第39話 次なる目的地
第三章、スタートです!
宝石の街ビジュールを離れた総一たちは、新たな目的地「レベルスマウンテン」へ。
レベルストーン発祥の地であり、マリンの故郷にもほど近い場所です。
新しい旅の始まり……なのですが、総一が最初に気になったのは、まさかの馬車の乗り心地。
今回から新たな舞台へ向かいます。
第三章もよろしくお願いします!
ビジュールを発ってから、しばらくが経った。
白い城壁も、街の中央にそびえていた時計塔も、今ではもう見えない。
街道を進む一台の馬車。
御者台ではナバルが手綱を握り、その後ろでは総一たちが次の目的地、レベルスマウンテンへ向かっていた。
新しい旅の始まり。
薫へ繋がる手掛かりが見つかるかもしれない。
普通なら期待に胸を膨らませるところなのだろうが、今の総一には、それよりも気になることがあった。
「……尻が痛え」
総一は座ったまま、身体の位置をずらした。
しかし、すぐに車輪が石を踏む。
ガタンッ。
「痛っ」
「さっきからそればっかりね」
向かいに座っていたマリンが呆れた顔をする。
「だって痛いんだから仕方ないだろ。この馬車、なんでこんなに揺れるんだよ」
「馬車だからでしょ」
「総一さん、これでも王家が用意してくれた馬車ですから、かなりいい方ですよ」
シンまで苦笑している。
確かに車内は広く、座席にも薄いクッションが敷かれている。荷物を置く場所も十分にあり、これまで乗ってきた馬車と比べれば上等なものだった。
それでも地球の自動車に慣れていた総一には、この揺れはきつい。
「もっとこう……揺れを吸収する仕組みがあったんだよ」
「揺れを?」
マリンが少し興味を示した。
「サスペンションっていうんだけどな」
「サスペンション?」
「車輪から伝わる衝撃を和らげるんだ。それがあれば、こんなにガタガタしない」
「どういう仕組みなの?」
「……知らん」
「知らないの?」
マリンの目が冷たくなる。
「俺は探偵だったんだぞ。車を作ってたわけじゃない」
「よくそれで得意そうに話せたわね」
「でも、そういうものがあるって分かるだけでも違うだろ」
それは一理あると思ったのか、マリンが少し考える。
「衝撃を逃がせばいいのなら、似たような仕組みは作れるかもしれないわね」
「本当か?」
「たぶんね」
総一の顔が明るくなる。
「だったら椅子も変えよう」
「まだあるの?」
「もっと厚いクッションを入れて、背もたれも倒せるようにする」
「倒してどうするのよ」
「寝る」
「馬車で?」
「長旅なんだから寝たいだろ」
「どんどん怠ける方向へ進んでませんか?」
サリーが笑いながら口を挟む。
「違う違う。快適性の追求だよ」
「言い方を変えただけじゃないですか?」
どうやらサリーにも通用しなかった。
◇
昼過ぎ。
馬を休ませるため、ナバルが馬車を街道脇へ止めた。
馬たちへ水を飲ませ、餌を与える。
総一はその様子を眺めながら、大きく身体を伸ばした。
「馬も大変だな」
「長距離を走らせるんだ。当然だろ」
ナバルは馬の首筋を撫でながら答えた。
「休ませなきゃならんし、水も餌も必要だ。無理をさせれば馬が潰れる」
「馬がいなくても走れば楽なんだけどな」
総一が何気なく呟く。
それを聞いたマリンが振り返った。
「魔力で動かすってこと?」
「できるのか?」
「車輪を回すだけなら難しくないと思う。でも、これだけ大きな馬車を何時間も動かすとなれば、かなりの魔力が必要よ」
「お前なら?」
「嫌よ」
「まだ頼んでないだろ」
「顔に書いてあったもの」
マリンなら自分一人であれば飛行魔法で長距離を移動することもできる。
だが、総一たち全員に大量の荷物まで加われば話は別だ。五人を長時間飛ばし続けるとなれば、いくら大賢者でも魔力の消耗が大きすぎる。
「何かに魔力を溜めておければいいんだけどな」
総一は馬車を見ながら呟いた。
「必要なときだけ、それを使って動かすとか」
「簡単に言うわね」
「思いつきを言うのはタダだからな」
今すぐ答えが出る話ではない。
総一もそれ以上は考えず、馬車へ戻ろうとした。
その途中で、ふと思い出す。
「そういやマリン」
「何?」
「レベルスマウンテンにいる魔物って、結局どんな奴なんだ?」
マリンの表情が少し変わった。
「マナバブーンよ」
「マナバブーン?」
「猿型の魔物。明るい紫色の毛をしてるから、見ればすぐ分かるわ」
「猿か」
「ただの猿だと思わない方がいいわよ」
マリンによれば、マナバブーンはレベルスマウンテンに大量に生息している。
最大の特徴は、魔素を食べること。
そもそもレベルスマウンテンは、世界でも珍しいほど魔素が豊富な山なのだという。
魔素は魔法の源。
その魔素が長い年月をかけて特殊な石へ蓄積されたものが、レベルストーンだと考えられている。
「だから、あの山はマナバブーンにとって餌だらけなのよ」
「食べ放題ってことか」
「そういうことね」
「それで増えたのか?」
「たぶんね。天敵もほとんどいないし」
シンが気になるように尋ねる。
「魔法が効かないというのは?」
「正確には、魔法に含まれる魔力まで吸収するのよ。だから私たちエルフとは相性が最悪なの」
「魔法を食う猿か……」
総一は妙な生き物を想像する。
「それだけじゃないわ。頭もかなりいいし、警戒心も強い。道具だって使う。それに腕力は人間の十倍くらいあるわよ」
「それ先に言えよ」
「今言ったじゃない」
「ちなみに何匹くらいいる?」
「知らない」
「……知らない?」
「私が最後に見たときは、そこまで多くなかったけど」
「最後っていつ?」
マリンが少し考える。
「五百年くらい前かしら」
総一は黙った。
「何よ」
「情報が古すぎる」
「仕方ないでしょ。私、ずっとあっちには帰ってないんだから」
「そういや、近くにお前の故郷があるんだっけ?」
「エルフの里ね」
レベルスマウンテンの近くには、マリンが生まれ育ったエルフの里がある。
ただし、普通に探しても見つけることはできない。
強力な空間魔法によって、里そのものが外界から隠されているからだ。
「せっかく近くまで行くんだ。寄ればいいじゃん」
「嫌よ」
「まだバルフと喧嘩してんの?」
「してないわよ。五百年も会ってないもの」
「何が原因だったんだ?」
「忘れたわ」
「だったらもういいだろ」
「それとこれとは別よ」
「五百年も引きずってるのに?」
「引きずってないから!」
声が少し大きくなった。
総一はそれ以上言わず、笑いながら馬車へ戻った。
どうやら、エルフの里の話はあまり触れない方がよさそうだった。
◇
それから馬車は再び街道を進んだ。
少しずつ道は険しくなり、周囲には深い森が広がっていく。
日が傾き始めた頃だった。
御者台からナバルの声が飛んできた。
「おい、見えてきたぞ」
総一が窓から顔を出す。
「どれだ?」
「正面だ」
遠く。
森の向こうに、一際大きな山がそびえていた。
夕陽を背にした山の頂は薄い霞に覆われ、その周囲だけ空気がわずかに揺らいで見える。
シンとサリーも窓から外を見る。
マリンだけは何も言わなかった。
五百年以上の時を経ても、その姿は忘れていない。
かつて何度も目にした山。
そして、その近くには長い間帰っていない故郷がある。
「マリン」
総一が隣を見る。
「あれか?」
マリンは遠くの山をしばらく見つめたあと、静かに頷いた。
「ええ」
その瞳に、ほんの少しだけ懐かしさが浮かぶ。
「あれが、レベルスマウンテンよ」
最後までお読みいただきありがとうございます!
第三章が始まりました!
今回から舞台は、レベルストーンが初めて発見された「レベルスマウンテン」へ。
魔素を食べ、魔法まで吸収してしまうマナバブーン。
魔法を得意とするマリンにとっては厄介な相手ですが、魔力ゼロの総一とは、ある意味かなり相性がいいのかもしれません。
そしてもう一つ。
レベルスマウンテンの近くには、マリンが五百年以上帰っていないエルフの里があります。
喧嘩した理由は忘れた。
でも帰りたくはない。
なかなか頑固です(笑)
果たして総一たちは無事にレベルストーンを見つけられるのか。
そしてマリンは、五百年ぶりに故郷へ帰ることになるのか。
次回もよろしくお願いします!




