進んでいたが、途中でマリンが足を止める。


「ここよ」


 総一は周囲を見る。


 木。


 草。


 また木。


「何が?」


「里よ」


「森しかないぞ」


「だから隠してるって言ったでしょ」


 マリンが前へ出る。


 右手を伸ばし、何もない空間へ触れた。


 指先から淡い光が広がる。


 次の瞬間。


 目の前の景色が、水面のように揺れた。


「おお……」


 総一が思わず声を漏らす。


 森が左右へ割れるように消えていく。


 その向こうに現れたのは、まったく別の景色だった。


 巨大な木々。


 枝の間に作られた家。


 地上にも木造の建物が並び、その間を透き通った小川が流れている。


 空気まで外とは違うように感じられた。


「ここがエルフの里か」


 総一たちが足を踏み入れる。


 すぐに何人ものエルフがこちらに気づいた。


「エタコーナ!」


「エタコーナが帰ってきた!」


 傷だらけだった少年の姿を見て、人が集まってくる。


 しかし、その視線はやがて別の人物へ向かった。


 マリンだ。


「まさか……」


「大賢者様?」


「本当に?」


 ざわめきが広がっていく。


「……帰りたい」


 マリンが小さく呟いた。


「もう遅いだろ」


 総一が笑う。


 そのとき、人垣の奥から一人の老人が現れた。


 長い白髪。


 尖った耳。


 老人はエタコーナを確認すると安堵したように息を吐き、次にマリンへ視線を移した。


 その足が止まる。


 マリンも動かなくなった。


「……マリン?」


 老人が呟く。


 総一が隣を見る。


「バルフか?」


 マリンはしばらく老人を見つめていた。


 五百年ぶりに見る、かつての喧嘩相手。


 やがて、心底面倒そうに口を開いた。


「……そうよ」

最後までお読みいただきありがとうございます!


マリン、実は「大賢者」でした。


五百年以上生き、強力な魔法を使えることはこれまでにも出ていましたが、エルフの里では肖像画まで残っているほどの有名人だったようです。


本人はまったく名乗る気がありませんでしたが(笑)


そして、レベルスマウンテンにいるはずのマナバブーンが山を下り、エルフの少年エタコーナを襲っていました。


五百年前とは、明らかに状況が変わっているようです。


さらにエタコーナは、マリンが五百年前に喧嘩した里長バルフのひ孫。


帰るつもりなどなかったマリンですが、ついに五百年ぶりの故郷へ。


そして最後に待っていたのは、もちろんバルフでした。


五百年ぶりに再会した二人。


そもそも喧嘩の原因すら忘れているマリンですが、果たしてどんな再会になるのでしょうか。


次回もよろしくお願いします!

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