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『最強探偵、異世界で攫われた相棒を探す旅に出る』  作者: れいじ
第二章 宝石の街と透明な石

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第34話 勝てない相手

ベルガ不在の拠点で、総一たちの前に立ちはだかったジャネスト。


ベルガの右腕を務める大幹部は、果たしてどれほどの力を持っているのか。


そして総一は、魔王へつながる情報を手に入れることができるのでしょうか。


今回もよろしくお願いします!

ジャネストの周囲に集まっていた魔力が、一気に膨れ上がった。


 浮かぶ椅子に深く腰を掛けたまま、右手をゆっくり持ち上げる。


「まずは、挨拶代わりだ」


「ずいぶん物騒な挨拶になりそうだな」


 総一が肩をすくめた直後だった。


 頭上に巨大な魔法陣が広がる。


 白い光が走った。


「来るわ!」


 マリンが叫んだ。


 轟ッ!


 空から落ちた雷が、総一たちをまとめて飲み込んだ。


 大地が激しく揺れ、周囲の岩が弾け飛ぶ。近くの木には雷が走り、幹が黒く焼け焦げた。


 挨拶などという威力ではない。


 ジャネストは最初から殺すつもりだった。


 だが。


 雷光が消えたあと、そこには半透明の障壁が残っていた。


 総一、シン、サリー、ナバル。


 全員が無傷だ。


 その中央で、マリンが右手を前へ出している。


「いきなり何するのよ」


「……ほう」


 ジャネストが僅かに目を細めた。


(いやいやいやいや、待て待て待て)


(今のを防いだのか?)


 かなりの魔力を込めた。


 普通の人間なら、防御魔法ごと消し飛ばせる威力だった。


 それを。


(簡単そうに止めるな!)


 しかもマリンは息すら乱していない。


(なんだ、このエルフ。どんな防御魔法だ。障壁がほとんど揺れていないぞ)


「マリン、大丈夫か?」


「これくらいなら平気」


(これくらい!?)


 ジャネストの眉が動きかけた。


 寸前で止める。


「相当な使い手のようだな」


(相当どころではない!)


 だが、これで一つ分かった。


 先ほどの攻撃を防いだのはエルフだ。


 田端総一本人の防御力を確認できたわけではない。


(ブラックゴーレムを素手で破壊したという報告は受けている)


 ならば。


 ジャネストが人差し指を総一へ向けた。


 周囲の空気が一気に冷え込む。


「今度は俺か?」


「避けたければ避けろ」


 冷気が一点へ集まり、ジャネストの前に巨大な氷の槍が作り出された。


 鋭く尖った穂先。


 そこへさらに魔力が流れ込む。


 マリンの表情が変わった。


「総一、それは避けて!」


「そんなに危ないのか?」


「見れば分かるでしょ!」


(そのエルフには分かるか)


 ジャネストは口元を僅かに上げた。


 今度は先ほど以上に魔力を込めている。


 人間の身体など、鎧ごと貫く。


「行け」


 氷槍が消えた。


 そう見えるほどの速度だった。


「総一さん!」


 シンが叫ぶ。


 次の瞬間。


 ガシッ。


「……」


 ジャネストの目が止まった。


 総一は一歩も動いていなかった。


 ただ右腕だけを前へ伸ばしている。


 その手に。


 氷の槍が握られていた。


「危ねえな」


(は?)


 ジャネストの頭から、一瞬だけすべての思考が消えた。


(え?)


(待て待て待て待て待て)


 避けたのではない。


 弾いたのでもない。


 防御魔法でもない。


(掴んだ?)


(今、素手で掴んだのか!?)


 総一が手の中の氷槍を眺める。


「これ、当たったら死ぬだろ」


「……そのつもりで放った」


「やっぱりかよ」


(なんだこいつ!?)


(本当に人間か!?)


 報告では聞いていた。


 ブラックゴーレムを素手で倒した。


 異常な身体能力を持っている。


 だが。


(報告した奴! もっと必死に説明しろ! 全然足りてないぞ!)


 表情は崩さない。


 ベルガの右腕として、ここで動揺を見せるわけにはいかない。


 心の中では、とっくに鼻水を垂らしていた。


「これ、どうする?」


「好きにしろ」


(静かに捨てろ!)


 総一が氷槍を握り込んだ。


 バキッ。


(ん?)


 亀裂が走る。


 バキバキッ!


 氷槍が総一の手の中で粉々に砕け、破片が地面へ落ちた。


(だからなんでそうなる!?)


 ジャネストは数秒だけ黙った。


 そして。


(勝てん)


 結論は早かった。


(よし、話し合おう)


 周囲に満ちていた魔力が、すっと消える。


 総一が首を傾げた。


「もう終わりか?」


「十分だ」


「ずいぶん急だな」


「勝算のない戦いを続けるほど、私は愚かではない」


 総一が少し意外そうな顔をする。


「……急にへりくだったな」


「現実を認めただけだ」


(誰がこんな化け物と戦うか!)


 ジャネストは椅子に腰掛けたまま、総一を正面から見た。


「田端総一。取り引きをしないか」


「取り引き?」


「お前が求めている情報について、私が知る範囲で話す」


「随分と話が変わったな」


「その代わり、お前が仲間を説得し、この場から退いてほしい」


 シンが剣を握り直した。


「僕たちに、この拠点を見逃せということですか?」


「少なくとも今はな」


 ジャネストの視線がシンへ向く。


「一つ言っておく。現在、我々は人間たちと全面的な戦争をするつもりはない」


「それなら採掘場に魔物を送り込んだのは?」


「我々だ」


 ジャネストは否定しなかった。


「レベルストーンを集めるために、人間の採掘を止める必要があった」


「十分、攻撃してるじゃない」


 マリンが冷たく言う。


「人間側から見れば、その通りだろう」


 言い訳をしない返答に、シンが僅かに眉を寄せた。


 総一はジャネストを見ながら口を開く。


「薫については?」


「花咲薫という女だったな。私は知らん」


「魔王ダグラスに連れていかれた」


「それでも知らないものは知らん」


 嘘をついている様子はなかった。


「じゃあ、誰なら知ってる?」


「ベルガ様だ」


 総一の目つきが変わる。


「四天王の?」


「ベルガ様なら魔王様と直接話す機会も多い。お前の求める情報を持っている可能性は、私より遥かに高い」


「いつ戻る?」


「分からん」


「そこが一番大事なんだけどな」


「私とてベルガ様の行動をすべて把握しているわけではない」


 ジャネストは少し考え、砦の奥へ顔を向けた。


「キャナル」


 返事はなかった。


 だが次の瞬間。


「お呼びですか」


「うわっ」


 総一が思わず振り返る。


 少し離れた場所に、一人の女が立っていた。


 黒い毛並み。


 しなやかな身体。


 黒豹を思わせる顔立ちをした魔族の女だった。


「いつからいた?」


「少し前から」


「全然気づかなかったな」


 キャナルは答えず、静かに総一を見返した。


「彼女はキャナル。諜報部隊の隊長だ」


「諜報ねえ」


「ベルガ様がお戻りになれば、キャナルを使いとしてビジュールへ送ろう」


 総一がジャネストを見る。


「俺を見つけられるのか?」


「問題ありません」


 初めてキャナルが答えた。


「あなたの行動は、以前から調べていますので」


「……俺を見張ってたの、お前の部下か」


「はい」


「それはどうも」


 総一の声には、まったく感謝がこもっていなかった。


「それまではビジュールで待っていてもらいたい」


 ジャネストが続ける。


「ベルガ様がお戻りになるまで、この周辺での活動は停止する。採掘場にも魔物は送らん」


「森は?」


 マリンがすぐに聞く。


「魔物を放つこともやめよう」


「私の家の近くにも来ない?」


「必要がなければ」


「必要があっても来ないで」


「……分かった」


(なんで私が怒られているんだ)


 総一はマリンを見た。


「それなら少し待ってくれないか。ベルガって奴が薫のことを知ってるかもしれない」


「……」


「話を聞いてからでも遅くないだろ?」


 マリンは壊れた砦を見上げた。


「そのあとなら壊していいの?」


「俺に聞くなよ」


(私の前でその相談をするな!)


 ジャネストは表情を変えなかった。


 シンも考えた末、剣を鞘へ戻す。


「本当にビジュール周辺への攻撃を止めるなら、僕も待ちます」


「決まりだな」


 総一がジャネストを見る。


「ベルガが戻ったら、必ず知らせてくれ」


「約束しよう」


 その言葉に嘘はなかった。


 ベルガが戻れば、知らせる。


 ただし。


(その時まで、この拠点がここにあるとは言っていない)


 ジャネストは崩れた外壁へ目を向けた。


 必要なのは時間だ。


 この拠点を維持するのか。


 放棄するのか。


 それを決めるのは、自分ではない。


 ベルガの許可が必要だった。


(まずはベルガ様に報告する)


 そのためにも。


(頼むから、さっさと帰ってくれ)


 そんな本音を欠片も顔に出さず、ジャネストは静かに総一たちを見送った。

最後までお読みいただきありがとうございます!


ベルガの右腕ジャネスト、本格登場となりました。


強力な魔法を操る実力者ですが、総一とマリンを相手にして早々に方針転換。


無謀に戦い続けるのではなく、勝てないと判断したら即座に交渉へ切り替えるあたり、ベルガが拠点を任せるだけの人物なのかもしれません。


そして諜報部隊を率いるキャナルも登場しました。


総一たちはベルガが戻るまで、いったんビジュールで待つことに。


薫へつながる新たな手掛かりとなるのか。


引き続きよろしくお願いします!

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