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『最強探偵、異世界で攫われた相棒を探す旅に出る』  作者: れいじ
第一章 攫われた相棒

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第4話 初めての依頼

第4話です。


異世界で初めての依頼へ向かった総一と薫。


順調に進むと思われた依頼でしたが、思わぬ事件に巻き込まれることになります。


それでは、お楽しみください。

翌朝。


 ライラックの街は朝日を浴び、すでに多くの人で賑わっていた。石畳の道には露店が並び、どこからか焼きたてのパンの香りが漂ってくる。


 武器を背負った冒険者たちは、仲間と声を掛け合いながら、それぞれの目的地へ向かっていた。


 総一は大きく伸びをして、朝の街並みを見回す。


「ようやく異世界って感じがしてきたな」


「昨日も似たようなこと言ってたわよ」


「昨日は宿探しで必死だったからな。今日は景色を見る余裕がある」


「その前に宿代を稼ぐことを忘れないで」


「宿代だろ。忘れてないって」


 総一は漂ってくるパンの匂いに鼻を動かした。


「できれば朝飯代も欲しいけど」


「働いてから言いなさい」


「厳しいねぇ」


 二人はそんなやり取りをしながら、冒険者ギルドへ向かった。


 ギルドの中は朝から騒がしい。


 依頼書が並ぶ掲示板の前には冒険者たちが集まり、自分たちに合った仕事を探している。受付には、昨日二人の登録を担当した女性がいた。


「おはようございます。初めての依頼ですね」


「初心者でもできるものをお願いします」


 薫が答えると、受付嬢は何枚かの依頼書を確認した。


「それでしたら薬草採取はいかがでしょう。街の北にある森で、青葉草を十株集める依頼です。危険も少なく、報酬も悪くありません」


「それなら俺たちでもできそうだな」


「森には魔物も生息していますが、浅い場所ならスライムやゴブリン程度です。危険を感じたら無理をせず戻ってきてください」


「決まりね」


 薫が依頼書を受け取った。


 総一も横から内容を覗き込む。


「青葉草十株か。熊退治よりずいぶん平和だ」


「昨日のは依頼じゃないでしょ」


「それもそうか」


 二人は依頼書を手に、ギルドを後にした。


    ◇


 街を出ると、爽やかな風が木々を揺らしていた。


 昨日迷い込んだ森とは違い、こちらには人の手が入った街道が続いている。ところどころに道標も立っており、行き交う冒険者の姿もあった。


「昨日は熊だったけど、今日は平和そうだな」


「その熊が普通じゃなかったんだけど」


「そうだったっけ?」


「Aランクの魔物だったって、昨日聞いたでしょ」


「俺にとっては大きな熊だったからなぁ」


「その感覚、早めに直した方がいいわよ」


 しばらく街道を進み、途中から森の中へ入る。


 受付嬢から聞いた場所を探していると、木漏れ日の差す一角に青みがかった葉を持つ草がまとまって生えていた。


 薫が依頼書と見比べる。


「これじゃない?」


「葉の形も同じだな。当たりっぽい」


 二人はその場にしゃがみ込み、根を傷つけないよう一株ずつ採取していった。


「一、二、三……意外と簡単だな」


「最初の依頼なんだから、これくらいでいいのよ」


「できれば昼前には終わらせて飯にしたい」


「まだ食べ物のこと考えてるの?」


 そのときだった。


「きゃあああっ!」


 女性の悲鳴が森に響いた。


 総一の手が止まる。


 薫と目が合った。


「行くぞ!」


 二人は採取した薬草を置き、声のした方向へ駆け出した。


 枝を払いながら木々の間を抜ける。


 やがて視界が開けると、一台の荷馬車が道の脇で横倒しになっていた。


 木箱や荷物が辺りに散乱し、車輪の近くには商人らしき男性が倒れている。


 その少し先では、二匹のゴブリンが女性を追い詰めていた。


「待ちな!」


 総一が地面を蹴る。


 一匹が振り返り、短い剣を構えた。


 昨日のダークデッドベアが頭をよぎる。


 同じ調子で殴ったら、今度はどこまで飛んでいくか分からない。


(加減しないとな)


 総一は拳から意識して力を抜いた。


 ゴブリンが剣を振り上げる。


 その懐へ潜り込み、顔面へ拳を叩き込んだ。


 ドゴッ!


「ギャッ!」


 小さな身体が地面から浮き、数メートル先まで吹き飛んだ。背中から木の幹へぶつかり、そのままずるずると崩れ落ちる。


 総一は自分の拳を見る。


「……これでも加減したんだけどな」


 もう一匹が棍棒を振り上げ、背後から襲いかかってきた。


「そうちゃん、後ろ!」


 総一は振り返りざまに身体をずらす。


 ブンッ!


 棍棒が目の前を通り過ぎた。


「遅いよ」


 がら空きになった腹へ、今度はさらに力を抜いて拳を打ち込む。


 ゴッ!


 ゴブリンは腹を押さえる間もなく地面を転がり、数メートル先で止まった。


 動かない。


「……難しいな、力加減」


「倒したんだからいいでしょ。それより!」


 薫の視線は、横倒しになった荷馬車へ向いていた。


 総一もすぐに気づく。


 倒れている男性の周囲に、赤黒い血が広がっていた。


「そうちゃん!」


 二人は男性のもとへ駆け寄った。


 胸元の服が大きく裂けている。


 呼吸は浅く、顔からは血の気が失われていた。


「あなた!」


 助けた女性が駆け寄り、男性の傍らへ膝をつく。


「お願い、目を開けて!」


 返事はない。


 薫も反対側へ座り込んだ。


「そうちゃん、この人……」


 その声から、いつもの落ち着きが消えていた。


 男性の胸からは今も血が流れ続けている。


「まだ息はある」


 総一が男性の顔を確認する。


「でも、このままじゃ……」


 薫は傷口へ手を伸ばした。


 何をすればいいのか分からない。


 医者でもなければ、治療の知識があるわけでもない。


 それでも、目の前で命が消えようとしているのを、ただ見ていることはできなかった。


 薫の手が傷口を押さえる。


 温かい血が指の間を伝い、手のひらを赤く染めていく。


「お願い……」


 男性の呼吸がさらに弱くなる。


「助かって……!」


 そのとき、薫の掌の奥が熱を帯びた。


「え……?」


 ふわりと淡い金色の光が指の隙間から漏れ出す。


「薫、手……」


「何、これ……」


 光は次第に強くなり、薫の両手から男性の胸へ広がっていった。


 温かな輝きが傷口を包む。


 裂けた皮膚が、ゆっくりと閉じ始めた。


「嘘……」


 薫は手を離すことも忘れ、その光景を見つめていた。


 深かった傷がみるみる塞がり、流れ続けていた血も止まっていく。


 青白かった男性の頬に、少しずつ血色が戻った。


「あなた……?」


 女性が震える声で呼びかける。


 しばらくして、男性の瞼が動いた。


「……ここは……」


「あなた!」


 女性が泣きながら夫へ抱きつく。


「よかった……本当によかった……!」


 男性は状況が分からないまま、妻の背中へゆっくり腕を回した。


 薫は血に染まった自分の両手を見つめている。


 先ほどまで溢れていた金色の光は、もうどこにもない。


「薫」


 総一が隣へしゃがむ。


「今の、お前がやったんだよな?」


「……たぶん」


「すごいじゃないか」


「でも、どうやって……」


 薫自身にも分からなかった。


 助けたいと思った。ただ、それだけだった。


「ありがとうございます……!」


 女性が何度も頭を下げる。


「本当に、ありがとうございます!」


「いえ……私も何が起きたのか分からなくて」


 薫は困ったように総一を見る。


「まあ、俺が熊を殴り飛ばしたんだ。薫が光っても不思議じゃないだろ」


「そういう問題?」


「たぶん」


「適当ね」


 薫は呆れながらも、助かった男性を見て少しだけ表情を緩めた。


 その様子を、木々の奥から見つめる影があった。


    ◇


「……何だ、あの女は」


 その様子を、木陰から見つめる男がいた。


 黒い外套に身を包んだ魔族。


 勇者シンを監視するため、この地へ送り込まれていた魔王直属の偵察兵だった。


 ダークデッドベアが何者かに倒されたと聞き、勇者の関与を確かめるため森へ入ったのだが、そこで思いもよらないものを目にした。


 魔族の視線が、先ほどまで瀕死だった商人へ向く。


 傷が消えている。


「回復魔法……いや、違う」


 あれほどの傷を、あれほど短時間で。


 魔族はもう一度、薫の顔を確認した。


 そして気配を殺したまま、森の奥へ姿を消した。


    ◇


 しばらく後。


 魔族は通信魔道具の前に立っていた。


 魔王直属の偵察兵には、緊急時に主へ直接報告することが許されている。


 紫色の光が灯る。


「魔王様」


『報告しろ』


「勇者の監視中、見知らぬ女を確認しました」


『女?』


「瀕死の人間を回復させました。傷も完全に消えています」


 わずかな沈黙。


「とても通常の回復魔法とは思えません」


 男は薫の姿を思い返し、声を低くした。


「……とんでもない能力を持つ女を見つけたかもしれません」

第4話を読んでいただき、ありがとうございました。


今回は、総一の圧倒的な戦闘力だけでなく、薫に秘められた特別な力も明らかになりました。


そして、その力は人知れず魔王軍にも目撃され、新たな物語が動き始めます。


次回は、今回の出来事が二人にどのような影響を与えるのか。そして、魔王軍がどんな行動を起こすのかにもご注目ください。


「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想をいただけると、とても励みになります!


次回もよろしくお願いいたします!

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