第37話 旅立ちの前に
魔王軍の行方を見失ってしまった総一たち。
しかし、マリンの口から新たな手掛かりが語られます。
それは、レベルストーンの名前の由来にもなった特別な場所。
次の目的地が決まり、総一はビジュールを発つ前に、最後に会っておきたい人物のもとへ向かいます。
今回もよろしくお願いします!
「レベルストーンが見つかる可能性の高い場所よ」
マリンの言葉に、総一は足を止めた。
「そんな場所があるなら、最初から教えてくれよ」
「考えなかったわけじゃないの。でも、私には無理だと思って候補から外してたのよ」
「マリンに無理?」
シンまで意外そうな顔をする。
あれだけの魔法を操るマリンが、自分から無理だと言う場所など想像しにくい。
「レベルスマウンテン。ここからだと少し遠いけど、私の故郷の近くにある山よ」
「レベルスマウンテン……」
総一は名前を口の中で転がしてから、首を傾げた。
「まさか、レベルストーンが採れるからその名前になったとか?」
「逆よ」
「逆?」
「あの山で初めて見つかったから、レベルストーンって呼ばれるようになったの」
それは総一も知らない話だった。
マリンによれば、かつてレベルスマウンテンでは透明な石がそれなりの数、採れていたらしい。ただ、それが普通の宝石とは違う特殊な石だと知っていたのは、近くに暮らしていたエルフたちだった。
「じゃあ、魔王軍もその山を狙ってるんじゃないか?」
「分からないわ。この話を知ってるのは、ほとんどエルフだけだから。人間はもちろん、魔族にも伝わってない可能性が高いわね」
「だったら、あいつらがいるとは限らないのか」
「でも、レベルストーンをあれだけ集めてるなら、自分たちで調べて辿り着いてる可能性はある。それに、いなかったとしても……」
マリンの口元がわずかに緩む。
「レベルストーンが見つかれば、私は嬉しいもの」
「そっちが目的になってない?」
「半分くらい?」
「結構あるな」
総一が呆れていると、シンが気になったように尋ねた。
「でも、どうしてマリンさんは行かなかったんですか?」
「今は魔物が棲みついてるのよ。そのせいで、もうずっと登れなくなってる」
「そんなに強い魔物なんですか?」
「強いわよ。それ以上に厄介なのが、魔法が全く効かないことね」
シンの表情が変わった。
「全く?」
「ええ。私たちエルフとは最悪の相性なの」
そこでマリンの視線が総一へ向く。
「でも、この人なら関係ないでしょ」
「俺?」
「魔法なんて最初から使わないじゃない」
「使わないんじゃなくて、使えないんだよ」
「どっちでもいいわよ」
「結構違うと思うけどな」
魔力がないことを、まさか期待の目で見られる日が来るとは思わなかった。
ただ、魔法が効かないというだけなら、総一にとっては確かに大した問題ではない。
「じゃあ、次はそこだな」
総一が決めると、マリンは頷いた。
「近くにエルフの里もあるから、そこまでは私が案内できるわ」
「故郷なんだろ? 久しぶりに帰るのか?」
「帰らないわよ」
即答だった。
「なんで?」
「五百年前に長のバルフと喧嘩して、それから帰ってないもの」
「五百年?」
総一だけでなく、シンたちまでマリンを見る。
「何やったんだよ」
「忘れたわ」
「……喧嘩の理由を?」
「五百年も前のことなんだから仕方ないでしょ」
「理由忘れてるなら、もう仲直りしろよ」
「それとこれとは別よ」
「エルフって面倒くさいな」
「あなたに言われたくないわ」
サリーが堪えきれず笑い、ナバルも呆れたように息を吐いた。
ともかく、次の目的地は決まった。
レベルスマウンテン。
そこに魔王軍がいる保証はない。それでも薫へ繋がる可能性が少しでもあるなら、総一に迷う理由はなかった。
◇
ビジュールを発つ準備を整えたあと、総一は仲間たちに声をかけた。
「悪い。最後に二人で会っておきたい人がいる」
「例の綺麗な女性?」
マリンがすぐに反応した。
「なんで分かるんだよ」
「あなたの場合、それ以外にある?」
「失礼な奴だな」
否定しないところが余計に説得力をなくしていた。
総一は一人で王家の宿泊施設を出ると、モネの屋敷へ向かった。
扉を叩いてしばらくすると、姿を見せたモネが少し驚いた顔をした。
「どうしたの?」
「ちょっと話があってさ」
総一の表情から何かを感じ取ったのだろう。
モネはそれ以上聞かず、総一を中へ招いた。
二人で部屋へ入る。
「それで?」
「この街をしばらく離れることになった」
モネの表情から、わずかに笑みが消えた。
「……そう」
「次の手掛かりが見つかったんだ。薫に直接繋がるかは分からないけどな」
「だったら、行くんでしょ?」
「もちろん」
その答えに迷いはなかった。
モネは少しだけ寂しそうに目を伏せたが、すぐにいつもの表情へ戻った。
「それをわざわざ言いに来たの?」
「それもあるけど、ちゃんと礼を言っとこうと思ってな。モネには随分世話になったから」
「それを言うなら私もよ」
モネは苦笑した。
「あなたが来なかったら、あの日どうなってたか分からないもの」
「間に合ってよかったよ。美人を助けるのは俺の仕事だからな」
「そんな仕事してないでしょ」
「前の世界では似たようなことを」
「絶対違うわね」
二人の間に笑いが落ちる。
これまでと変わらない会話だった。
けれど、そのあとに訪れた静けさだけは、いつもと少し違っていた。
総一は立ち上がった。
「じゃあ、本当にありがとう。みんなが待ってるから、そろそろ行くわ」
「総一」
「ん?」
振り返る。
モネがすぐ目の前まで来ていた。
何か言うのかと思った瞬間、胸元を軽く掴まれる。
唇に柔らかな感触が触れた。
「……」
ほんの一瞬だった。
モネの顔が離れる。
「お礼」
「……これがお礼?」
「そうよ」
「それは反則だろ」
「何が?」
平然としているが、頬は少し赤い。
そんな顔を見せられれば、総一も黙ってはいられなかった。
腰へ腕を回し、モネを抱き寄せる。
「ちょっと」
「俺だって男なんだけど」
総一がもう一度顔を近づけようとする。
だが、モネの両手が胸を押した。
「ダメ」
「え?」
「これ以上はダメ」
今度の声に冗談はなかった。
総一の腕から離れると、モネは真っ直ぐに彼を見る。
「あなたには、探しに行かなきゃいけない人がいるでしょ」
「……薫のことか」
「そうよ」
総一はしばらく黙っていたが、やがて頭を掻いた。
「だったら最初からキスするなよ」
「したかったんだから仕方ないでしょ」
「すごい理屈だな」
「女にはそういうときもあるの」
「男にはつらい話だ」
「我慢しなさい」
モネが笑う。
その笑顔を見て、総一も笑った。
「じゃあな」
「総一」
扉へ向かった背中に、もう一度声が届く。
「ちゃんと薫さんを見つけなさいよ」
総一は振り返らなかった。
ただ片手を上げる。
「もちろん」
扉が閉まる。
モネはしばらく、その場から動かなかった。
やがて自分の唇へそっと指を触れ、閉じた扉を見つめる。
「……また来なさいよ」
小さな声は、もう総一には届かなかった。
そして翌朝。
総一たちはビジュールを発った。
次なる目的地。
かつて初めてレベルストーンが発見された山。
レベルスマウンテンへ。
最後までお読みいただきありがとうございます!
次なる目的地は「レベルスマウンテン」。
レベルストーンが初めて発見された場所ですが、現在は魔法がまったく効かない魔物が棲みついているようです。
そして、まさかのマリンとエルフの長との喧嘩が五百年継続中(笑)。
果たして故郷の近くまで行って、本当に何も起こらないのでしょうか。
そしてビジュールを離れる前、総一はモネへ別れの挨拶に向かいました。
最後に少しだけ距離が縮まった二人。
それでもモネが総一を送り出したのは、彼にはまだ薫を探すという目的があるから。
総一たちは新たな手掛かりを求め、レベルスマウンテンへ向かいます。
次回もよろしくお願いします!




