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『最強探偵、異世界で攫われた相棒を探す旅に出る』  作者: れいじ
第二章 宝石の街と透明な石

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第38話 強制レベル上げ

今回は久しぶりに薫のお話です。


魔王城へ連れ去られてから時間が経ち、薫の生活にも少しずつ変化が起きていました。


なぜダグラスは薫を攫ったのか。


そして、なぜ彼女をこれほど大切に扱っているのか。


少しずつ魔王側の目的が見え始めます。


第二章、最終話です。


今回もよろしくお願いします!

魔王城での生活にも、少しずつ慣れてきた。


 もちろん、薫が望んで慣れたわけではない。


 相変わらず部屋は広く、食事も悪くない。風呂にも入れるし、ベッドも下手な宿よりよほど上等だ。


 ただし、外へは自由に出られない。


 そして最近、もう一つ厄介な日課が増えていた。


「薫、時間よ」


 扉を開けて入ってきたマリーを見て、薫はベッドの上で露骨に嫌そうな顔をした。


「……今日も?」


「今日も」


「一日くらい休みにしない?」


「私に言われても……」


「そうよね」


 薫は諦めて立ち上がった。


 マリーは魔王ダグラスとの奴隷契約によって、この城から逃げることも、命令に逆らうこともできない。


 文句を言って困らせても仕方がなかった。


 二人は部屋を出ると、魔族の兵士に付き添われて城の奥へ向かった。


 いくつもの廊下を抜け、長い階段を下りていく。


 薫は何気ない顔をして歩きながら、周囲へ目を向けていた。


 右に二つ目の通路。


 その先に兵士が二人。


 さらに階段を下りて、鉄製の扉。


 昨日と配置は同じ。


 扉が開く。


 その先に広がっていたのは、巨大な地下空間だった。


 円形の闘技場を取り囲む石造りの観客席。


 魔王城地下のコロシアム。


 最近の薫は、毎日のようにここへ連れてこられている。


 闘技場へ降りると、すでにダグラスが待っていた。


「来たか」


「来たくて来たわけじゃないけどね」


「始めるぞ」


「人の話を聞かないところ、そうちゃんと少し似てるわね」


「誰だ、それは」


「あなたが一番会いたくない人よ」


 ダグラスの眉がわずかに動いた。


 だが、それ以上は何も言わない。


 代わりに片手を上げる。


 反対側にある巨大な鉄格子が上がった。


 奥から現れたのは、大型の狼に似た魔物だった。


「グルルルル……」


「……またこれ?」


 薫が嫌そうな顔をする。


 魔物が飛び出すと同時に、待機していた魔族の戦士が動いた。


 剣が魔物の脚を斬りつける。


 続いて別の魔族が腹部へ一撃を加えた。


 数十秒もしないうちに、魔物は地面へ倒れた。


 それでも、まだ生きている。


「花咲薫」


「分かってるわよ」


 薫は用意されていた剣を手に取った。


 重い。


 総一なら小枝でも持つように扱うのだろう。


 そんなことを考えながら、倒れている魔物へ近づいた。


「ごめんね」


 剣を振り下ろす。


 やがて魔物の身体が動かなくなった。


 少しして、薫は自分の身体にわずかな変化を感じた。


「……上がった」


「次だ」


「ちょっと待って」


 再び鉄格子が上がり始める。


「これ、私が戦ってるって言えるの?」


「経験値を得られている。それで十分だ」


「それ、レベル上げっていうより養殖じゃない?」


「効率的と言え」


「嫌な効率ね」


 次の魔物が運ばれてくる。


 これが、ここ数日の薫の日課だった。


 魔族たちが魔物を瀕死まで追い込み、最後の一撃だけを薫に任せる。


 当然、薫が危険になれば周囲の魔族が即座に魔物を止める。


 逃げることはできない。


 死ぬことも許されない。


 その扱いが、かえって不気味だった。


 何体目かを倒したところで、薫は剣を地面へ置いた。


「ねえ、ダグラス」


「なんだ」


「どうして私のレベルを上げてるの?」


 ダグラスは答えない。


「私を強くして魔王軍に入れるつもりじゃないでしょ?」


「違う」


「じゃあ、何?」


 少しの沈黙。


 やがてダグラスが口を開いた。


「今のお前では足りない」


「何に?」


「いずれ分かる」


「そういう答えが一番嫌いなのよね」


 薫は睨んだが、ダグラスの表情は変わらなかった。


「今日は終わりだ」


「はいはい」


 結局、今日も何も教えてくれない。


 ただ、一つだけはっきりしている。


 ダグラスは自分を殺すつもりなどない。


 それどころか、大切に扱っている。


 だからこそ薫には、その理由が恐ろしかった。


 ◇


 部屋へ戻る途中、薫はマリーと並んで歩いていた。


「身体、大丈夫?」


「大丈夫。疲れたけどね」


「無理しないで」


「無理させてるのはダグラスだけどね」


「……それはそうね」


 マリーが困ったように笑った。


 しばらく歩いてから、彼女は声を落とした。


「怖くないの?」


「怖いわよ」


「そう見えないけど」


「怖がって泣いたら帰してくれる?」


「……たぶん無理」


「だったら泣くだけ損でしょ」


 薫はそう言いながら、曲がり角を確認する。


 ここを左。


 その先の階段を上がれば、自分の部屋がある区画へ戻る。


 毎日同じ場所へ連れていかれるおかげで、少しずつ城の構造が頭に入ってきた。


 兵士が多い場所。


 ほとんど使われていない通路。


 鍵の掛かった扉。


 警備が入れ替わる時間。


 今すぐ役に立つかは分からない。


 それでも覚えておく。


 何もしないで待っているつもりはなかった。


「薫」


「なに?」


「本当に来ると思ってるの?」


 何のことか聞き返す必要はなかった。


「来るわよ」


「でも、ここがどこなのかも知らないんでしょ?」


「それでも来る」


「どうしてそんなに言い切れるの?」


 薫は少しだけ考えた。


 そして笑う。


「そうちゃんだから」


「……それだけ?」


「それだけで十分よ」


 今ごろ、どこで何をしているのか。


 綺麗な女でも見つけて鼻の下を伸ばしている可能性はかなり高い。


 それでも、薫を探すことだけは絶対にやめない。


 それを薫は誰より知っていた。


「だから、それまでに私もできることをしておくの」


 薫は前を向いた。


 ただ助けを待つつもりはない。


 総一が自分を探しているのなら、自分もここから抜け出す方法を探す。


 いつか二人の道が繋がる、そのときまで。


 ◇


 その夜。


 魔王城の最上部にある部屋で、ダグラスは今日の報告を受けていた。


「薫様のレベルは、本日も上昇しております」


「そうか」


「このまま続ければ、さらに上げることは可能かと」


 報告を終えた魔族が頭を下げ、部屋を出ていく。


 一人になったダグラスは、しばらく動かなかった。


「……まだ足りない」


 静かに立ち上がる。


 部屋の奥へ歩き、そこに置かれていた一枚の肖像へ目を向けた。


 描かれているのは、一人の女性。


 サマンサ。


 かつてダグラスが愛し、そして失った女性だった。


 ダグラスはその姿を見つめる。


 長い年月を経ても、その眼差しに宿るものだけは消えていない。


「もう少しだ、サマンサ」


 誰もいない部屋に、低い声が響いた。


「もう少しで、お前を取り戻せる」

最後までお読みいただきありがとうございます!


今回で第二章「宝石の街と透明な石」は終了となります。


総一がビジュールで追い続けたレベルストーン。


その裏では魔王軍も同じ石を集め、さらに魔王城では薫のレベルを上げるという別の動きが始まっていました。


そして最後にダグラスが口にした、


「もう少しで、お前を取り戻せる」


サマンサを失った過去と、薫を攫った理由。


これまで別々に見えていたものが、少しずつ繋がり始めています。


一方の総一は、新たにマリンを仲間に加え、レベルストーン発祥の地「レベルスマウンテン」へ。


薫もただ助けを待つのではなく、魔王城から抜け出す方法を探し始めました。


二人の道はまだ離れていますが、それぞれが少しずつ動いています。


ここまで第二章を読んでいただき、本当にありがとうございました!


次回から第三章スタートです。


引き続き、総一と薫の物語を楽しんでいただけたら嬉しいです!

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