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『最強探偵、異世界で攫われた相棒を探す旅に出る』  作者: れいじ
第一章 攫われた相棒

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第3話 冒険者ギルド

第3話です。


総一と薫は、異世界で初めて人々が暮らす町「ライラック」へたどり着きます。


冒険者ギルドでの登録、そして二人を待ち受ける思いもよらない出来事とは……。


それでは、お楽しみください。

 森を抜けた先に広がっていたのは、高い石壁に囲まれた町だった。


 壁の上には槍を持った兵士が立ち、開かれた門からは荷馬車や旅人が絶えず出入りしている。その向こうには赤や茶色の屋根が幾重にも重なり、町の中央には時計塔らしき細長い建物が見えた。


 総一は門へ続く道を歩きながら、物珍しそうに町を眺める。


「映画の撮影じゃなさそうだな」


「巨大な熊を殴り飛ばした後で、まだ疑ってたの?」


「大掛かりなドッキリって可能性も捨てきれない」


「誰が私たちを殺してまで仕掛けるのよ」


「……そこなんだよな」


 総一の足がわずかに緩んだ。


 元いた世界で撃たれたことは間違いない。意識を失う直前に見た血も、身体から急速に熱が失われていく感覚も、妙にはっきり覚えている。


 それなのに今は、傷一つない身体で見知らぬ町を目指して歩いている。


「考えても分からんな」


「今ある情報だけじゃ無理ね」


「だったら後回し。まずは飯と寝床だ」


「切り替えが早いわね」


「腹が減ってちゃ推理もできないだろ?」


 薫が呆れたように総一を見るうち、二人は町の門へ辿り着いた。


「止まれ」


 門を守る兵士が槍を横にして、二人の前へ立った。


「見ない顔だな。どこから来た?」


「遠いところからです」


「どこの国だ?」


「かなり遠いところです」


 総一が曖昧に答えるたび、兵士の眉間の皺が深くなっていく。


 このままでは怪しまれる一方だと察した薫が、横から口を挟んだ。


「旅の途中で荷物を失ってしまったんです。道にも迷って、ようやくこの町を見つけました」


「盗賊に襲われたのか?」


「似たようなものです」


 殺し屋を盗賊と呼んでいいものかは分からないが、異世界から来ましたと説明するよりはずっとましだろう。


 兵士は二人の服装を上から下まで確認した。


 荷物はなく、武器らしいものも見当たらない。やがて二人の前を塞いでいた槍が少し下がった。


「ここはライラックだ。身分を証明するものは?」


「ありません」


「金は?」


「それもありません」


 総一が堂々と答えると、兵士は額に手を当てた。


「胸を張って言うことじゃないぞ」


「隠しても増えないので」


「……仕事を探すなら冒険者ギルドへ行け。旅人の登録も受け付けている。大通りを真っすぐ進めば分かる」


「助かります」


 二人が門を抜けようとしたところで、兵士が思い出したように声を掛けてきた。


「待て。お前たち、森を通ってきたのか?」


「ええ」


「黒くて巨大な熊を見なかったか?」


 総一と薫の視線が重なる。


「黒くて大きな熊なら……」


 総一が口を開いたところで、腕に痛みが走った。


 薫につねられている。


「見ましたけど、遠くからだったので」


「そうか。ダークデッドベアという危険な魔物だ。討伐隊が向かっているが、しばらく森には戻らない方がいい」


「そうします」


 門から十分に離れたところで、総一はつねられた腕をさすった。


「痛いって。なんで止めるんだよ」


「大騒ぎになるかもしれないでしょ」


「正直に話した方が早くないか?」


「大きな熊を素手で殴ったら何十メートルも吹き飛びました、って?」


 総一は少し考えた。


「変な奴だと思われるな」


「もう十分変だけどね」


「薫ちゃん、最近ちょっと俺に厳しくない?」


「十五年以上前から厳しいわよ」


「年季入ってるなぁ」


 二人は並んで石畳の大通りを歩いていく。


 総一は町の様子を眺めながら、行き交う人々にも目を向けていた。


 腰に剣を下げた男。尖った耳を持つ女性。人間の半分ほどしか背丈がないのに、立派な髭を蓄えた老人までいる。


 映画の撮影という線は、さすがに消してよさそうだった。


 それより総一が気になったのは、武装した者が妙に多いことだ。門の兵士も森の熊を警戒していた。この町では、魔物とやらが日常的な脅威なのかもしれない。


 そんなことを考えていると、どこからか肉の焼ける香ばしい匂いが漂ってきた。


 ぐぅ、と総一の腹が鳴る。


「腹減ったな」


「お金は?」


「ない」


「さっき確認したばかりよ」


「美人の店員さんに頼めば、一食くらいなんとか」


「その顔で近づいたら通報されるわよ」


「世知辛い異世界だな」


 薫はため息をつきながらも、口元には少し笑みが浮かんでいた。


 二人が教えられた冒険者ギルドは、町の中央近くにあった。


 二階建ての大きな建物で、入口の上には剣と盾を組み合わせた看板が掲げられている。


 扉を開けると、酒と汗、それに革の匂いが混ざった空気が押し寄せてきた。


 壁際の掲示板には何枚もの紙が貼られ、武器を持った者たちが依頼を選んでいる。奥には受付がいくつも並んでいた。


 総一は室内を見回したあと、一つの受付へ向かう。


 そこに座っていたのは若い女性だった。


「そうちゃん」


「何?」


「今、受付を選んだでしょ」


「空いてたからだよ」


「隣も空いてるわよ」


「偶然だ」


「鼻の下が伸びてる」


「気のせいです」


 受付嬢が二人を見て、にこやかに応対する。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


「冒険者登録をお願いします」


「お二人ともですね。登録料は必要ありませんが、最初は最下級のFランクからとなります」


 受付嬢はカウンターの下から、掌ほどの透明な板を二枚取り出した。


「こちらがギルドカードです。手を置くと登録者の能力が記録されます。本人以外では、許可されたギルド職員だけが詳しい内容を確認できます」


「便利だな。俺たちの世界にも欲しかった」


 薫が横目で総一を見る。


「探偵の経歴まで全部出たら困るんじゃない?」


「薫ちゃん。俺には人に見られて困るような過去なんて」


「女性関係」


「そんな欄はないだろ」


 先に薫がカードへ手を置いた。


 透明な板の内側を淡い光が走り、やがて文字が浮かび上がる。


 受付嬢は表示された内容を確認すると、少しだけ目を見開いた。


「魔力がかなり高いですね。固有技能については未確認ですが」


「魔力……」


 薫はカードから手を離し、自分の掌を見つめた。


「魔法を使った経験はありませんか?」


「ありません」


「でしたら、使い方を学べば適性も分かってくると思います。登録自体は問題ありません」


「次は俺だな」


 総一がカードへ手を置く。


 透明な板が淡く光った。


 ところが文字が現れかけたところで、光が不規則に明滅する。


 やがて中央に、赤い文字が浮かび上がった。


 ERROR


「……エラー?」


 総一が首を傾げる。


 受付嬢はカードを持ち上げ、裏返して確認した。


「申し訳ありません。カードの不具合かもしれません」


「俺、こういう機械によく嫌われるんですよ」


「機械ではなく魔道具です」


「魔道具にも嫌われたか」


 受付嬢は困惑しながら新しいカードを取り出した。


 総一がもう一度手を置く。


 淡い光。


 そして、


 ERROR


「また?」


 薫が覗き込む。


「もう一枚試してみます」


 三枚目。


 結果は変わらなかった。


 ERROR


 受付嬢の表情から、とうとう営業用の笑顔が消えた。


「おかしいですね……」


「登録できないんですか?」


「お名前と出身地を手作業で記録すれば、仮登録はできます。能力測定についてはこちらで原因を調べますので」


 しばらくして総一のカードには、名前とFランクだけが刻まれた。


「魔力も分からないんですか?」


「最初に一瞬だけ、ゼロと表示されたように見えました。ただ、それ以外はすべてエラーです」


「魔法は使えないってことか」


 薫が少し楽しそうに総一を見る。


「残念だったわね、そうちゃん」


「別にいいさ。熊は殴れる」


 受付嬢がきょとんとした。


 薫の肘がすぐさま総一の脇腹へ入る。


「何でもありません」


「痛いって……」


 そのときだった。


 バンッ!


 ギルドの扉が勢いよく開いた。


 剣を背負った若い青年と、白い神官服の女性が入ってくる。その後ろには数人の冒険者とギルド職員が続いていた。


「勇者シンが戻ったぞ!」


 広間の視線が一斉に入口へ集まる。


 総一は周囲を見回した。


 さっきまで酒を飲んでいた男まで立ち上がっている。どうやら、あの若い青年はこの町では相当な有名人らしい。


 シンは受付の前まで進むと、集まった者たちへ向けて口を開いた。


「ダークデッドベアは、すでに討伐されていました」


 広間の空気がざわつく。


「討伐されていた?」


「はい。何者かに、たった一撃で」


 今度はどよめきが起こった。


「一撃だと?」


「Aランクの魔物だぞ」


「誰がやったんだ?」


 総一は隣にいる薫へ顔を寄せる。


「やっぱり、あの熊らしいぞ」


「静かにして」


 白い神官服の女性が、シンの隣から説明を続けた。


「武器や魔法を使った痕跡はありませんでした。鼻のあたりを、とても強い力で殴られたようです」


 総一は何食わぬ顔で視線を逸らした。


 今度は薫が顔を寄せてくる。


「完全にそうちゃんね」


「世の中には似たような熊もいる」


「殴られ方まで似るの?」


「不思議なこともあるもんだ」


 シンが広間を見回す。


 その視線が総一と薫の上を通り過ぎたが、そこで止まることはなかった。


 当然だ。


 今日この町へ来たばかりの、Fランク冒険者二人。


 その片方がAランクの魔物を素手の一撃で吹き飛ばしたなど、誰が想像するだろう。


 総一は何事もなかったように受付嬢へ向き直った。


「ところで、今日泊まれる宿ってあります?」


「料金はお持ちですか?」


「ありません」


 受付嬢が一瞬黙った。


「……では、明日まで支払いを待ってくれるギルド提携の宿をご案内します。ただし、明日中に依頼を達成して料金をお支払いください」


「助かります」


 ようやく寝床が決まり、総一と薫はギルドを後にした。


 二人の姿が扉の向こうへ消れてから、受付嬢はカウンターに残された三枚のカードへ視線を落とす。


 試しに一枚へ自分の手を置いた。


 淡い光とともに、正常に文字が表示される。


「壊れてない……」


 二枚目も、三枚目も同じだった。


 エラーが出たのは、田端総一が触れたときだけ。


 受付嬢は三枚のカードをまとめて手に取った。


「ギルドマスターに報告しないと……」


    ◇


 宿へ向かう石畳の道を、総一と薫は並んで歩いていた。


「明日はどの依頼にする?」


「まずは安全な仕事ね」


「美人の護衛とか?」


「薬草採取にしましょう」


「俺の希望は?」


「却下」


「聞くだけ聞いてくれてもいいだろ」


「聞いた結果、却下したの」


 総一は肩を落とした。


 異世界へ来ても、薫との力関係だけは何一つ変わっていないらしい。


 もっとも、それが少しだけ心地よくもあった。


「じゃあ、明日は薬草採取か」


「そういうこと。まずは宿代を稼がないとね」


「よし。さっさと稼いで、うまいものでも食おう」


「目的が変わってるわよ」


 二人の声が、夕暮れのライラックの雑踏へ紛れていった。

第3話を読んでいただき、ありがとうございました。


今回はライラックの町と冒険者ギルドが登場し、異世界での生活がいよいよ始まりました。


一方で、総一の能力には早くも普通ではない謎が見え始めています。


次回は初めての冒険者依頼へ。総一と薫らしい掛け合いを交えながら、物語も少しずつ動き出します。


「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想をいただけると、とても励みになります!


次回もよろしくお願いいたします!

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