↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『最強探偵、異世界で攫われた相棒を探す旅に出る』  作者: れいじ
第二章 宝石の街と透明な石

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/58

第35話 待つ男、動く者

ベルガが戻るまで、ビジュールで待つことになった総一たち。


ひとまず大きな戦いを終えた総一は、レベルストーンを譲ってくれたモネのもとへ向かいます。


一方、総一たちが去った山中の拠点では、ジャネストが次の行動を開始していました。


それぞれの時間が動き始めます。


今回もよろしくお願いします!

 山を下りる頃には、空が少しずつ茜色に染まり始めていた。


 総一たちは馬車へ戻り、そのままビジュールへ向かった。


 御者台では、いつものようにナバルが手綱を握っている。その隣で総一は背もたれに身体を預け、流れていく景色をぼんやり眺めていた。


「ベルガって奴が戻れば、少しは前に進めそうだな」


 荷台からシンの声が返ってくる。


「本当に知らせてくれるでしょうか」


「約束したからな」


「魔王軍ですよ?」


「ジャネスト、意外と話の分かる奴だったぞ」


 向かいに座っていたマリンが呆れたように眉を上げた。


「あなたを殺そうとした直後だけどね」


「……そういやそうだったな」


「忘れるの早すぎない?」


 サリーが小さく笑った。


「でも、ベルガという人が薫さんのことを知っているといいですね」


「そのために待つんだ。何もなけりゃ、また次を探せばいい」


 総一はそう言って、遠くに見え始めたビジュールの白い城壁へ目を向けた。


 焦っても薫の居場所が見つかるわけではない。


 ようやく掴んだ糸なら、今は切らずに待つしかなかった。


 翌日。


 昼を少し過ぎた頃、総一は一人で宝石商が集まる通りを歩いていた。


 目的はモネへの報告だった。


 あの透明な石が本物のレベルストーンだったこと。そして、そのおかげで山の結界を破れたことくらいは伝えておきたかった。


 何より。


「助けてもらった礼も、ちゃんと言ってなかったしな」


 そう呟いてから、総一は首を傾げた。


「……いや、助けたのは俺か」


 自分で言っておいて、少しだけ違う気がした。


 結局モネは、いつもの店にいた。


 店の奥で透明な石を光へかざし、角度を変えながらじっくりと眺めている。


「仕事中か?」


 声をかけると、モネが顔を上げた。


「あら。生きてたのね」


「第一声がそれ?」


「魔王軍の拠点に乗り込むって言ってた人に、他に何て言えばいいのよ」


 総一は苦笑しながら近くの椅子へ腰を下ろした。


「そういえば石、本物だったぞ」


 モネの手が止まる。


「そう」


「おかげで結界を壊せた。その向こうに、でかい砦みたいなのがあった」


「……ちょっと待って」


「ん?」


「今、さらっと言ったけど、それかなり大変な話よね?」


「そうか?」


「そうよ」


 モネは小さく息を吐くと、持っていた石を布の上へ戻した。


「それで?」


「砦にいた奴と話してきた。ベルガっていう四天王の部隊らしい」


「四天王……」


 さすがのモネも表情を変えた。


 だが総一は、そこから先を妙に軽い調子で続ける。


「ベルガ本人はいなかったけどな。戻ってきたら知らせてもらうことになった」


「魔王軍に?」


「そう」


「あなた、本当に変なところで人を信用するわね」


「信用っていうか、今は待つしかないからな」


 モネはしばらく総一を見つめた。


 こういうところなのだろうと思う。


 無茶をするくせに、妙なところでは楽観的で、危険な場所へ平気で飛び込む。


 それなのに。


 あの夜のことを思い出す。


 自分の首元に刃が当てられていたとき、総一は迷わなかった。


 恐れる様子もなく、一瞬で自分を助け出した。


 あのときの腕の感触まで、まだ妙に残っている。


「そういえば」


 総一がモネの顔を覗き込んだ。


「家、直ったか?」


「まだ。扉が完全には直ってないわ」


「俺がもう少し早く着いてればな」


「そうね。誰かさんがもう少し早ければ、壊されずに済んだかも」


「助けた人間に言う?」


「助けてもらったから、この程度で済ませてるの」


 モネはそう言いながら、口元を少し緩めた。


 総一も笑う。


「まあ、モネに傷がなくてよかったよ」


「……」


「美人の顔に傷でも残ったら、ビジュール全体の損失だからな」


「本当にあなたって……」


「なんだよ?」


「何でもないわ」


 以前なら、また始まったと思って聞き流していただろう。


 今は少し違う。


 格好をつけたかと思えば、次の瞬間には全部台無しにする。


 そんな馬鹿な言葉まで、不思議と嫌ではなかった。


 むしろ困る。


 総一の顔を見ると、少しだけ安心してしまう自分がいる。


「そういや腹減ったな」


「……今?」


「朝から何にもに食ってない」


「私、今ちょっと大事なこと考えてたんだけど」


「考えながら食えばいいだろ」


 モネは一瞬黙り、それから吹き出した。


「あなたねえ……」


「何か美味い店知らない?」


「仕方ないわね。案内してあげる」


「さすがモネ。美人で優しい」


「はいはい」


 軽く流したつもりだった。


 それでも、その言葉が以前より少しだけ胸に残った。


 ◇


 その頃。


 山中の拠点では、まるで別の時間が流れていた。


「田端総一は?」


 浮かぶ椅子に座ったまま、ジャネストが尋ねる。


 キャナルは手元の報告書から顔を上げた。


「現在もビジュールにいます」


「何をしている?」


「モネという女性と食事を」


「……女と?」


「はい」


 ジャネストは静かに頷いた。


(よし)


(その女とできるだけ長く食事していてくれ)


 もちろん顔には出さない。


「撤収準備を急がせろ」


「すでに重要資料の搬出を始めています」


「魔道具と資金は?」


「今夜中には」


「レベルストーン関連の記録は?」


「最優先で処理中です」


 ジャネストは壊れた外壁へ目を向けた。


 総一たちが結界を破り、この場所へ侵入した時点で、拠点としての役割はほとんど終わっている。


 問題は、自分の判断だけで捨てることができないということだった。


「ベルガ様への連絡は?」


「先ほど返答が届きました」


 キャナルが一枚の紙を差し出す。


 ジャネストは内容へ目を通した。


 短い文だった。


 拠点放棄を許可する。


 それだけ。


 だが、それで十分だった。


「よし」


 ジャネストの目つきが変わる。


「二日以内に撤収する」


「三日ではなく?」


「二日だ」


「承知しました」


 キャナルはすぐに踵を返しかける。


「待て」


「はい」


「一日でできるか?」


 キャナルが少しだけ考えた。


「可能です」


「……できるのか」


「諜報部隊を甘く見ないでください」


 ジャネストは僅かに目を細めた。


(頼もしい)


(今だけはものすごく頼もしい)


「なら一日だ」


 砦の中で一斉に人が動き始めた。


 荷物が運び出され、資料が処分され、地下に保管されていた物資も次々と姿を消していく。


 この場所に何があったのか。


 何をしていたのか。


 残せる痕跡は、できる限り消す。


「田端総一への連絡はどうしますか?」


 キャナルが尋ねた。


「まだ必要ない」


「ベルガ様がお戻りになれば知らせる、でしたね」


「約束は守る」


 ジャネストは静かに答えた。


 嘘はついていない。


 ベルガ様が戻れば知らせる。


 ただし。


 ジャネストは、騒がしく動き始めた拠点を見渡した。


(その頃には、我々はここにはいないがな)


 ビジュールで総一がモネと笑っている頃。


 山の奥では、魔王軍の拠点が音もなく消え始めていた。

最後までお読みいただきありがとうございます!


今回は久しぶりにモネとの時間。


最初に出会った頃とは少し違い、モネの中でも総一の存在が変わり始めているようです。


そんなことをまったく気にせず「腹減った」と言い出すのが総一ですが(笑)。


そして、その頃のジャネスト。


総一との約束は守る。


でも、拠点を残しておくとは言っていない。


ベルガから許可も下り、まさかの一日撤収が始まりました。


果たして総一がこの事実を知ったとき、どんな反応をするのでしょうか。


次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。